『ブサとジェジェ』という短編

(50枚なので中編か?)を

『三田文學』2023年春号No.153に

発表させて頂きました。

 

つべこべ言わず読んで下さい。

 

京都に戻ってからも何冊か

出しましたが、小説は

2015年の『新潮』に『純潔』

(掲載時のタイトルは『純愛』)を

発表して以降、

久々になるのでもう約8年間、

新作小説を

発表していなかったことになります。

 

この『ブサとジェジェ』も

2019年に脱稿した少し古いものです。

なかなか書いても小説を

発表する機会を得られぬ

歯がゆい日が続きました。

 

が、縁あって『三田文學』への

掲載が決まりました。

自分でいうのも何ですが

大好きな作品です。

きっと気に入って頂けると信じています。

 

つべこべ言わず読んで下さい。

 

作家稼業に慣れてしまい、

新刊が出ても発売日に書店に出向く

をしなくなって久しい

ですが、今回は

発売日を指折り数えました。

だって『三田文學』なんです!

 

僕のように新人賞出身でない者は

文壇でのホームグラウンドを持ちません。

根無草のようなもの。

それが『三田文學』に書けるとは!

 

何のことやら……でしょうが、

近代文学の歴史は

同人誌によって作られてきました。

 

帝大(東京大学)で出された

『帝国文学』は

上田敏などが主催、

芥川の『羅生門』はここに発表されました。

これと競いあったのが

坪内逍遥のサークルが母体となった

早稲田大学の『早稲田文学』

(自然主義の拠点となった)、

森鴎外らが永井荷風を編集長に据えた

慶應義塾大学の『三田文學』でした。

 

純文学に傾倒し出した中学生の頃から

僕はこっそり『三田文學』と

やはり帝大の同士によって復活した

『新思潮』に憧れていました。

 

というより

この時代の文士の熱量にですかね?

 

第6次『新思潮』を

出版することになった折、

同人作家達の当面の悩みは出資金。

「あいつは下手だが

家が金持ちだから一作くらい書かせてやろう」

と悪巧みを、したりする。

川端康成なんて、菊池寛の処に行き

「『新思潮』を出すので金をください」

臆面もなく無心、菊池寛が

「も少し頼み方があるだろう」

苦言すると、

「菊池さんは第4次の同人。

いわば貴方の後任を引き受けるのです。

貴方が金を出すのは当然」

しれっと、返答したといいます。

 

僕は今でも近代文学が好きなので

こういうエピソードに胸が高鳴ります。

やっぱり文学オタクなのですかね?

 

『文學界』など今も残る多くの文芸誌は

同じように大抵、

作家達が自ら立ち上げた同人誌が

原点となっていますが、

商業誌でなく飽くまで同人誌としての

大義を保ち続けているのは

『三田文學』くらいでしょう。

 

今回、参加させて貰うにあたり、

初めて知ったのですが、

未だ編集部は、

慶應義塾大学の中にあります。

同人でなければ

書けない雑誌ではなくなりましたが、

僕にとって『三田文學』に

作品を載せて貰えるというのは、

永井荷風に認めて貰った、

佐藤春夫、谷崎潤一郎などと一緒の土俵に

上げて貰ったという気持ち、欣快の至り、

ですので

否が応でも盛り上がってしまうのです。

 

憧れの谷崎さんに激励される著者

 

『三田文學』は老舗の文芸誌の中で

今も唯一、

同人誌の選評のコーナーを継続している

硬派でもあります。

 

僕がいうのははばったいですが

インディペンデントの

裾野が豊かにならないと

文学の活性化は望めないでしょう。

ですから文学フリマなどの

盛り上がりは嬉しいです。

しかし、そこと、

商業ベースに至るものの間にある媒体も

多分、必要なのだと思います。

そういう意味でも

『三田文學』が死守する

ポジションを僕は大事に思います。

 

『三田文學』は

永井荷風、谷崎潤一郎の系譜、

つまり反自然主義の流れを持つことから

耽美派の牙城とも称され、

また時局にそぐわないという理由から

掲載した作品が当局の逆鱗にふれ

発禁処分を受けてしまった号が数多、

発禁の三田——なんて渾名すら

持つ文芸誌でもあります。

 

また『三田文學』に

寄稿出来れば嬉しいなと思っています。

その為に

新作を書いていこうと思います。

 

といいながら、発売日が過ぎた本日、

まだ僕の元に、掲載号はないのです。

 

送るの忘れてた——らしい。

こういうザツな部分も大好きです。

 

追伸

 

第29回三田文學新人賞発表

鳥山まこと「あるもの」

粟津礼記『読む小説 安岡章太郎「果てもない道中記論」』

石橋直樹『〈残存〉の彼方へ——折口信夫の「あたゐずむ」から——』

も掲載されています。

 

 

2023.04.13