帰りたくなる場所

 

 大学を出て、わたしは勤め先を高1から通っていた皮膚科のある総合病院にしました。



わたしは、その頃脱ステ、脱保湿という治療をしていて、つまりアトピーがひどくなっても薬は塗らないのでそれを許して理解してくれる職場じゃないと働けないだろうと思ってのことです。




就職して3日。まだ研修会の最中で仕事もしていないのに、環境変化からかベーチェット病を再発してしまい、就職5日目にはまた大学病院に入院することになってしまいました。




ステロイド投与すれば高熱も陰部潰瘍も治って通常に戻れますが、仕事となれば別でした。





同期のみんなは所属病棟でいろんな研修や経験を積んでいってるのに、退院したわたしは2ヶ月自宅療養をしたあと寮にもどり1ヶ月は半日出勤。それもずっとパソコンの前に座ってサイボーズに慣れるというお荷物状態でした。



師長さんからは、体を大事にした方がいい。このまま仕事を続けるのかを一度ご両親と相談して欲しいとのことでした。




つまりは、このまま退職した方があなたのためなんじゃないの?と。




悲しくて、どうにもならない。わたしのこれまでの頑張りや病気を乗り越える意味がすべて壊された気持ちになったのを覚えています。




その2週間後には事態は大きく変わります。




就職して消化器病棟のパソコン前に座る日々でしたが、異動が決まり、眼科・整形外科病棟にいくことになりました。




配属前に眼科・整形外科病棟の師長さんに挨拶しに6階西病棟に向かいます。


挨拶すると、師長さんはわたしに

「久しぶりね。私はあなたの事よく覚えてるわよ。高1の夏休みにアトピーで入院してた子でしょ。あの時、わたし皮膚科病棟で師長してたの。この1ヶ月は管理職会議で正直、どの病棟であなたを預かるか話し合っていてね。私もあと2年で定年だし、思い切ってうちで預かることに決めたの。私にはこどもはいないけど、あなたを最後に子育てと思って一緒に頑張るんだから、あなたもくじけないように。」




私は全く覚えていません。

最後にお会計の入院支払書を渡したじゃない!と師長さん。


その病棟には、私が入院中にお世話になった先輩が3人、昇進した主任さんが1人。


ベーチェットもありましたが、その前に私はアトピーでもカポジを繰り返して皮膚科病棟に4度も点滴・治療入院していて、外来の皮膚科は高1から10年通院していました。




それは誰も預かりたくないですよね。

こんなに何度も入退院を繰り返す元患者の新人看護師なんて。





師長さんはいつもベッドサイドに寄り添う人でした。

元気で若いですが、もうあと2年で定年。わりと高齢です。(失礼だけど)



でも、緊急入院やベット移動のとき。いつも師長さんがいるんです。カンファレンスの時も、2チームとも時間差で参加しています。


入院の人には真っ先にご挨拶と家族のお話を聞いているのを廊下から、ちらと見えます。



毎日病棟の全員をラウンドして、クレーム対応がありそうな時はまずスタッフの前に出て頭を下げてくれます。




勤務表もどの病棟より早くに作ってくれて、それなのにパソコンの前には座っていません。


点滴や注射は病棟の誰よりも上手くて、みんな最後に師長さんがいれてくれるから!と頼りにしきり。




病棟から降りて、もう10年。

この仕事で辛いことがあったり、子育てに煮詰まると師長さんのことを思い出します。




病気から逃げない。

仕事から逃げない。

アトピーがひどくなっても仕事を続けなさい。仕事を辞めてもアトピーは治らないんだから、働かないと仕方がないでしょう。





ふと、師長さんのところに帰りたくなります。

 

 

 

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