ヤタベェの部屋で
私達は前よりもっと深く愛し合う。
「グレ子ちゃん、好きよ」
「名前を呼んで…私の」
「好きだよ、マナミ……」
もう、いろんなことは
どうでもいい。
こんなに好きなんだもの。
ヤタベェの先が私の奥に触れると
「ああっ…!」
全身が歓喜に打ち震えた。
もう、どうだっていい。
ヤタベェは今、こうして
私を愛してくれている。
それだけでいいや。
いつか、終わりが来るとしても。
ピロロロロ…
ヤタベェの携帯が鳴った。
まさかサエキョ!?
「はい」
布団の端を握りしめながら
ヤタベェの顔色を伺う。
「はい、では明日」
電話を切ったヤタベェは
「大丈夫よ、仕事の電話」
そう言って
私の頬を撫でてくれた。
そっか、よかった…
なかなか寝付けなくて、
ベッドから出て服を着た。
「眠れないの?」
「あれ?ヤタベェも起きてた?」
「うん」
ヤタベェも起き上がり
もそもそとパーカーを被る。
暖かいコーヒーを淹れて
ヤタベェはブラック、私はカフェオレ。
お揃いのパンダのマグカップで飲んだ。
「あのね、グレ子ちゃんには
言ってなかったんだけど…」
「グレ子ちゃん?」
いたずらっぽく睨み付ける。
「ああ、マナミ」
「よろしい」
とか言って、私はヤタベェのこと
「ヒロト」なんて呼べないけどね、
恥ずかしくて。
「サエキョちゃんのことだけど」
「うん」
「あれから1度、サエキョちゃんに
LiNEしたのよ。心配だったから」
「そうなんだ。返事は?」
「『まだ彼氏ヅラしてんの?キモい。
シンタロとアタシの邪魔すんな』だって」
「それで終わり?」
「ブロックされたし、終わりね」
「そうでしたか、お疲れ様でした」
「ご迷惑おかけしました」
お互いお辞儀をして、
サエキョとのことは完全終了。
スッキリ忘れようと思う。
大丈夫。
サエキョは、もらい事故みたいな
もんだったんだから。
「ところでシンタロは無事なんだろか」
私も同じことを思ってた。
「メールしてみる?」
「うーん、あの子は平気で
人の携帯見るからなー」
まさに『被害者は語る』ね。
『BARロンタシー』で検索すると、
店のシイッターも更新してないし
ブログも私が最後に書いたままだった。
せめて更新はして欲しいなあ…
仕事なんだからさ。
「あ、あそこはまだあるかしら?
カラオケのコミュ」
マイムちゃんやみんなと知り合った、
『集まれカラオケ好き』ね。
「スマホ対応になって様式は
だいぶ変わったけど、まだあるよ」
電車の往復の時たまに見てるし。
「営業中でも暇な時はパソコンで
話してたから、シンタロさんいるかも
しれないね!」
さっそく開いてみた。
スレの過去の流れをザーッとたどっても
シンタロさんの気配はない。
サエキョはここまで見ないだろう
ということで、個人チャットに
メッセージを入れておいた。
『いろいろ大丈夫?』と。
それから2時間くらい経った頃、
私の携帯が鳴った。
「あれっ?シンタロさん?」
「どーも。グレ子ちゃん元気?」
ヤタベェは私に近づいて
聞き耳を立てている。
「私は元気だけどシンタロさんは?」
「別に変わりないよ。ちょっと勃ちが
悪くなったかも!ははは!」
勃ちって… ははは!って…
「サエキョちゃんは?」
「ああ、いるよ。全っ然仕事しねーけど」
やっぱりそうでしたか。
「シンタロさん、大丈夫?」
「なにが?」
「精神的にやられてない?」
それが一番心配だった。
「ああ、サエキョか。アイツごときで
俺は変わんねーから安心して」
ごとき、ねえ…
「おーいサエキョー!」
『なーに?』と小さく声が聞こえる。
「俺さあ、お前の人格は好きじゃないし
どーでもいいって言ってあるよなあ?」
『アタシのおっぱいとアソコしか
好きじゃないんでしょ!?』
「そうそう。お前に対して何の責任も
義務もないよなあ?」
『わかってるよ!私がヤリまんで
ビッチだから都合がいいんでしょ!』
「よしよし、よくわかってるねえ。
後でイカせてやるからな!」
『店開ける前にヤッたばっかじゃん!』
「…ってことで、グレ子ちゃんは
心配しないように。じゃーね!」
ブチッ
電話は一方的に切れてしまった。
ポカーンとする私とヤタベェ。
「う、うまくやってるのかな…?」
「そ、そうじゃない…?」
男と女
いろんな形があるのかもしれないね。
この2人の形は理解不能だけど。
シンタロさんから『責任』という
言葉を聞いて、思い出したことがある。
「ヤタベェ、ひとつ訊いていい?」
「なあに?」
「サエキョちゃんに対して
責任取ろうとしてたよね?」
コーヒーを飲み干したヤタベェが
真剣な表情に変わる。
「うん。好きでもない子を
軽率に抱いてしまったからね」
「じゃあ、私を抱いたことは…」
悲しそうな瞳で
ヤタベェは私を見つめた。
「マナミのことは最初からずっと
好きだったもの。ずっと待ってたんだもの。
好きだから欲しくなったんだもの。
軽率でも何でもないよ」
「だって私、人妻だよ?もちろん
ヤタベェに責任も義務も罪もないし、
責めるつもりも全くないけど…」
ぎゅっと抱きしめられた。
「僕もどうしていいのかわからない。
ただ好きなの。どうしようもない」
ヤタベェ…
「私も人妻のくせに、ヤタベェが好きで
どうしようもない。もう止められない」
腕に力を入れて、
ヤタベェの大きな体を抱きしめる。
そして私達は
ふたたび快楽をむさぼり合った。