先日、僕の不用意で浅薄な発言によりかなり多くの人に不快な思いをさせてしまいました。
本当に申し訳ありません。
つくづく、自分の不明を恥じるのみです。
ただ、やり取りの中で気づかされたり、学ぶことも多々ありました。

そこで改めて、自分の言いたいことをここでまとめておきたいと思います。
ツイッターでも連投の中で語ろうと思ったのですが、字数の問題などからどうしてもぶっきらぼうになってしまい、そんなツイッターの特性を理解してなかったのもまた短慮としか言いようがありません。

発端は、中古市場で、とても簡単には払えないような金額で取引されるレコードを見たことです。
最近ではCDでも廃盤になってるものも多く、高額なものも目立ちます。
かたや、個人的には非常に格好良いと思える楽曲も100円の、いわゆるエサ箱に放り込まれているケースも珍しくありません。まあ、僕のレーベルの作品もここの常連ですね。
で、これは仕方ないことです。なぜならそれは「モノ」である以上、流通量、手に入りやすさ、或いは盤面、ジャケやケースなどの状態で値段は変わります。
僕は多くのお店が良い音楽を届けるために努力しているにも関わらず、一緒くたに考えの足りない言葉でまとめてしまいました。
ただ、格好良い曲であっても、高額な値段で簡単に聴けない。あるいは、格好良い曲であっても、膨大な100円レコードの山に埋もれて手に取ってもらえない。そこにモノとしての悲哀をどうしても感じずにはいられません。
そして、中身の音楽いかんではなく、モノとしての価値で取引されるのもまた止む無きことです。

かたや、これも引き合いに出したことで過激な印象を与えたかもしれないんですが・・
握手券つきのCDというものが、僕に突き付けたひとつの現実は。
CDは「モノ」である、ということです。
昨今のCD不況の中で、モノであるCDを売るためには当然様々な施策がなされるわけです。
DVDをつけてみよう。写真集をつけてみよう。デジパックにしてみよう。Tシャツをつけよう。ボーナスCDRをつけてみよう。特典バッジをつけてみよう。僕もあれこれ試しました。
そんな試行錯誤の中で、出された答えの一つが握手券つきCDだと思います。
これまた、中身の音楽いかんではなく、モノに付加価値をつけて売るということです。で、なんせCDだけでは売るのが大変なので、ビジネスとして考えたら当然対策をとる。
結果、売れてるわけですから一つの正解ではあるのでしょう。
でも、そこにもやはりモノとしての悲哀を強く感じます。

こうした事態は、モノを扱う以上どうしても出てくることだと思います。

一方、音楽産業はレコードからCD、からMD、とずっとソフトのコンパクト化を目指してきました。その究竟の到達地点はデータです。重量も厚みも0。
ところが0になった途端、モノでは無くなってしまいます。そこに音楽産業自体が戸惑ってしまっている感は強いです。レコード会社は長年モノを売ってきたからです。
最早何を売っているのかも分からない状況が散見されるのも、モノということに固執するからこそだと思います。

音楽、書籍、映画、あるいはアート作品など。娯楽はたくさんありますが、僕はひとつの見方として、音楽はいち早くモノから解放されたと言えるとも思います。
それを利点として考えられないか?

ここでレア盤や廃盤に話が戻りますが。
レコードやCDが廃盤になってしまう背景には様々な事情があります。
ただ、大きな要因の一つにモノとしての経費が考えられます。
作るのにも金がかかり、また在庫として抱えるのにも金がかかります。
流通させるのにも送料などの金がかかります。
それでも売れれば元は取れるし儲けも出ますが。
昨今はモノが売れない。そうすると、大量に売れる可能性のある商品でなければ、すぐ廃盤になったり、そもそも作られなかったりします。
ちょっと前に紙ジャケなどで再発されてCDで聴けるようになった音楽も、あっという間に入手困難になってしまいます。
入手困難なモノこそ欲しい!という方もいるでしょうが、それこそモノであるがゆえの考え方です。

