土曜日からずっと吐き気→何を食べても吐く、の繰り返しだった。
ベッドから出ることも出来ず、横になる。
振り返れば一ヶ月以上吐き気を抱えている。
ウィダーインゼリーとスポーツドリンクで誤魔化す。

日曜になっても吐き気は治るどころか更に悪化。
ごまかして飲んでたスポーツドリンクすら口に入れたら吐いてしまう。
義父が長女を囲碁に連れて行き、妻は次女と出かけた。一人ベッドで苦しむ。もはや階段を登る体力も無くなっていた。

家族が戻ってきても回復せず、夕方、妻と長女が空手に行って帰ってきたタイミングで、寝てることすらしんどく感じるようになり、妻に119番をかけてもらう。

サイレンの音とともに五分ほどで救急車が来宅。症状を伝え妻と乗り込む。
ところが。
受け入れ先が決まらない。
区内の総合病院全てに断られた。
よく聞く話ではあるが、苦しんでる横で救急隊員が電話を断られるのを聞くのはしんどい体験だ。
「近くではここが最後なのですが…わかりました。それでは他にあたります。」
隊員さんが電話を切ると僕に向かって。
「ここだけは断らない、と言う最後の砦に頼みます。ここから30分ほどかかりますが」
そう。
他で断られた患者を受け入れる病院はある。
国立なのがその理由でもある。
行き先が決まったのは1時間以上。もっとかかる場合もザラだ、と言う。

救急隊員の対応には本当に敬意を表する。
いたずらに119番をしてはいけない理由がよく分かった。

僕は横になって気持ち悪いままなので、どこをどう移動してるかは分からないけど、最後の砦に救急車が滑り込むのを感じた。
担架を下され、凄い勢いで運ばれていくと赤い服を着た看護士さん達に囲まれた。

久しぶりに吐く為のバケツが手元に戻ってきた。
バケツイズマイフレンド。
9年ぶり、僕はまたバケツに吐いていた。

採血され、点滴の管が入る。レントゲンを撮られる。
吐き気どめを投与される。
白衣の女性と看護士達が色々と相談している。

今回は糖尿病性ケトアシドーシスと診断された。
しかもかなり進行していて危険な状態だと説明された。腎臓が悪いのもあり、要因も色々考えられる。
先日もRAS-Gが糖尿病の合併症で他界していた。
沖縄で分かりやすく吐き気を伴った症状が出ていたが、その時には既に入院しなければいけなかったようだ。忙しさとアドレナリンでごまかしてしまっていた。
高血糖でエネルギーが取り込めなくなり、脂肪を燃やした残りカスがガスになって体内に溜まる。
それが吐き気に繋がり、体力はどんどん落ちる。

ガス欠の車でずっと運転していて、遂に動かなくなったようなもので、エンジンもボロボロになってしまっている。

胃腸炎、溶連菌など近所の内科に言われて薬を処方してもらってたがそれは表層的なことで、中ではこんな事になっていた。それでも原因がわかれば気持ちは幾分かは楽になった。

バケツに吐きながら周りを見る余裕が出てきた。
次々と患者が運び込まれ、看護士達が相手していく。子供から老人まで、そして日本語が話せない外国籍の人も。内科も外科も。

隣の男性はずっと大声で痛い!痛い!と叫んでいる。
大変そうだなー、と自分の事も忘れて思ったが、看護士さんがパタパタと彼の元に走り寄ると。
「○○さん、今、検査結果を調べたんですが。外傷はありません。そして、数値を見ても全て正常なので…」
えええーっ? めちゃくちゃ痛そうですよ?

すると、今度は頭から血を流した男性が警官に囲まれてやってきた。
「落ち着いたら話聞きたいから呼んでください」と警官が看護士に話してる。
おおーっ!

日本語も英語もが話せない人から名前や出身地を看護士がなんとか聞き出そうとしている。

慌ただしくストレッチャーで運ばれていく重症の方がいる。

そんな中で横になり、バケツに吐き続けてる僕。
カオスだ。騒然としていて、様々なエネルギーが渦巻いている。
看護士さんがやって来て医師と入院ですね?と確認していた。
そこから僕に向かって。
集中治療室に入って頂きます!
と言ってきた。

「貴重品は奥様に持って帰ってもらってくださいね。」
もともと身一つで来てしまっていたが、頷く。
看護士は
「実は盗難が多いんです。ここは常に混乱してるので…」と言う。
わー。
ふと、履いてきたサンダルがナイキなのを思い出した。
「靴は…大丈夫ですか?」
看護士は笑いながら
「靴の被害は今のところありませんよ!」
と答えてくれた。

ベッドが用意できたらしく、病棟に移動。
「また来ちゃったなー」なんてヘラヘラ妻に言っていたが、看護士さんから。
「あなたが思ってるより事態はかなり深刻ですよ!」と怒られた。

集中治療病棟はベッドがずらりと並び、24時間体制で患者を診られるようになっていてその一角に運び込まれた。
そしてここで動脈カテーテルと尿管の管を入れられるのだが…
入れる前に「激痛ですよ」とは言われたんですが。
それでも、うあっ!と声が思いっきり出てしまった。
動脈は麻酔しても異物感がグイグイっと。
そして尿管は…極限に弱ってるし、羞恥心もないのだが、しかし。
きゃー。
で、更に心電図や酸素や色々測るものが次々と装着され身動き取れない。
というか動脈カテーテルは抜けたら出血が大変なので動くときは言ってください!と念を押された。
というか、動く体力もない。

妻が書類などの記入を終えて帰るよ、と言ってくれた時には病院に着いてから5時間は過ぎていた。

そして僕は意識が朦朧としてきてそのまま寝てしまった。

前回の入院はこちら。


宇宙平和