肩衝の最高峰といえば「天下三肩衝」。

 天下三肩衝とは『初花』『新田』『楢柴』のこと。

 

 初花は、漢作唐物です。

 元は楊貴妃が使用していたと言われる油壺です。足利義政が「その形状釉色が優美婉麗で春の先駆けする初番の名花に似る」ことを理由に『初花』と銘したそうです。

 

 足利義政の後、鳥居引拙→大文字屋疋田宗観→織田信長→織田信忠→松平親宅→徳川家康→豊臣秀吉→宇喜多秀家→徳川家康→松平忠直→松平光長→二の宮→松平長矩→柳営御物という変遷を辿ります。

 

 ※漢作唐物とは、伝来により支那製と考えられるもので、基本的には型作りのものといわれます。唐物といわれている作品は「支那より持ち帰った土を使って作られた物」という意味で、象牙製品などが日本製品であっても唐物なのは、材料が海外のものであるということによります。

 

 『初花』がとみに有名なのは同じく大名物の『遅桜』との対比でしょうか。

 

「夏山の 青葉まじりの おそ櫻はつ花よりも めづらしきかな」藤原盛房

「青葉がくれの遅桜初花よりもめづらかに」平家物語

 

 という言葉から、『初花』よりもあとから見出されたが、初花に負けず劣らず、かつ珍しいものということから『遅桜』と足利義政に銘されたとされています。

 

 藤原盛房は、平安後期の歌人。藤原北家、藤原安親の曾孫。肥後守。『金葉和歌集(金葉集)』に一首入選したのが、上記の歌です。

 

 また、花には「待花」「初花」「盛花」「散花」があり、「待花」が最も格が高く、ついで「散花」、そして「初花」、最後に「盛花」という格付けになります。

 

 これは茶花をするのにもとても意味があることですね。

 また、初花には仕覆が三種ついておりまして……
 

 ・珠光緞子片身替
 ・白極手緞子
 ・丸竜鳥襷

 

 となっています。コチラの写についているのは「丸竜鳥襷」ですね。

 

 さて、写物とはいえ、やはり愛でるには銘が要ります。

 

 遅桜の故事にちなんで、「くれなゐのはつ花染めの色ふかく思ひしこころ我忘れめや( 『古今集』恋歌四・題しらず・よみ人しらず)」より「深紅(こきべに)」とするのもありかなぁ~?などと思っております。