「はっ…!ははっ!はははは!
あははははははははははは!!」

甲高い悪魔のような声で
笑い出したサエキョは、

額から流れる血を顔中になすりつけた。


「きゃはははははははは!!」

なにしてんの、怖い!
ホント怖いよこの子。

目ぇむいちゃってるし
瞳孔開いちゃってるし!



さすがにマイムちゃんも
顔を引きつらせてフリーズしている。


「ははははは!……あーあ」

ひとしきり笑ったサエキョは

ポケットからスマホを取り出して
おもむろに誰かに電話を。


「ああ、あのね、今アタシ、素敵な
場所にいるの。これから死ぬの!
死ぬんだ!きゃはははははは」


怖い怖い怖い。

誰に電話してるのか知らんが、
さぞかし相手も怖かろう。



シンタロさんが

「はいはい、じっとしなさいね」

テキパキと傷の手当てをして
血だらけの顔をおしぼりで拭いている。


「シンタロ、今日も挿れて…」

シンタロさんの首に腕を絡みつける
サエキョを見て

ギギギと奥歯を噛み締めるマイムちゃん。


もうやだ、ほんと嫌。



マイムちゃんを座らせて、

「とりあえず飲んで」

お冷やを置いた。


グイーッと一気に飲み干して

「ふう……」

大きく息を吐くマイムちゃん。




サエキョはうっとりした顔で
シンタロさんを見つめ

「ショックで不正脈になっちゃった。
ほら、触って。アタシの心臓…」

完全に誘惑モード。



「あの子、完全に病気だよね…」

「うん、そう思う」

「なんでシンタロもよりによって
あんな子に手を出したかなあ…」

「やっぱり、おぱーいの魅力が…」

コソコソと小声で喋っていると


ガランガラン!!


ドアベルが激しく鳴り、

「サエキョちゃん!!」

飛び込んできた人を見て、一同 驚愕。


「ヤ、ヤタベェ!!?」



サエキョが振り返り

「来てくれたんだ!さすがアタシの彼氏」

なんて言うから

「えっ!?彼氏???」

シンタロさんとマイムちゃんの
頭上にハテナがいっぱい浮かんでいる。


この爆弾低気圧女、
本当に手がつけられない。



「無事なのね、良かったわ…」

駅から走って来たのだろう、
ヤタベェの息はハァハァと上がっている。

なのに顔は真っ青で、
それを見ているこっちが
いたたまれない気分になった。




店に迎えに来た代行タクシーに
サエキョを押し込んで
付き添いのシンタロさんも乗り込み

「悪いけど留守番頼むね」

タクシーは走り去る。



やれやれ。

ひと息ついて店内に戻ると

ヤタベェがマイムちゃんに
サエキョとのいきさつを説明して
いるところだった。


「じゃあ、ヤタベェはサエキョのこと
好きじゃないのね?」

「申し訳ないけど、そうなるわ」

「ヤタベェも馬鹿な男だねえ」

「軽率だったと後悔してる」


ヤタベェの前に冷たいイオン飲料と、
マイムちゃんに温かいお茶を置いた。


「どうぞ」

「あ、ありがとうグレ子ちゃん」

「ヤタベェは、ゆっくり飲んでね」

「うん、ありがとう」

私はヤタベェの横に座り、
お砂糖たっぷりのホットミルクを飲む。



「ヤタベェ、仕事中じゃなかった?」

「ちょうど家に着いた所だったの」


そうなんだ。

疲れてるだろうに…



「ダッシュしてる間に5キロくらい
痩せたんじゃない?」

マイムちゃんが笑えない冗談を言うと
ヤタベェは真顔で

「ここんとこ数ヶ月で10キロ減ったわ」

溜息混じりに答えた。



「早く別れた方がいいよ」

私もマイムちゃんと同じ意見。


ヤタベェも当然、
同意だろうと思っていたら

「そうはいかない。僕に責任あるから」

意外な返事だった。



待てよ?

別れないつもり?


それはヤタベェの勝手だけど

私とは?

私とはどうするつもりなんだ?



つーか、

責任ってなんだよ?

ヤった女に責任があると言うなら
私にも責任あるってことでしょう?


なんなの、ヤタベェも。

意味わからんわ。



それに、

サエキョが電話で『素敵な場所』って
言っただけなのに

どこかわかってすぐ飛んでくるのも
なんかムカつく。


それなりに意思疎通はしてるって
ことだよね、そんなの。


不愉快。





ヤタベェを帰らせて、
黙々と店の中を片付ける私。


マイムちゃんは1人で

「いやー、でも驚いたよねー、
まさか2人が付き合ってたなんてさ」

サエキョとヤタベェの話をしてる。


胸くそ悪いから聞いてない。





「ただいま、留守番ありがとう」

シンタロさんが戻ってきた。

「お疲れ様でした」

奢ったんだろうけど、
タクシー代いくらかかったのやら。



「あ、グレ子ちゃん。来週から
ちょっと休みにしてもらえる?」

えっ?

「なんで?」

くわえ煙草のシンタロさんは
煙たそうな顔をしながら答える。


「怪我をした以上、暴力なんだよね。
マイムのしたことは」

「悪かったと思ってるもん…」

しょぼくれるマイムちゃん。


「で、サエキョちゃんに訊いたわけよ。
示談か、提訴か、解決方法をね」

提訴だったらどうしよう…

ハラハラする。


「そしたら、しばらく店を手伝わせて
くれたらそれでいいってさ」

「おお、それは良かった」

マイムちゃんと一緒に胸を撫で下ろした。


「ボランティア2人もいらないから、
悪いけどグレ子ちゃんはお休みで」

「わかった」


マイムちゃんのためだ、一肌脱ごう。