新刊は『落花生』以来だけど

ノバラ座というイベントを開いたり

していたし、特に皆と逢うのは

久々でない気がしていた。

でもサイン会というものは

どうも特殊な緊張感を伴うもので

これに取って代わるものは

ないのだなと改めて、気付く。

 

東京会場の様子

 

このお水はジュンク堂の

スタッフが用意してくれました

 

それは

僕と読者の

イニシエーション(儀式)のようで

聖なる質量に支配される。

一人一人と実際に対峙する

時間は限られているのだけれども

短いとか長いは関係ない。

眼の前に立たれたら

最後は一杯に満たして送り出す。

 

そうするうちに

次に何を書くべきなのかが

漠然から明瞭に変わってくる。

これがなければ

書き続けるのは

無理だったなと思う。

 

誰の為の文章なのか?

そんなの

読む人の為のものに

決まっています。

 

京都会場の様子

 

読者に優しい作家の評価は

的を得ていないです。

腕のいい大工がいるとして

彼が自分の為に建てた家が

彼以外のものに評価される訳はない。

大工は人の為にその住む家を建てる。

技術を磨く。

同様のことを僕もやるだけです。

 

東京は2時~6時まで。

またロングなサイン会になった。

 

「今向かっていますという電話が入って

余りに必死な声だったので

もうすぐ終わりですともいえず

6時までは多分、大丈夫ですと、

いってしまいました! すみません」

書店の担当者から謝られる。

 

京都会場に飾った松下さんの原画

 

構わない。別に本屋さんさえ

問題なければ僕は閉店まで

その一人の為に待つのを厭わない。

 

本というのはそういうものだろう。

みんなの為にあるのではない。

一人の為にあるのだ。

今まで何人の人が聖書を読んだろう。

でも僕の聖書は僕の為にしかない。

その言葉は僕以外のものの

為に書かれてはいない。

だから、読み返す、折に触れ。

思い出す、そこにある文言を、

ある日突然に。

そしてそこから

僕だけに告げられたメッセージを得る。

 

終了後、すぐさま東京駅、

新幹線で京都へ。

駅近くのホテルにチェックイン。

次の日の京都会場の荷物を確認し、

リュックに詰める。

 

開場一時間前に出町座へ。

会場のディスプレイ。

既に持ち込み済みの

『Book Melody BasKet』の

額装した4枚の原画を壁に。

 

両会場とも連れて行ったクレアーズのユニコーン

 

これも花弁同様、必要のない

行動なのだけど、

こういうことをないがしろに

しないのが僕のやり方で、

やらないとフラストレーションが

たまるので、やります。

 

BGMとして

フィリップ・グラス

をエンドレスで流す。

 

Glass: Circles by Arturo Stàlteri

 

 

終了の挨拶の最後に

前日の東京会場でもやった

僕が会場名をいい

「せーの」の合図で

「ありがとうございました!」

皆にいわせ、

いい印象を与える作戦を決行する。

 

沢山の女の子達から丁寧に

礼をいわれれば

もうやりたくないと思った本屋さんも

またやってもいいかなと思うだろう。

 

僕のサイン会は手間が掛かり

積極的にやろうというところが

最近は少なくなったので

姑息な手段を用いる。

 

プレゼントを含む

全てのものをタクシーに積み込んで

ホテルに帰ってしばらくボーッとする。

 

東京からの荷物も含め

とりあえずがさっと

整理する作業。

スーツケース以外に

6個か7個に分割しないと

袋に入りきらないと思ったが、

おお、僕にはVIXENの無意味にデカい

ピローバック(大)があったではないか!

生きる為のバッグなので頑丈、

かなり詰め込んだって底が抜けない。

 

こうして荷物をウルトラコンパクトにする。

 

 

あなたのために——SAVE BEAR

 

あなたは迷える子羊ではないだろう。

あなたは待機グマだ。

神様が羊達の世話をするのなら

僕は待機グマの世話をする。

 

SAVE BEAR

 

世界から待機グマをなくしたい。

あなたが

うさくみゃや、

エミキュのクマで

なくてもだ

ダイソーで売られる

100円のクマでもだ。

僕は見付けたらSAVEするだろう。

 

だからあなたは

どうにか

自分に価値を持たせようと

プーさんの振りなぞしなくてもいい。

 

あんな眉毛のあるクマはイヤだ。

あなたはプーさんではない。

僕は待機グマの世話をする。

 

SAVE BEAR

 

あなたは待機グマだ。

僕を待っていてくれる

待機グマだ。

 

(サイン会日記・完)

 

嶽本野ばら 2019.08.22

 

 

 

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