こうして入手困難になってしまった音楽は、触れる機会も少なくなります。

音楽のデータ化の一つの弊害として挙げられるのが違法ダウンロードの存在だと思います(先日、バンドアイアン・メイデンの画期的な違法ダウンロード対策の話も知りましたが、それはまた別の機会に)。
正規で買うことの出来ない音楽は、高い金を払うか・・・・あるいは違法でアップロードされたものにアクセスするくらいしか所有する方法がなくなってしまいます。
もちろん所有する、という考え方自体がモノ由来なので。youtubeやらで聴ければ良いという方もいるかもしれません。所有することすら必要としない人たちも出てきてると思います。ただ、とりあえず所有欲はある前提で話を進めます。

ここで、僕が思ったのは。
メジャーレコード会社が抱える膨大なカタログの早急なデータ化、アーカイブ化を是非とも進めて欲しいということです。
データであれば、一度アップしてしまえば作成、保管、流通の費用は一切かかりません。ゆえに廃盤になることもありません。
正規の定価でいつまでも提供することが出来ます。
100枚しか売れないような音楽にも価値はあります。
データであれば100ダウンロード。場所もいりません。
更に言えば、楽曲の権利を持ってる人に一定の金額も支払われます。
中古市場で大人気になっても、アーティスト本人の収入にはなりません。これまた、モノの取引だから当然です。因みに僕はそれも踏まえて中古屋さんにはいつもお世話になってます。小滝橋の海賊盤屋の話・・・なんかはまた別の機会に。

さて、今度はデータの不安として良く語られる音質などの問題も出て来ます。
ここ数年でmp3の音質もグレードアップしています。
wavと320のmp3の比較検証などもなされていますが、DJ SWING君の提唱するPCノイズフィルター処理のような方法もあります。
DJ SWING BLOG
テクノロジーは今後も進化すると思います。
アナログでしか得られなかった質感が再現される、あるいは別な上質な再生方法が普遍化する、そんな可能性を信じるのもひとつのあり方だと思います。

データ化するにも問題点はいくつもあると思います。
まずは膨大なカタログの中、どこから手をつけるべきか?

このタイミングで活躍するのは、長年音楽を聴いてきた音楽ファンやレコードコレクターの知識と情熱だと思います。

アーティスト本人やレーベル関係者、ディレクターやプロデューサー、エンジニアなど制作に関わってきた人たちの意見も必要かもしれません。
こうした人々はもうすでに他界してたり、退社してたり、所在が分からなくなってる場合も多いと思います。
利益の還元という観点からもアーカイブ化は急ぐべきだと思います。

残していく価値のあるもの、優先的にアーカイブ化を進めるべきもの。
こうした順序づけなどには知識と経験が不可欠です。

SERATOでプレーするDJの方でも多いと思いますが、マスター音源をデータ化する方法を熟知してる方による作業も不可欠だと思います。

レコード会社は、こうした方々に仕事としてアーカイブ化を依頼すれば良いのでは無いかと思います。
音源のデータ化に伴い、ジャケ、クレジット関係も合わせてPDFなどのデータにする。
その際、再発盤などにつくような非常に緻密な解説、レビューなども制作すれば今後、こうした音楽に触れていく新しいファンへの絶好のガイドとなると思います。

ここまで含めての仕事として振っていくのが良いのではないかと思います。
大変な労力かと思いますが、引き受ける方もいると思います。

また、こうしてアーカイブ化されていった音源に対する総括的なガイドも、音楽への知識と情熱を持ったDJやコレクターの方が作成すればなお良いと思いますし、膨大なデータの海を泳ぐには不可欠な羅針盤だと思います。
レコード会社のHOMEPAGEなどにそうしたコーナーを設けるのも面白いと思いますね。

文化事業として予算が出るような方法もあるかもしれません。
アーカイブ化したものはITUNES STOREなのかAMAZON MP3なのか分かりませんが、正規価格でいつでも買えるようにアップロードすれば、今後音楽に興味を持つであろう人々がアクセスする機会が増えると思います。

マスターが紛失してるもの、権利関係が不明なもの・・・様々な要因でアーカイブ化が困難な場合も、その調査はレコード会社の責任だと思います。それこそ、やるべき仕事なのではないでしょうか?

