基本的には単行本派なんですけど
囀る鳥は羽ばたかない」ともうひとつは
どうにも気になって雑誌も買っちゃうんですね。

毎話、ものすごく考察しがいのある展開でね
あっちこっちで様々な解釈のネタバレ考察が飛び交っていて
そういうのを読むのも楽しいんですけど
せっかくだから自分の考えも吐き出してまとめたい。

その前にアレかな、既刊の覚書もまとめといたほうがいいのかな
単行本ごとに

とうっかり考えたらそうしなくてはならない気になって
1巻ごとにつづっていくことにしてみました。
先は長い…
でも言いたいこといっぱいだからさ!!

考察・感想サイトの皆さんとかSNSとか
それぞれ感じること・想うことがバラバラだったりしておもしろいんですよね「囀る」。
ヨネダさんのインタビュー記事にあったけどあえてふわっとさせてる節もあり
いろいろな深読みができる感じでだからこそ
考察しがいもあるし語りたい気持ちにもなるんですよね。

前置きだけで長くなりましたが
そんなわけで「囀る鳥は羽ばたかない」1巻の私的ネタバレ覚書

※覚書なのでね。登場人物の心情とかストーリー解釈とかは
 あくまで個人の見解です。

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ドMで変態、淫乱の矢代は、真誠会若頭であり、真誠興業の社長だ。
金儲けが上手で、本音を決して見せない矢代のもとに、
百目鬼力が付き人兼用心棒としてやってくる。
部下には手を出さないと決めていた矢代だが、
どうしてか百目鬼には惹かれるものがあった。
矢代に誘われる百目鬼だが、ある理由によりその誘いに応えることができない。
自己矛盾を抱えて生きる矢代と、愚直なまでに矢代に従う百目鬼。
傷を抱えて生きるふたりの物語が始まる──!

 

(作品紹介)

 

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まずこの話のおおもと、読切のDon't stay gold

矢代・百目鬼じゃなく
内科医の影山と
年少あがりの「狂犬」久我がメイン。
矢代は影山の友人でヤクザというサブキャラ。
久我を組に入れて自分の部下に欲しがっているけど
と同時に影山とデキるようにけしかけた感じ。

影山は矢代の挑発に乗ってなし崩しに久我を抱いて
そのまま恋人になったけど
お互いノンケでそんなふうになるもんなの??
よっぽどいろんな相性が良かったのかしらね。
どちらかがゲイで、ていうのはよくあるパターンだけど。

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本編は冒頭の読切の続き。
ここから矢代が主人公の長くて心をえぐる物語がはじまる。

矢代は真誠会の若頭。
ドMで変態、淫乱

単行本の裏表紙にも記されてる矢代の紹介文。
これが食わず嫌いていうか読まず嫌いのもとだったんですよね…
偏見を振り切って読んだ自分をほめたい。

金と体で飼ってる刑事とヤッているところに入ってきてその行為を止めた男。
刑事の腕をひねり上げて

「大丈夫ですか」

百目鬼力と名乗った男はその日から付き人兼用心棒として矢代の部下になる。
「淫乱」だけど部下には手を出さないと決めている矢代は
なぜか出会ってすぐに百目鬼のナニをシャクる。
でも百目鬼は反応しない。インポだから。
反応しない百目鬼のものを、矢代は何度も咥え込む。

百目鬼は矢代を綺麗な人だという。
系列の金融会社にいたころ矢代を見かけた時から綺麗だと思っていたと。

真誠会の親団体・道心会の若頭である三角は滅茶苦茶な生活から矢代を拾い、気に入りかわいがって自分の組に引き入れ、いずれは自分の直属の部下にしようとしてる。
矢代を溺愛している三角は百目鬼をひと目見て矢代の好みと見抜いてクビクビ言うけど
すごいなその洞察力。

百目鬼の勃たないモノをシャクったり
百目鬼に見せながら刑事としたり
俺ってこんなに淫乱で変態だよと言わんばかりのことをする反面
おんぶにキュンとしたり
「おつきあい」のイメージが貧困だったり(だっさいTシャツのペアルックとか)
矢代の恋愛偏差値の低さがエグイ。

