ラクマの発送を終えました。

品番の紙や宅配用の段ボールに

一杯、ラクガキをしました。

 

いつものことです。

 

購入してくれた人と

取引中は、いわば

DMのやり取りが出来る

みたくなるので

それも楽しいです。

 

たくさん、メッセージを

くれる人もあれば

何もくれない人もいます。

 

だからといって

ラクガキやらメッセージを

増やす、減らすような

ことはいたしません。

 

自分のその時の

テンションや勘で

多くしたり短くしたりです。

 

緊張して

メッセージを書けない

人もいるだろうし。

 

最近はサイン会が出来ない

状況でしたが、

僕の前に出てきて

喋れなくなる。

眼すら合わせられず

ただ、震えるばかり……

そんな読者の人と

沢山、逢ってきました。

 

神聖化する余り、

逢うのは畏れ多いので

行けないのですという

お手紙も多く貰います。

 

 

多分、手紙すら書けない人も

いるのではないでしょうか。

 

眼の前にして何もいえなく

なってしまう人に対しては

ただ、手を握ります。

嫌がろうと、無理矢理、

握り締めます。

 

 

今、君と逢っているのだよ

というのを伝える為に。

そしてまだもう少し

生きていようねと

納得させる為に。

 

本を執筆する仕事を

していて良かったと思います。

 

求めるなら求める分だけ

本は読む人に

寄り添うことがやれます。

 

いかなる時でも

ページを開けば

会話が出来ます。

 

僕自身、子供の頃から

そうやって

作者と会話してきました。

 

ここ数年は谷崎潤一郎

ばかり読んでいるので

もう谷崎さんは友達より

親しい関係です。

 

 

たった一行で、人の運命を

変えることが

やれてしまうのが

本だと思っています。

 

ですから、句読点の一つ一つも

決しておろそかにしません。

緊急医療の現場の人が

患者さんの脈拍、息、

肌の色、

全てを慎重に確認しながら

処置をしていく——

そうでないと命に関わる——

それと同じようなスタンスで

一言一句を選びます。

 

僕は自己顕示欲の

塊みたいな人ですが、

文章を書く時は、

読む人のことだけを

考えます。

 

僕を評価して欲しいという

気持ちはなく

読んでくれている人が

自分自身を評価出来る

ものをどうやって書くか、

もっと君は評価されるべき

だと、言いくるめることに

心を砕きます。

 

コンディション、

状況は一人ずつ違うだろうから

手を握るのと同じ

感覚で、助詞、副詞、

その他、諸々を調整します。

 

アマゾンなどで古書を

注文して、奥付けを

観ると27刷とか

とんでもなく

重版が掛かって

いるにもかかわらず、

全く読まれた形跡のない

本が送られてくると、

少し悲しくなります。

 

本は読まれなければ

ただの紙の束で、

チラシにも劣ります。

 

来年は

ようやくサイン会が

やれると思います。

 

ということは

新刊出す——と思いますか?

 

多分、出ますよ。

それまで生きていてね。

生きていれば、読めますよ。

話せます。

ぎゅっと、

手も握れます。

 

嶽本野ばら 2023.11.02