ふたつ隣の駅のホームで降りる。

階段を駆け上がり改札を通り、
待ち合わせの南口まで小走り。


駅前広場の一番大きな木の下に
見慣れた人影があった。


いた…!

無意識に足が早まる。



あの大きい背中…

好きだったんだ、すごく。



「お待たせ!」

声をかけると

「急に呼び出してごめんなさいね」

にっこりと微笑むヤタベェ。


「ううん!会えて嬉しい」

素直な言葉が口から出る。


ヤタベェに対する不信感みたいなのは
どこかへぶっ飛んでいた。




「グレ子ちゃん、見て」

ヤタベェが見渡した先は

街路樹に装飾されてキラキラと
青色に光るイルミネーション。


「綺麗だね」

「綺麗ね」


まさか誰かとクリスマスを
一緒に過ごせるとは思わなかった。


ちょっとうるうるしちゃう。





「なにか食べたいのある?」

「ヤタベェは?」

「グレ子ちゃんの好きなのでいいよ」

「んーと、じゃあ中華!」

「はははは!」

思いっきり笑われた。


「クリスマスなのに中華でいいの?」

「うん、餃子食べたいんだ」


本当はオシャレな店で
クリスマスディナーを、なんて
言ったりするのかもしれないけど

どこも混んでるだろうしね。


「10分くらい歩いたら、美味しい
中華屋さんあるよ」

「あら、行きましょう行きましょう」


なんの躊躇もなく当然のように
ヤタベェが私の手を握ってきて

私達は手を繋いで歩く。



「グレ子ちゃんの手、冷たいね」

「ヤタベェの手はあったかいね」


顔を見合わせて、ふふっと笑う。

子供のように繋いだ手を
ブンブンと振った。



やっぱり

ヤタベェといると楽しい。






「えい、らっしゃい!」

中華屋さんは案の定ガラガラで
サラリーマンらしき人が
ニラレバ炒めと炒飯を食べている。

餃子とラーメンと麻婆豆腐を頼み
交互に突っつく私達。

「美味しいわ!」

「ほんと?良かった!」

ヤタベェは基本的に食べ物は
なんでも美味しく食べる人だから

一緒に食事しても、気が楽なんだ。




お会計の時、ヤタベェはいつも
お財布を出す私を背中でブロックする。

絶対払わせてくれない。


私のためにお金を使わせてしまうのは
罪悪感しかなくて

店の外へ出て

「ありがとう!ご馳走様でした。
毎回払わせちゃってごめんなさい」

申し訳なくて謝ると

「そんなのいいのよ!気にしないで」

にっこり笑って私の手を取り、
繋いだ手をニギニギしてくる。

『大丈夫、大丈夫よ』と言うように。



この恩をどうやって返そうか、
私に何かできることはないか、

そんなことを考えながら
繋いだ手にリードされて歩く私。




「グレ子ちゃん、この後どこか行く?
それとも帰らなきゃかしら」

「うーん……」


ここは帰るべきだと思う。

家のことを何もしてこなかったから
家族が帰る前に片付けたい。


でも

このままヤタベェと一緒にいたいと
思うのは確かで。


どっちの気持ちが強いか…


「もうちょっと大丈夫」

「あら、嬉しい」


ヤタベェの勝ち。






駅ビルの中にあるミトリを
見に行くことにした。


家具をひと通り眺めた後、
食器売り場でテンションが上がる私達。


「白いお皿が並んでると何だか
ウキウキしてきちゃうわね!」

「食器棚、全部白いお皿にしたいね」

「それは素敵でしょうねえ」


ヤタベェと一緒に暮らしたら
楽しいだろうなあ、なんて

ちょっとだけ想像したりする。




ヤタベェがパンダの柄のマグカップを
「かわいい、これかわいい」と言って
ずっと触っていたので

「それ、私がプレゼントするよ。
クリスマスだもん」

そう言うと、ヤタベェはパァァと
笑顔になった。


「ほんと!?ありがとう!!」

喜んでもらえて、私も嬉しい。



「グレ子ちゃんは欲しいのない?」

「ううん、ないよ」

「そっか…」

これ以上お金を使わせたくないもの。





レジで支払いを済ませて
ヤタベェの姿を探すと、

ヤタベェも何か買ったようで
他のレジで袋に入った商品を
手渡されていた。




店の外のベンチに座り

「はい、プレゼント」

ヤタベェにマグカップを渡すと

「はい、グレ子ちゃんにもプレゼント」

さっきの袋を渡された。


「ええっ!よかったのに!!」

驚く私に

「いいのよ、開けてみて」

ヤタベェはニコニコと微笑む。


「ありがとう!なんだろ」

袋をゴソゴソと開けると

「あっ…これは!」

ヤタベェに買った物と同じ、
パンダのマグカップ。


「うふふ、お揃いよ」

「お揃いだ!!」

実は私も気に入ってたんだ。


「嬉しい!」

ヤタベェとお揃いの物を持てるのも。




こうして

気持ちを交換できる相手がいる。



相手の笑顔を見て

嬉しくなる自分がいる。



自分の笑顔を見て

嬉しく思ってくれる相手がいる。



幸せって、

こういうことなんだろうなぁと思う。







ヤタベェと一緒の電車に乗り
最寄り駅に着いた。


ホームに降りた私に

「またね、グレ子ちゃん」

ヤタベェが手を振る。



ドアが閉まる直前、
また電車にピョイッと飛び乗った。


「あれっ!どうしたの」

びっくりするヤタベェに

「えへへ」と笑う私。




もっと一緒にいたい。