妻の本音と夫の本音。 | やましたひでこオフィシャルブログ「断捨離®」Powered by Ameba

妻の本音と夫の本音。

 

 

とある断捨離講演会でのこと。

 

 話を終えて「何か、ご質問はありませんか?」と聴衆のお一人である年配のご婦人~おそらく70代の初めくらいの年齢だろうか~にマイクを向けると、そのご婦人はこう言われた。

 

「私、なんでもかんでも、要らなくなったらすぐ捨てるから、いつも清々しいです。でも、今、一番捨てたいのは、夫!」

 

 あまりにアッケラカンと凄いことを言うご婦人の姿に会場は爆笑の渦。でも、それをご主人が聞いたらどう思うのかしら?と誰もが思うはず。たしか、この講演会はご夫婦で参加しておられる方が大半だったよう。

 

 案の定、通路を挟んだお隣の席に、やはり70代と思しきご主人が笑顔で座っている。「どうですか、奥様があんなことを言っておられますが?」とマイクを向けると、ご主人は、「はい、いつも好きなことをはっきりと言う家内ですから」とこれまた涼しい顔でのたまう。

 

「あら、それでは、ご自分のモノを勝手に捨てられることもあるでしょう?」と尋ねると、「もちろん!」とのこと。「それで腹は立たないのですか?」とたたみかけると、「それはもう、しょっちゅう怒って喧嘩していますよ!」

 

 お互いを目の前にして、しかも、大勢の人たちがいる会場の中でのあけすけな会話のやり取り。夫婦としての生活は50年近いだろう、この年季の入った堂々としたご夫婦の明るい姿には敬服さえ覚える。

 

 

 ところで、このご夫婦の姿を見て、一方で、私はこんな昔の経験を思い出した。

 

 とあるクライアンさんのお宅、断捨離パーソナルコーチをしたご家庭。見違えるように美しくなったキッチンを、依頼主である奥さんが満足げに眺めていると、そこにご主人が仕事から帰ってきた。そのときのご主人の驚きようといったら、「家を間違えて帰ったかと思った!」と言うほど。

 

 大喜びのこのご夫婦に、「ぜひ一緒に夕食を」とご招待を受けた。本来ならば固くご辞退するべきことではあったのだけれど、半ば強引とも言えるご主人のお誘いを断り切れずに、結局はご一緒させていただくことになった。でも、同時に嫌な予感がしたのも事実。

 

 その予感は的中し、割烹のカウンター席で夫婦の間に挟まって座った(座らされた?)私は、ご主人と奥さんの互いの不満を交互に聞く羽目に陥った。

 

 「ねえ、やましたさん、聞いて下さいよ。こいつは本当に片づけが下手で下手で。今回だって、きっとすぐ元に戻ってしまうに決まってますよ」とご主人。

 

「ねえ、やましたさん、分かるでしょう。この人はこんな人なんです。自分は何もしないくせに、いつも私ばっかり責めるんです」と奥さん。

 

 要するに、この夫婦はどちらも私を自分の味方につけることに躍起になっていることに変わりなく、自分の「正しさ」だけを主張して同意を得ようとしていることも同じ。

 

 お互いの本音を、誰か「他者」をクッションにしてしか言えない夫婦の関係。ならば、このワンクションがなければ、この夫婦はいつも押し黙ったまま、家の中でじっと不満を溜め込んだままでいるのだろうか。

 

ご主人は、ずっとモノを溜め込む妻の有様が厭だった。

奥さんは、ずっといたわりのない夫の言葉が厭だった。

 

ご主人は、ずっとスッキリとした家に帰宅できることを期待していた。

奥さんは、ずっと優しい言葉をかけてもらえることを期待していた。

 

 ただ、この事実があるだけ。どちらの言い分が正しく、どちらの言い分が間違っているなどと、この夫婦の真ん中に座らされた私が判定するものでもないだろう。

 

 お互いが「厭」と感じているところ、こうして欲しいという相手への「期待」が食い違ったまま、それに気づかないまま、ずっと結婚生活を20年近く営んできたという事実があるだけ。

 

 それにしても思う。夫婦の有様に、どこからか借りてきたかのような教科書通りのアドバイスをすることなど、あまりに迂闊なこと。◯◯メソッドといった類のマニュアルやスキルがそう簡単に通用するものではないことは覚えておいた方が賢明だろう。

 

 夫婦とは、時に激しいバトルをし本音をぶつけ合ってこそ関係が機能するものであり、そして、新たな関係を展開させていくことができる。本音を沈め溜め込んだまま、表面上を稚拙なコミュケーション・テクニックでならしたとしても、どこか釈然としないのは明らかなこと。

 

 さあ、思い切って本音を出そうか。でも、このいわば「本音の断捨離」が一番苦手で、一番勇気がいることも、また事実。

 

 なぜなら、私たちは、本音を言うことを一番怖がるように教育されているからですね。

 

<yahoo!ニュース JAPAN やましたひでこ>

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamashitahideko/20171028-00077430/