矢代はまともに恋愛したことがない。当然ふつうのおつきあいもしたことない。
だからわからない、好きになった人にどう接すればいいのか。
とりあえずそばにおいてシャクってみるとか…そんなあんた…

「いつから男を好きになったのか」という百目鬼の質問に
男を好きになったことはないと言う。一度だけ”人間”に惚れたと。

矢代にとって影山は「男」じゃないのね。人間なのね。性別じゃない。
その影山と百目鬼が似てると言う。大柄な体、朴訥で無口で。
見つめる目が冷めてるようで、でも決して冷ややかではないところもかな。

百目鬼の義妹・葵ちゃんの登場で
百目鬼が4年も服役していた理由、インポになった原因が明らかになる。
百目鬼にとっては実の父親が義妹にしていた性的虐待を目撃、
暴力で止めた。

何年もそのことに気づけなかった自分を責め、心の傷で性的不能に。
義理の父親からの性的虐待 というパワーワード。

たとえ血がつながっていても好きになってた、と言って泣きじゃくる義理の妹を見つめながら矢代は過去の自分とシンクロさせる。
影山を思って、でもどうにもならない思いに泣きつくした過去の自分。
矢代は百目鬼を組から抜けさせ、妹のもとに返そうと考える。
それもひねくれた手を使って。百目鬼を傷つけると見せかけて矢代自身が傷つくやり方。

自分と同じ目に遭っていた百目鬼の義妹。
百目鬼がその状況から彼女を助け出した。
自分には…助けてくれる人もいなかった。

でも百目鬼は妹の元に戻るより、矢代のそばにいることを選んだ。

お風呂のシーンはいろんな意味で重要。後々までいろいろと。
墨を入れていない矢代の背中、髪に触ってみたかったという百目鬼、
側においてほしい、なんでもする、こんなに誰かに惹かれたことはないという百目鬼に
百目鬼が好みど真ん中とさらっと言う矢代、
自分に抱かれたいと思うのかという百目鬼の問いの答えは
「お前は優しそうな普通のセックスしそうだから嫌だ」

相容れない感じしかしない真誠会の組長・平田、
過去に因縁ありそうな松原組の竜崎、
チラチラと顔見せして2巻に続く。


こんな序盤にお互い相手に惹かれてるって

さらっと言ってるじゃん!

恋愛、までたどり着いていないけど
奇妙な距離の近さはあるのよね。
膝枕(あれは股枕だよねえ)で寝ちゃうとか
百目鬼が勃たないからその先に進まないフェラとか

あと義妹を元カノと勘違いして(なんで七原は元カレと思ったのか)
兄妹と知ったときの矢代が妙にかわいいです。
明らかにホッとしたよね?

 

それと

矢代と百目鬼の出会い(過去に見かけたとかじゃなく、ちゃんとね)は

「矢代と刑事のセックスを百目鬼が止めに入った」

これってかなり重要かなと思ってます。

大丈夫ですか、と言った百目鬼は矢代が無理矢理されてると判断した。

矢代は直前に影山に怒られて、自分が仕掛けたくせに久我とのことも傷ついていて

やるせない気持ちを紛らわせるために刑事を呼んだわけだから

無理矢理やられてたわけではないんだけど

これが矢代にとって

「男にやられてるところを助けられた」のが初めてだとしたら。

だって自分からそうやってずっと淫乱で変態のレッテルを見せつけてきたから

好きでやってると思うじゃん。

本当は、無自覚だけど本当は誰かに助けてほしかったんだとしたら。

たぶんここでもうすでに矢代は百目鬼に惹かれたのかなと。

百目鬼は百目鬼で葵ちゃんのこともあり、見た瞬間手が出た感じかな。

綺麗なあの人が襲われてる。助けなきゃ。みたいな。

ヤクザ物につらい過去とかもからみつつ
ふんわりやわらかいシーンでto be continued、
嵐の前の静けさ。

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発表順では次の読切、「漂えど沈まず、されど鳴きもせず」
えぐいはじまりだけどおそろしくせつない。
矢代・影山高2のお話。
短くまとめられなかったよ!長いよ!!

