股旅 | Roll of The Dice ー スパイスのブログ ー

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稀に・・・となるかも、ですが、音楽や演劇、書籍について書きたく思ひます。

おはようございます。座頭市です。

キューバ・ラテンアメリカをはじめ、世界中で尊敬されてる偉いひと。

https://youtu.be/TuvPlTeLDHo

 

 

彼は侍じゃないけどな(笑)

 

私も全作観ました。何度も見返していますが、これ、原作は子母澤貫(しもざわ・かん)のすごく短いエッセイ。いわく、

「飯岡助五郎のところに盲目の侠客があって、しかし親分が代官の妾をさげ渡されたのに辟易。『役人の妾をもらって嬉々とするヤクザがあるものか』。そう呟き盃を突っ返し、のち妻帯して百姓になったそうな」

 

単にそんな逸話。

飯岡助五郎(いいおかの助五郎)も笹川繁蔵(ささがわのしげぞう)も、常州(つねしゅう。現在の茨城県)に実在したヤクザ。時は天保〜弘化の頃、ペルリ提督の黒船が来る少し前。飯岡と笹川のバトルは有名ですが、第1作『座頭市物語』(1962)は、それをまじえて描いたもの。

 

実在の座頭市は旅人じゃありませんが、映画では股旅ものにしています。寅さんみたく。

 

こと好きなのは第4作『兇状旅』(63年)。

賞金かかった座頭市の首を狙い、駆け出しのヤクザが襲う。当然返り討ちに。

末期の息で彼は、「国のおっ母に賞金10両を渡したかったんだ」。そう聞いた市は、彼の故郷へ向かう。

市は旅籠で働くその母に「奴はカタギで立派にやっていました。しかし誤って、私は斬ってしまいました」。土下座して謝り、自分の懐から10両を渡す。

旅籠の主は、今は引退したが元ヤクザ。かつての覇権を取り戻さむと志向す。いっぽう、いま町を仕切っているもう片方の一家は、先代亡くなり気弱な息子が2代目を継いでいる。そして旅籠の娘(高田美和)と2代目は恋仲である。ロミオとジュリエット。あるいはウエストサイド・ストーリー状態。

2代目に肩入れする大物。もちろん彼の気弱を見越し、一方で旅籠の主人を煽り、相討ちさせて町を乗っ取ろうと企んでいる。ダシール・ハメット、あるいは黒澤明『用心棒』状態。

 

市にとってのファム・ファタール(運命の女)、万里昌代演じるおたねさんも出てきます。

ラストシーンが素晴らしいです。夏の追分、人々との別れ。祭囃子に乗せて、市の顔がだんだん変わっていく。

 

座頭市シリーズで評価高いのは、勝新が最も信頼を寄せた三隅研次監督(第1作や第8作『血笑旅』など)で、上記第4作は田中徳三監督。それでもこれは逸品です。

旅の哀愁別れの切なさがあり余り。エンタメとしても非常に面白い。

 

では市川崑監督『股旅』(ATG、1973)https://youtu.be/erGDN9jgl6A

 

 

手柄を上げて名を成し、いっぱしの渡世人になろうとする3人の若者(萩原健一、尾藤イサオ、小倉一郎。いずれも元百姓)が、滅んでいく物語。ジャパニーズ・ニューシネマです。

 

そして最後に帰ってくるのは、結局このあたり。

◆木枯し紋次郎 『誰かが風の中で』 https://youtu.be/HPo5yTbpcKs

 

 

股旅ものが近頃ないのは、いったいなぜなんだろうか。ロードムービーにして旅の重さ、社会からはじかれた人々の悲哀を表す格好の物語なのに。だから俺らを魅了しやまないのに。

 

まさか暴対法? ありえねー。

 

【追伸】

友人から「股旅て何すか」とお問い合わせいただきました。え”、きみ弘道会なのに股旅知らんの?

ご存知のとおり近代ヤクザは

・博徒

・テキ屋(寅さん)

・愚連隊(万年東一や花田ミツル、そして安藤昇さん)

に大別されます。しかし江戸時代はほとんど博打うち。彼らは主に関八州を旅博打で渡世していました。それこそ足(股)に賭けて。だから股旅。

ちなみに「縄張り」の語源ですが、奴らがうろうろしていた上州(群馬県)や野州(栃木県)は桑畑が多い。で、百姓博打を開催するは桑畑のど真ん中。桑の木に縄を張り巡らせ、役人の手入れがあったら直ちにそれを切る。すると反動で桑の木が役人の顔にブチ当たる。桑は低木で、よくしなるからね。これが「縄張り」です。

関東ヤクザに縄張り意識が強く、山口組など西のヤクザに薄い(かった)のは、こんな歴史的事情が関係しています。