話せば長くなる。

実は去年、某レコード会社から初音ミクのアルバムをプロデュースして
欲しいとの依頼があった。

無論、引き受けた。
が、やるからには自分なりに最高のものを作りたい。
で、先ずはやはりジャケットを手掛ける絵師さんを
探すことから始めた。

アルバムのイメージは既に出来上がっていたので
そのイメージに合う、ミク業界では有名な
僕の大好きな某絵師さんに
コンタクトをとった。

少し考えさせて欲しいといわれたが
多分、受けて頂けるであろうと思い
レコード会社に、この絵師さんでいきますといった。
レコード会社も、その絵師さんならいいですねと
非常に喜んだ。

が、諸事情により、その絵師さんに断られてしまった。
なので違う絵師さんを探さねばならなかったのだが
僕としてはクオリティを落としたくなかったので
選考は難航を極めた。

そこで僕は考えた。
ミク業界の絵師さんにこだわっていては
結局、当初のイメージしたジャケットよりクオリティが下がってしまう。
発想を転換しなければならないのではないか、と。

そして、閃いた。
会田誠がミクを描けばスゴいことに
なるのではないか、と。

面識はないが、連絡先を調べ、
だめもとでオファーを掛けた。

すると、会田センセイは、やりますといって下さった。
僕は狂喜乱舞した。
世界の会田が、初音ミクを描いてくれる。
すぐさま、レコード会社に報告した。

すると、どうだろう。
レコード会社は、それを聞くと途端に嫌な顔をした。

「ミクのファンに会田誠なんて通用しませんよ」

この人達はバカだ・・・と思った。
説得を試みたが、キャンセルして下さいといわれた。
彼等は、結局、ミクの固定ファンに手堅く受けるものを作り
手堅く儲けたかっただけだったのだ。
そこに嶽本野ばらプロデュースという付加価値をのせれば
話題になるだろうという安直な考えしかなかったのだ。

僕は、ならば、この話は降りますといった。
面識はないが、会田センセイが描くといって下さったのだ。
会田センセイは僕に興味を持ってくれておられるようだった。

芸術家というものは、面識がなくとも
お互いの作品を知って、認めあっていれば
友情以上の絆で結ばれるものだ。

僕は会田センセイが受けて下さったのなら
どうしてもそのアルバムを作らなくてはならないという
使命感に燃えた。
そして、自ら違うレコード会社に売り込みを開始し始めた。

結果、ディスクユニオンが話に乗ってくれた。
が、ディスクユニオンは、ボカロ曲には興味が無いという。
ディスクユニオンの提案はこうだった。

「嶽本野ばら×会田誠は、素晴らしい。
なので、会田さんのジャケットで、野ばらさんがミクへの想いを
詩に書き、歌うアルバムを作りましょう」

僕が歌ってどうするのだ?
そんなもの売れませんよといったが、
ディスクユニオンは、大丈夫だという。

なので、作詞をし、歌うことにした。
まだ、トラックが全て完成していないので
歌入れはしていないのだが
会田センセイは早々に、ミクのジャケットを描いて下さった。

その原画が、今日から始まった
会田誠個展「もう俺には何も期待するな」で展示されている。

2014.1.29~3.8
市ヶ谷のMIZUMA ART GALLERY

〒162-0843 東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F
TEL: 03-3268-2500 / FAX: 03-3268-8844
HP: http://mizuma-art.co.jp
有楽町線・南北線 市ヶ谷駅 出口5より徒歩5分
JR飯田橋駅西口、東西線・有楽町線・南北線・飯田橋駅出口 B2aより徒歩8分

地図はこちら
http://mizuma-art.co.jp/gallery_info/index.html

まだこのプロジェクトのことは隠しておこうと
思っていたのだが、今日、ギャラリーにいくと
嶽本野ばらさんのアルバムジャケット用の初音ミク
と、既に説明書きが付き、バラされていたので
情報を急遽、公開することにした。

会田センセイは更に、まだ時間があるので
作品に手を加える予定だそうだ。

全く頭が下がる。

絵はアクリルで描かれている。
アルバムジャケットになると印刷だから
どうしてもディテールの細やかさは失われてしまう。
是非、機会があれば原画を観にいって貰いたい。

とても優しいタッチのかつてない初音ミクだった。

展覧会のメインとなる会田誠監督作品の映画も傑作だ。
爆笑必至。でも根底には現代社会への痛烈な問題提議がある。

会田センセイと少し語り、一緒に写真を撮ったりして
帰る道すがら、僕は湧き出る創作意欲を抑え切れなかった。
感動する芸術、それを作った作家のエネルギーに触れると
自分も自分の領域で、負けじと頑張らねばと思わされる。

しかし今日は創作活動をせず
確定申告の為の領収書の整理をしなければならない。
全く、生活するということは面倒極まりない。