今日は天気も良くて、洗濯物も布団もよく乾きそう
母親と少しのんびりしゃべりながら朝食を取って、買い物と図書館に行くことにして家を出た

うちから近い駅の前の交差点の信号待ちで止まっているとスケッチブックを持った男の子がいた
行きたい地名を書いて胸の前で揺らしている
うちの子くらいの歳かな
どうしてそこに行きたいのか
どこから来たのか
そもそもどんな子なのか
聞いてみたいな、乗せてあげたいな
衝動的にそう思ったが、私はそんな所に行く予定はない
チラリと男の子と視線が合ったので、小さく手を振ってみた
自分でもどういう意味かわからないけど

私も20歳の頃、見ず知らずの人に車に乗せてもらったことがある
短大を卒業した春にふらっと県外の大学に下宿している兄のところに遊びに行って、またその先の九州に渡ってみようと、なんの宛ても目的も無く、一人でフェリーに乗ってみた
国東半島というところで船を降りて、観光案内所にあったパンフレットをいくつか見て、なぜかサファリパークに行ってみることにした
アフリカンサファリというのだったと思う
アフリカの動物かぁ…見たことないな
たぶんそれくらいの好奇心で、せっかく九州に来たのに、アフリカに惹かれるというわけのわからないことになっていた

アフリカンサファリにバスで到着して、珍しい動物たちを見てきた
特に感慨も無く
疲れて
あー、この辺は温泉が有名!
と、疲れを癒すために、温泉地へ

ところが予約もしていないし、手持ちのお金もろくに無いし
日帰り温泉に浸かってやれやれ…と休憩はできたものの
夜になり、泊まれるところが無い

しかたない、どこかで夜明かしでもするか

↑しかたない…とはいえ、安易に夜明かしって、どうするよ?
とりあえず24時間開いているファミレスに入って時間つぶすかな
と、地図も無いまま、最寄りのファミレスを探そうと国道沿いを歩いた
行けども行けども、ファミレスは無い
海沿いの国道で、とりあえずは九州に入った国東半島方面の方角に向いて歩いていた
最悪、ファミレスは見つからず、夜通しひたすら歩いて朝になって始発の市バスとかに乗って、国東半島のフェリー乗り場までたどり着くかな、と

真っ暗の中、国道沿いを一人で歩いていた
相当怖い
国道を車で走っていて、そんな私を見た人もきっと気持ち悪かっただろう

3月でまだ夜は冷える
国道沿いの電話ボックスに入って、寒さをしのぎ、しばらく休憩した
電話ボックスに座りこんでいると、近くに車が横付けされ、男性が降りてきた
電話ボックスの戸をノックしてきたので出ようとしたら、
「キミ、どうしたの?、寒い?、どこ行くの? どこから来たの?」と聞かれて、不安になって逃げようかとふと車を見ると女性が手を振っていた
「寒いでしょう、乗って」

不信感が消えて、言われるままに車の後部座席に座らせてもらった

ご夫婦だった
お腹の大きな奥さんを連れて病院に行く途中に私が国道沿いを歩いているのを見かけて、奥さんの様子が少し落ち着いたので一旦自宅で待機になったので、病院から帰っている途中でまだ私が歩いているのを見たそう
真夜中だし、気になって引き返して来てみたら、私が電話ボックスにいるのを見つけて声をかけてくれたんだそう
なんてお優しい!
私の話を車の中でして、それならこのまま国東半島のフェリー乗り場まで送って行ってあげるよ、と
どれくらいだっただろう
ほんとにそのまま車で乗せて行ってくれました

後日お礼をと、名前と住所を教えてもらい、取り急ぎお手紙を送ったが、返事は来なかった
あの後、無事に赤ちゃん生まれたかな
もう30年も前だから、赤ちゃんも30歳になってるか…

あれ以来九州を旅する機会がなかったなぁ…
それなのに、アフリカンサファリって…

次はちゃんとしっかりお金持って、予約して、九州観光を満喫してみたいな