ハンガリーという国に就いては

旅行のついでに二、三日、滞在したことすら

あるのにほぼ何も知らない。

 

多分、僕だけではないでしょう。

 

1956年のハンガリー革命が

世界中に報道された折、

日本の知識人は

一斉に拍手をしたのだけど、

皆、ハンガリーが

どこにあるのかさえ心得てなかった――

と運動家でもあった平塚らいてうが

当時を回想しているくらいだから

推し量るに忍びません。

 

僕がハンガリーを気にしだしたのは

最近で、去年、ノバラ座を開催する時に

使用済みの外国切手が欲しくなり

物色していたらハンガリーのものに

出くわした。

 

 

そこからハンガリーの雑貨や

生活用品をチェックし始めるのですが

(そして行ったことのある国だと思い出す)

長い間、事実上ロシアの統治下にあったことも

あってか、デザインがロシア構成主義っぽい。

しかし厳密にロシア構成主義には

なっておらず、それをザツにした・・・

という感じのものが多い。

だから、惜しい・・・風情が、可愛いになる。

 

ハンガリーの切手には如実に

現れており、なんか可愛い。

でも切手蒐集家の中では評価が低いらしく

使用済みだと

大量に袋に入れられ

二束三文で売りに出されている。

従い、現在の僕は

ハンガリーの切手を売る程、持ってます。

 

出町座に打ち合わせに行った際、

ついでだから

『僕たちは希望という名の列車に乗った』

を、観た。

 

http://bokutachi-kibou-movie.com

 

他に観るものがなく

ハンガリー革命に

絡む映画だから選んだ。

 

舞台はロシアの影響下にあった

当時の東ドイツ。

社会主義の統制から

人々は自由主義への傾倒を

制圧されていた。

或る日、エリートクラスにいる

二人の高校生は

西ベルリンの映画館

(当時まだベルリンの壁はない)で

ハンガリーの労働者達が自由を求め

蜂起しているニュース映像を観る。

多くの犠牲者を出したことを知った彼等は

自然と、クラスメイトに

共に哀悼の意を表し、

黙祷をしようと呼びかける。

しかし、その小さな行動が

彼等を国家的反逆者と見做す権力に拠って

重大事に発展する。

 

 

実話をもとにした地味な映画です。

平日の昼ということもあり

観客は僕を含め、三人しかいなかった。

 

そりゃそうだ。

リアルタイムの平塚らいてうですら

ハンガリーが何処にあるのかを

知らなかったのだから。

僕にしたって、同様。

殆どの人がこの映画に出てくる

ハンガリー革命になど興味を持たないでしょう。

 

https://www.jiji.com/jc/d4?p=hug024&d=d4_oldnews

 

でもそういうバックボーンに無頓着でも

この映画には強く惹き込まれると、思う。

クラスの仲間達は皆が黙祷に賛成する訳ではない。

例えば彼等は、いわゆる安保の頃に

体制を打倒しようと息巻いた

日本の学生達とは違い

社会主義のイズムに意を唱えているのでもなければ

国家の方針を嫌悪している訳でもない。

 

どちらかといえば、将来、国の中枢に立つ為、

勉学に励んでいる体制側のエリートです。

しかしそれが逆に、小さな思想的逸脱すら

見逃されない状況を彼等へ与えることになる。

 

誰が首謀者なのか? 

誰が造反分子なのか?

 

学校側、ひいては国が

あぶり出そうと

彼等に執拗な尋問と取引を迫る。

 

後半、彼等がどの選択をするのか?

ノンフィクションだから敢えて

いってしまうけれども

最終的に彼等は、エリートの夢を捨て

西ドイツに向かう列車に乗る。

 

イズムがそうさせたのではない。

様々な葛藤の中で、自分に嘘を吐き

相手に嘘を吐き、

自分を裏切り、友を裏切ってまで

求めなければならない正義など

あるものかと、

それぞれが、それぞれの心に

従うだけなのだ。

 

彼等の行動は若さ故の浅はかなものだ。

 

でも僕はその彼等の行動に

全身を震わせざる得なかった。

これが若さの愚行だという者がいるなら

僕は愚行を犯し続ける人間であろうと思う。

 

法の公正さの為に友を陥れるモラルと

それを仕方ないと、納得する欺瞞を

受け入れるのが大人なのだとすれば、

愚かな子供であることを貫こうと思う。

 

青春の美しさなど、自分を誤魔化さない

一途さ以外、何もないでしょう。

 

紆余曲折しながらそれぞれが辿り着く

青春の進路こそを、僕は守りたいし

それを妨害する者があるのなら、

勇気を持って最後まで戦い、そして

道を、勝ち取ろうと思う。

 

映画は決して彼等を英雄として美化しない。

淡々と、彼等の短い季節を捉えていく。

 

革命の物語を上梓する少し手前に

こんなものを観せられ、

完敗ですよ。

 

もう映画館での上映が

ほぼ終わっているようなので

DVDで観るしか出来ない人のほうが

多いだろうけど

観て欲しいな。

というかステマじゃなくてね、

ガチ、『純潔』を読んだ人は必ず、どこかで

この映画を観ること!!

 

約束です。

 

 

あとね、関係ないけど

この映画のチラシの裏の解説の文章、

完璧です。

無駄な語句が一切ないし、

完璧に作品を解った人が書いてる。

 

今からチラシだけでももらいに行けー!!!!

 

という訳で、次のブログでは

新刊の告知とサイン会の告知をします。

 

うん、ホント、ステマじゃないんだってば!

これがステマなら、僕のことを

文学の神に愛された男だと思って下さい。

 

https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/n356587944

 

2019.07.17 嶽本野ばら