冒頭で語られる矢代のモノローグ
「人間は矛盾でできている」
一般的にも言えることだけど、これは矢代の鎧というか殻というか。

矢代は息を吸って吐くようにウソをつく。
本来、言葉に出さない本心を語るモノローグすらウソを交えるから非常にわかりづらい。
でも「人間は矛盾でできている」からね……
モノローグと行動、心の変化も矛盾ばかり。

この話で明らかにされる矢代について:
 

9歳のころから中学の終わりまで義理の父に性的虐待を受け続けていたこと。
どちらもいけるバイであること。
セックスの際、女性に対してはドS、男とするときはドMであること。

でも人を好きになったことは一度もないこと。

両手を縛られ、猿轡かまされ、ひどい暴力をも受けながらのセックス。
それが好きだと、女とするより男にされるほうが好きだという。
でもそういう虐待を受けた人がそんな行為を好きなわけがない。
それもまた矛盾。

そんな矢代が唯一の友人・同級生の影山に恋をする。
影山の父の告別式に駆け付け、
来てくれてありがとうと泣きそうな顔で微笑まれる。
たぶん…そんなふうにありがとうと言われたこともやさしく微笑まれたことも
それまでなかったのかな。
身も心もぼろぼろの矢代はそれだけで恋に落ちた。

そしてその気持ちを、恋愛感情を「歪み」と認識するのが悲しい。
矢代は感情もない、特定の相手もない、自傷的なセックスしか知らない。
はじめての恋をまともに受け入れられない。

たとえ恋と認めても、その気持ちをどうすることもできない。
想いを伝えて拒否られたら、うすはりガラスより脆い矢代の心は耐えられない。

思い余って影山のコンタクトケースを机からこっそり盗んだりするところも何とも言い難くせつない。
でもこういうの、ちょっとわかる…いや、盗んだことはないけどね。
好きな人のものって大事にしませんか。
相手がなんの思い入れもなくくれたものでも。

やがて影山に彼女ができ、傷ついた心を持て余し、
適当な男とホテルに行ったところを同級生に見られ、
学校でからかわれているのを影山に聞かれ
同級生の口をキスで封じ、ついでに股間も攻撃して停学。

停学が解けてから学校の屋上で話すふたり。
影山は医学部に進学。
てことは進学校。矢代も頭いいことがわかる。
他愛のない会話が途切れると、絞り出すように影山が言った。

「お前を可哀想だと思っている」
「お前はひとりだからだ」
「俺はお前が大事だ、親友として」


矢代はわかりやすく「変わってるやつ」だけど
実は影山も変わってる。火傷跡フェチだったり。
影山は矢代に「いわれのない共感」を抱いていた。
お互い友人がほかにいなくてひとりだったこと、
怪我が絶えない男と怪我・火傷フェチな男。
他人に興味がないふたり。

でも影山が矢代に対してい抱いた感情は「親友としての友情」
そして「可哀想」
好きな人からの かわいそう はきつい。かなりきつい。ものすごくきつい。

影山の言葉を笑い飛ばした後、
ひとりの部屋で泣き崩れる矢代にもらい泣き。
影山のコンタクトケースを握りしめ、
あふれてこぼれ続ける涙におぼれながら

好きになった人に「親友」と言われたこと。
親友だけど可哀想と思われていたこと。
おまえはひとりだと言われたこと。

義理の父親から性的虐待、実の母親からネグレクト、
愛を知らずに育った少年が
初めて人を好きになったと同時に孤独を知ることになるなんて。

寂しい、でも寂しいと思いたくない。
恋しい、でも気持ちは届かない。

本音を心の奥底、自分でも見えないところに押し込んで。

ここから20年近く拗らせていくわけですね。影山への気持ちを。
運命の男に出会うまで。


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自分の体をめちゃくちゃに扱う、扱わせる矢代の過去。
軽薄で奔放、ドSでドМ、変態で淫乱、という鎧に隠された
繊細で純情、臆病でネガティブな本質がわかるエピソード。

その辺を知ってしまうと自傷行為的なセックスシーンが痛々しい。
どれだけドМで変態・淫乱と繰り返されても
…と、見せかけてる人なんですよ、と自動的に注釈を入れてしまう。

過去、近い過去、そして今。

矢代のそういうところがぎううううっと詰まった1巻です。