あれは夢か幻か誠か。あの夢のような女の子が僕の前に現れて来て、ひと時を君を思いながら生きていた。
残業を終え、新宿駅の改札口を降りた瞬間、小学生よりはちょっと歳が上な中学生のような女の子が目をぐるぐるとこちらに向け、凝視してきた。
その女の子。幸か不幸か悩ましい目つきで僕を通り過ぎるまで見つめていた。
僕は通り過ぎた後、振り返った。彼女はいなかった。人混みの中に消えていった。
僕は何をしていた?時期分かるだろう。
それからだ。僕の何とも言えぬ妄想が始まったのは。
僕の人生はどちらかと言えば不幸にあたるのかもしれない。彼女もそうだったんだろうか。今頃になって家にいながら笑ってしまうよ。彼女を思い出して。
僕はノートに君の絵を描いた。鮮やかに。そして綺麗に。
あの目がぐるぐる動いてたのを思い出すと可愛くて優しさがこみ上げ、にやけてくる。
僕はノートに何度も君の顔などを書いた。そうだなぁ。もっと目をぐるぐるに描くともっと可愛らしくなるかなぁ。
そうすると似顔絵の中の君が僕を一層愛おしくさせるんだ。
僕は本物の実在の彼女を探そうと毎晩、仕事帰り新宿駅で目がぐるぐるの女の子を探した。
この大都会東京で二人が巡り合う可能性など偶然に過ぎない。それにまた巡り合うなどさらに確率が少ない。
でも僕は待った。君がやって来るのを。
君のぐるぐるの目。どうしても忘れられないんだ。
一週間・・・。半月・・・。一カ月・・・と経った。
こんなに時間が過ぎても脳裏にこびりついて離れないんだ。
僕はこの出会いを人生の一幕の出会いだと思っていた。
やがて二人はまた偶然出会い、結ばれ・・・。
しかし、そんなもの奇跡みたいなもんだ。
あの時、出会ったのもその奇跡の巡り合わせだったんだ。
僕と君が出会ったのが丁度一か月前で、あれから彼女は何をしているのだろう。
まさか僕のことを忘れたりはしないかな。
僕の描いた彼女の絵は数十ページにもなった。
その顔一つ一つに気持ちがこもっていて、愛が滲み出ている。
もう一度逢ったなら何もかも忘れぬように抱きしめよう。
僕は君を、君だけを熱心に思っている。
恋に年齢なんて関係ないさ。
僕はこの地球が滅ぶ時、誰と生き残るかと言ったら迷わず君を選ぶ。君以外に考えられないさ。
世界中で君のことしか考えられないんだ。
仕事しているさなか、君が思い浮かぶ。
「何?ぼーっとして」と言われる。
そんな時、パッと閃く。
「あっ、そうだ。あの制服をよく思い出せばどこの中学か分かるはずだ」
よく調べてみると制服から察するに、彼女は新宿に程近い駅の私立の中学に通っているようだ。
次の日の朝、早速、彼女の中学を覗いてみる。
「この中学に目がぐるぐるの女の子いない?」とその中学校の生徒に聞いてみる。
「あー。あの子」
目がぐるぐるの女の子はその中学でも有名だった。
「亜紀ちゃん」
何?亜紀と言うのか。そうか目のぐるぐるの女の子は亜紀ちゃんていうのか。
その名前、気に入った。僕にぴったしの名前だ。
中学校の中に入ると怪しまれるから外で待っていよう。
校門が見える位置に隠れ、物陰で亜紀ちゃんが出てくるのを待つ。
在校生から僕を指さし、「何だあいつ?変態?」と言われる。
女の子を凝視して見ていたのだ。
気にせず控えていると、スカートの裾が普通よりちょっと短い魅力的な女の子を見つける。
「あっ、あれはまさしく亜紀ちゃんだ」
彼女は基本的に一人でいることを好み、印象的な瞳で僕の前に向かって歩いて来る。
亜紀ちゃんが目の前に現れてきた瞬間、「やぁ、僕は君をあの時からはるばるずっと待ちこがれてたんだよ」と言う。
「あの時?あっ、あの髪が整髪料臭かった人?」
「そうか、それでこっちを見てたのか」
「それだけじゃないわよ」
「何、何があった?」
「私、あの整髪料の匂いが好きだったの」
「それだけか?」
「いやー、あなたのことはちょっと」
「俺はあの時から君だけを思い、君だけの形を見てきた」
「君だけの形って?」
「そりゃー、今まで君はいなかったけど形として残ってたんだ。また出会える日を待ってた。よかったらこのままレストランで食事しない?今までの思いを伝えたいんだ」
「いや~、知らないおじさんにはついて行くなと言われてるので。それじゃ、さよなら」
「おーい。それだったら今までの愛はどうなる。このまま引き下がれってのか」
僕は亜紀ちゃんの肩をしっかり掴み、「俺の初恋だったんだ。君なしじゃ生きられない。いつも君を思って生きてきた」と言う。
「そう、あのおじさんが・・・。気持ちは嬉しいけど私はまだ中学生なのでごめんなさい」
その時から彼女と僕は離れた。永遠に離れたと言っていいだろう。
そして今、彼女の似顔絵を見ている。
そこには僕の見てなかった一面。彼女がウインクする姿や、笑ったりしてあどける姿が鮮明に描き出されている。
君の似顔絵を見ると君と偶然出会ったあの日を思い出すんだ。
決してさよならだと別れを告げる事のない、出会った日のまんまの君を思い出すんだ。
僕がもうちょっと若かったら、君と素敵な恋をしていたに違いない。
そして今日は僕の誕生日だ。
一人暮らしの中、寂しく小さいケーキを一人で食べる。
そして隣にいるはずのない君を思い浮かべる。
その後は疲れて寝た。
そうすると花束を持った亜紀ちゃんが僕の誕生日を祝ってくれたんだ。
「誕生日おめでとう。私を愛してくれてありがとう」
ささやかな君の夢の思い出までが今、ゆっくりと思い出す。
僕は人生の中で恋愛という貴重な体験をしたんだ。
それが片思いであっても両思いであっても、恋愛ということに変わりはないさ。
そして僕は・・・。
幸せさ。
こんなにも君の愛に囲まれて。
一つ、言い忘れたことがあった。
夢の中で僕らは愛し合ったんだ。