新作を出すことにも慎重なレコード会社も多いと思います。
でも、抱えている財産は凄いと思います。21世紀、自社ディグが一つの突破口ではないでしょうか?

さて、ここまでも長いですが。じゃあ、全部データにしろ!って話か?
と思う方もいると思います。

まず、個人的に言えば・・・以前もブログで書きましたが僕にはアナログは不可欠です。
なぜなら左目が見えず、右目も以前は見えなかったし手術したものの、いずれ見えなくなる可能性を医者に指摘されています。
こうなるとITUNESなんて無力です。なにも見えないので。
その点、アナログレコードはプレイヤーに載せてボタンを押せばなんとか音は聴けます。CDプレイヤーは若干操作が厳しかったので、アナログが一番ですね。
これは自身の経験で分かったことです。いつデータで聴けなくなるかわかりません。

これも今後パソコンが進化して音声認識機能とか開発されれば別かもしれません。
「STEVIE WONDER」なんて話しかければ、すっと「どのアルバム、曲ですか?」みたいな応答をPCがしてくれれば・・・目が不自由な人でもデータで音楽を楽しめるかもしれないですね。

僕の場合は特殊ですが、音に触れる機会がデータで増えてもモノを求める人はいるはずです。正直、CDに関しては・・・僕は以前から、温泉亨のみやげのような、ライブ物販などのアイテムとしての生き残りが現実的だと思ってますが、LPであればサイズも含めてデザインなどモノとしての価値は高いと思います。
質感含めて、自分の手で音を鳴らすアナログレコードの魅力自体はデータ化出来ません。また、上記の話はいわゆるメジャーレコード会社の話で、近年とくに増加の一途のインディーズレーベルから発売されてる作品に関しては、データ化アーカイブ化が正解とも限りません。データ化という潮流が生じたなら、それに対するカウンターの動きも当然出てくると思います。このような感覚への理解も僕には足りてませんでしたが。
あと、どうしても感じてしまう方もいるであろうデータで聴く味気なさ。これは世代にもよると思いますが、拭えないものがあると思います。
保存に関しても80年代にプレスされたCDには再生が難しくなってるものもあるようですが、レコードは戦前のブルーズでも針を乗せれば音がします。

上手に整理されていけば良いと思います。

と、ここまで書いてやたら長文になっているのにびっくりしましたが・・・
そもそもはこんなことを考えてました。戯言に過ぎないかもしれませんが・・・
いまの子供たちがいろいろ音楽に興味を持ったりするときに。
そうした環境が整ってたら嬉しいなと思います。
具体的にウチの4歳の娘が14歳になる10年後とかには整ってたらいいですね。
もちろん、こんなヴィジョンにも賛否両論あると思います。

レコード会社の方にそれとなく訴えてはいるんですが、今のところ「ううん」という反応が多いですね。

あと、これとは逆ベクトルの、今後の音楽表現の模索も大事ですね。
BEYONCEの新作の発表の仕方と言ったら!痛快!

まあ、こんなことをあんな拙い、しかもぶっきらぼうなツイートで伝えられるはずもなく・・・自身のスキルのなさを痛感した次第です。
その上で表現のまずさで不快な気持ちをされた方にはお詫びのしようもないと思ってます。

2013年末に強い慚愧と反省の意を強く持ちながら、2014年も音楽の建設的な方向を探っていければと思います。HIPHOPは、そんな方法論にタダノリ相乗りしていくスタイルです。