れな 『純愛』読みました。もう涙がとまらなくて。現代文学の頂点だと思います。
野ばら いやそれほどでも(笑)
れな 構想10年とお聞きしました。
野ばら 左翼運動にかける若者達の群像をいつかは書きたいと思っていたんですが、ポリティカルなものは避けたかったんですね。作家がポリティカルな発言はすべきでないと思っていた。ですからどう書けばよいか、それでずっと書けずにいました
れな 執筆に踏み切ったのは書けるようになったということですか?
野ばら いや、書けるようになったとは思っていません。ただ、書かなければならないと思った。今、これを書かずしてどうするんだ、みたいな。
れな そのきっかけみたいなのは?
野ばら やはり作品の中にもありますが原発事故です。僕等の世代はもう原発が稼働していた世代ですが、子供の頃にはまだ原発反対の運動があった。その問題に対して何もしてこなかった罪悪感が僕にはあります。今の若い世代に対する申し訳なさを感じている。
れな 近頃、野ばらさんは自らを共産主義者だとおっしゃってますが、「それいぬ」では右翼的な美意識に同調すると。転向ということでしょうか?
野ばら いえ、「それいぬ」で書いたのはあくまでアイロニーのようなもので。唐十郎が自分は右翼的だという時、あんな奴が右翼では困ると国粋主義者は迷惑がりますよね。椎名林檎の場合も同じ。僕は昔から極左ですよ。
れな EP-4の佐藤薫さんを兄と慕うだけありますね。私もベイビーレイズの「自虎紹介」とEP-4の「昭和崩御」はよく聴きます。
野ばら 僕は京都で生まれ育って知事が共産党時代の最後の世代なんです。だから先生達も殆どガチの日教組で・・中でも五、六年生の担任はバリバリでした。社会の時間、江戸時代の身分制度に関しての記述がでると二時間かけて部落差別とは・・を教えられた。で、「カムイ伝」を読みなさいと全冊持ってきて学級文庫に置かれたりして。三菱の鉛筆を使ってるとそんな軍事産業に加担する企業のものは使うなといわれたり(笑)。
れな 「純愛」で主人公達をアニメヲタクにしたのは野ばらさんがここ数年、ヲタに目覚めたからなのでしょうか? つまり主人公に自分を託したみたいな・・
野ばら 自分を託したのではなく、ヲタになってからヲタとは? みたいなことをずっと考えていたんです。僕なんて所詮、ニワカですからね。その結果、ヲタのメンタリティとコミュニズムの思想の類似点に気付いた。書きたくても書けなかった左翼の物語をポリティカルなものを回避しつつも書けると判断したのにはそのようなことも関係しています。
れな 私もアニメとアイドル好きのヲタなので余計にシンパシーを抱きました。去年出された「星のアリスさま」も二次元ネタ満載の共産主義をテーマにした物語ですよね。関連性はあるんでしょうか。
野ばら 「純愛」は書き上げてからこうして世に出るまで1年以上掛かってるんです。最初、900枚も書いてしまい、編集者預りのまま1年が過ぎた。長過ぎるので雑誌掲載が難しいという理由で。で、400枚に縮めたんです。結果、筋肉質になったと思います。「純愛」を書いた後に「星のアリスさま」を書きたくなった。「純愛」で書き切れなかったものを補足したかったんですね。なので読む順番は実は「純愛」→「星のアリスさま」が解りいい筈で、更にいえばその後に書いた「通り魔」はその次に読むとしっくりくると思います。
れな なるほど。「星のアリスさま」の前には「金脈」をリリースされています。ここではヒッピーのおじいさんが登場しますよね。もうこの時、既に野ばらさんの中でコミュニズムへの足がかりが出来ていたと読み解くことも可能なのではないでしょうか。
野ばら その通りです。書いている時、自分で意識はしてなかったですけど。でもこの前、「三里塚に生きる」という映画を観て気付きました。石油が出る話なので石油を掘る為の櫓をヒッピーのじいさんは作ります。その櫓のイメージって三里塚の農民達の抵抗のシンボルの櫓なんですよ。作家というのは無意識でその後自分が進むべき事象を小説に書いている場合がある。小説は行間だといいますが、そういう時系列から見えるものを読むことも小説の面白さですよね。
れな では「金脈」→「純愛」→「星のアリスさま」→「通り魔」と読むのが一番?
野ばら あくまで作者の要望なので強制はしませんけど。
れな そして次は「サリシノハラ/47」ですよね。これもその延長上ですか?
野ばら 「サリシノハラ/47」は「ミシン」への原点回帰の百合です。これも自信作ですが「純愛」とは全く別のベクトルですね。アイドルが主役のラノベなので。自分がアニヲタにならなければ「純愛」は書けなかったのと同様、「サリシノハラ/47」もAKBヲタにならなければ書けなかった物語です。ヲタになって昔のファンの人は随分と離れましたが、シフトチェンジしたからこそ更なる高みにいけたという自負はあります。私小説しか書けないといわれますが、経験したこと、それは思想的な経験という意味でです、しか書けないのは当然です。自分の中にないものを想像で書くことには興味ありません。僕が描くものはエンタテイメント小説ではないですから。
れな 私もAKBは大好きです。「純愛」の中にもAKBヲタな人物がでてきて嬉しかったです。近頃、野ばらさんはSKE箱推しとおっしゃってますが、やはりその中でも一番は松井玲奈さんですか?
野ばら だーすーです。
れな え? だーすーなんですか? ブスですよ。
野ばら 古畑さんも推してます。
れな 奈和ちゃんは可愛いですね。でも嘘泣きばっか・・
野ばら 僕はすぐに泣く女のコが大好きなんですよ。だからサイン会でも泣かれると、しめしめと思います。
れな 最低ですね。
野ばら 作品さえ良ければそれでいいんです。人間としての僕はそりゃクソですよ(笑)。