新刊の宣伝のための

インタビュー記事などが

出回る時期だと

思いますので

先に記しておきます。

 

熱心な読者の方が

盛り上がれば盛りがるほどに

恐らく今度の作品は

非難も浴びるでしょう。

 

作品そのものが……ではなく

僕という作家自体がです。

 

二度も類似した罪科で裁かれて

いる人間が

少し時間はかかったとはいえ

しれっと復帰するのは許せない。

 

当然の感覚だと思います。

 

だってそうでしょう。

一回ならまだしも

二度、痴漢で捕まった人

(僕はそれじゃないけど!!)がいるとして、

この人がどれだけ性格がよく、

仕事の技量も優れ、

性的嗜好以外は何の問題もないとしても

あなたが彼を雇う会社の

社長だとして、再雇用しますか?

 

その人が自営の電器屋さんだとして

わざわざその人のお店で

クーラーを買いますか?

 

無論、何度罪を犯したとて

その人には自分の人生をやり直す権利があり

応援は厭わないと、

皆、心得ています。

 

でも人としての良心や良識というものが

この人を社会に復帰させることを

拒むのです。

野垂れ死ね、とまでは思わねど

元の位置に戻るは贅沢

片隅、底辺でこそこそと生きていけ。

 

そうでなければ

真面目に生きている者は

損じゃないか。

 

その通りです。

 

インタビューなどでも

二度の逮捕に就いて触れられる

ことがありますが、

出来上がってきた原稿をみると

どこか歯切れの悪い内容になっています。

 

世間は許しちゃくれませんよ

という大前提を

インタビュアーは

僕を眼の前にして率直にいえはしませんから

私、個人としてはもう何の問題もない

と思うのですがね――との

前提で取材をスタートさせます。

そうするとこちらも

「世間は許しちゃくれないでしょうが、

発表したいから発表するんです」

いうもやれず

(いうと、余計に傲慢じゃないですか)

ありきたりの言い訳を

述べるに留まらざるを得ないのです。

 

出版社の本音としては

二度目は実刑を受けて欲しかったでしょう。

或いは、執行猶予がついたにせよ

すぐにまたおかしな薬を使って

オーバードーズ、

死んで欲しかったでしょう。

 

そうすれば

ダメな人ではあったけど、

死んじゃったし……チャラにしましょう。

世間に体面を保てますし

遺作として沢山、

本を売ることがやりやすくなります。

(少なくとも僕が出版社ならそう願います)

 

子供の頃、近くの繁華街に

安い中華料理屋さんがありました。

美味しいのですが、

何時もそこそこにしかお客さんがいません。

なんで繁昌しないのかな?

思っていると、母が教えてくれました。

 

「あそこは二回、食中毒を出してるんだよ。

だから地元の人間は、ついどうしても

敬遠してしまうというかね……」

 

僕はその中華屋さんのようなものなのだと思います。

そりゃ、僕の作品を読んだからとて

薬物中毒になったりはしないのですが、

気になる本を二冊みつけて、

一冊しか買う予定がない時、

「こいつは犯罪者だしな」

僕の本がはじかれてしまうのは

仕方のないことです。

 

 

でも食中毒を出した中華料理屋の店主の気持ち

を代弁させて頂けば、

 

「確かに二回、食中毒を出しました。

そんな料理人は料理をやめろといわれるでしょう。

それでも私は料理を作るのが好きなんです。

これしか自信を持って出来ることがありません。

悪口をいわれるのは構いませんが

どうか、鍋を振り続けることは続けさせて下さい」

 

となるのだと思います。

 

食中毒を出したことなぞ

誰も知らない土地で、でも中華料理ではそのうち

バレてしまうかもしれなので

イタリアンの店とかを開業することだって

やろうと思えばやれます。

 

料理を作れるなら、中華に拘ることもない。

僕にも、バレないように変名で作品を発表する

準備を整えていた時期が、ありました。

でも、僕は嶽本野ばらという作家を

捨てられなかったのです。

そのブランド性ではなく、

嶽本野ばらという作家が進んできた悪路、

その後ろを辿ってきた読者、

嶽本野ばらをどうにか復帰させようとしてくれた

友人や仲間を切断出来なかった。

 

売れようが売れまいが、

僕はこれからも嶽本野ばらとして

やっていきます。

見苦しくこの名に拘泥していきます。

評価があがる程に

熱心な読者の方には肩身の狭い思いを

させることになりますが、

僕の読者なら、少なからず最初から

肩身は狭かったでしょう?

ついでにあと、10年くらいは我慢してください。

 

ごめんね。

でも、書くから。

 

守ってあげられない。

でも、書くから。

 

明日からはまた

何事もなかったかのよう

復帰するのは当然という不遜の顔に戻ります。

 

一つだけずるい言い訳をするならば、

君が、野ばらちゃんがいないと困る

――いうんだもの。

 

君だって、少しは悪いよ。

 

トイプードル

嶽本野ばら 2019.08.07