嘔吐。

嘔吐。

アンワル・コンゴが思わず吐き気を抑えられなかったあの心境は・・・

果たしてどういったものなのだろうか?

自身が、誇らしげに語った、1000人もの人間を虐殺した過去。
主人公アンワル・コンゴは最初。
「いやな気分になったら踊ればいいんだよ」と、
殺害現場の再現をしたあとでステップを踏んでみせた。
いまだインドネシアでは反共の英雄として讃えられる、彼ら虐殺者は・・・

どこにでもいる愉快な爺さんやおっさんであった。

65年の軍事クーデター未遂後(このクーデターの真相は謎のままです)、
権力の座についたスハルト大統領が共産党を糾弾。
100万とも200万とも言われる共産主義者(と思われた者も多数含む)が殺された。
実際に殺害を担当したプレマンと呼ばれるヤクザたちは。
いまも街の有力者だったり、青年団の将校だったり、金持ちだったり・・・

監督のジョシュア・オッペンハイマーが語る。
「ナチスドイツが勝利したらドイツにもこういう光景が広がっていたのだろうか?」

ドキュメンタリーである。
目の前で。
実際に1000人もの人間を殺した男が。
自分の「偉業」を再現する映画を制作する。

先日読み終えたハンナ・アーレントの「イエルサレムのアイヒマン」で指摘された。
悪の凡庸さ。
ユダヤ人を民族ごと消し去ろうという人類史上最悪の犯罪に従事した男は。
どこにでもいる、つまらない小役人のおっさんだった。
言われたからやっただけだ。命令に従ったまでだ。

大魔王であれば分かりやすかった。
どう見ても凶悪な人間であればよかった。

でも、彼は。
そして、アクト・オブ・キリングに出てくる虐殺者たちは。
普通の人々なのだ。
つまり、僕であり、あなたであり、近所のおっさんなのだ。

その恐怖・・・
このことを肝に銘じて生きる、それがいかに大切なことか。

今年、1本だけ映画を観るならば。
アクト・オブ・キリングをおすすめします。

決して娯楽映画ではないです。
ただ。

おっさんたちの余りの無邪気さ、間抜けさに・・・
笑ってしまうのです。
そして、その事実に恐怖してしまうのです。

悪とは凡庸であり、陳腐であり、そこらに転がっていて。
際限なく突き進んでしまう。

果たして、あの場にいて。
反対の声を上げることが出来ただろうか?
殺される側に回ってしまうのだろうか?
虐殺に加担してしまうのか?



この映画公開後、インドネシア政府が公式に虐殺は間違いであったと認めました。
ただし、この映画にも登場する人たちが失脚するような事態にはなっていません。
もっとも、映画内でも女装したり、立候補したりともっとも「笑って」しまう行動を取る、現プレマンのリーダーのヘルマン氏はインドネシアで唯一この映画の公開に協力したようです。

以前、韓国映画の「トガニ」が公開されたことにより、障害者学校での児童虐待が暴かれました。

映画にはそんな力もあります。
それも、観客がいて、観たことから色々考えていくからだと思います。

この映画は絶対観るべきでしょう!

ちなみに・・・当時のインドネシア政府の共産主義者虐殺はアメリカを始めとした西側諸国の支援がありました。日本も当時からインドネシアを支援してきた背景があります。他人事では・・・ないですね。

ジョシュア監督とデヴィ夫人と町山さんによるトークショー


このあと、日本のマスコミが一切デヴィ夫人の話の内容を報じなかったことに町山さんがキレてましたね・・・

ちなみにマイカデリックのとある新曲のことが頭に浮かび、大変申し訳ない気分になったりもしましたが・・・

劇場に行ったら、ちょうど見終えた弟が出てくるところに出くわしました。

アクト・オブ・キリング、必見です。