桜がちらほらと咲き始め、
ヤタベェから
「今度の土曜日、お花見しましょう」
と、ス力イプが来た。
頭と心を「無」に切り替えて、
会いに行く私。
「あのね、お見合いのことだけど」
「うん」
「明日、会うことになったの」
「そうなんだ」
心がグラグラする。
表に出すな。
動揺を気付かれるな。
青い空と桜の枝を見上げ、
長い息を吐く。
「無」、「無」。
ホテルのベッドの中で
「好きだよ、マナミ…」
耳元で優しく囁かれても、
私はセフレ
私はセフレ
自己暗示のように頭の中で繰り返す。
そうだ。
お見合い子ちゃんと付き合い始めて
私が消える前に、
今までの恩返しをしなくては。
自分が習得している
ありとあらゆるテクニックを使い、
ヤタベェを喜ばせた。
「マ、マナミ…どうしたの」
「なにが?」
「すごい攻めてくるけど…」
「気持ちいいでしょ?」
「うん……」
私の中に入るまでもなく、
「あっ…もうダメ!」
ヤタベェは果ててしまった。
「ごめん」
きつく抱きしめられ
「明日の朝、もう1回ね」
頬や額や唇に何度もキスをされる。
ヤタベェがシャワーを浴びている間
火照ったままの私の部分を
自分の手で慰めた。
「マナミ、もうすぐお誕生日よね」
「うん」
「なにか欲しいのある?」
ヤタベェの心が欲しい。
あなたの心も体も全部欲しい。
お見合いの子に会わないで欲しい。
なんて本音を言えるはずもなく
「特にないよ」
作り笑顔で答えた。
「誕生日、なにか欲しいのある?」
ハルにも同じことを訊かれ、
「ええっ!」
心底驚いてしまった。
長い結婚生活の間、そんな質問
されたことがないもの。
「美顔器欲しい!」
即答した。
「持って肌に当てるヤツね」
検索してAzomanの画像を見せる。
「これこれ!」
「ふーん、わかった」
「やったあ!」
素直に喜ぶ私。
欲しかったけど、6千円もするから
買えなかったんだ。
嬉しい嬉しい!
こんなに誕生日が待ち遠しい
ことなんてなかった。
ウキウキしながらその日を待ち…
どん底に落ちる。
「な、なにこれ!?」
貰った箱を開けると、
希望した商品とは違う物が入っていた。
「これじゃないよ!」
しかも、明らかに高価そうな美顔器。
ハルはドヤ顔で私に言う。
「あんなのより、こっちの方が
すごいんだって。ホラこのスイッチで…」
いきなり涙がボロボロと溢れた。
「えっ、なんで泣くの!?」
驚いて目を丸くするハル。
「これが欲しかったんじゃない…」
望んだ物より高機能なんだし
ここは喜ぶべきなのだが、
私の意思を尊重してくれなかったことが
悲しくて悲しくて仕方なかった。
「なんだよそれ!」
ハルは怒り出す。
「せっかく友達と相談して
友達が考えて選んだやつなのに!」
えええ?
「なんで友達が?」
「美顔器なんて、そんなの
男の俺にわかるわけないだろ!!」
あっ、友達って女か。
そんなの絶対おもてなし子じゃん。
「なんだよ!もういいよ!これから
プレゼントは現金にするから!!」
バーン!とドアを開けて
ハルは出て行ってしまった。
メソメソと泣き続ける私。
悲しいと言うより、虚しい。
なんで自分の誕生日に
旦那の彼女が選んだ物を
貰わなきゃいけないんだ。
よく見たら、包装紙もリボンも
手作り感あふれている。
たぶん、おもてなし子が
ラッピングしたんだろう。
またアピールかな…
『あなたの旦那は私のものです!
彼と私は愛し合っています!
でも私はあなたの家族も好きです!』
的な。
ハルもハルだよ。
彼女が選んだ物を、
平気で嫁にプレゼントする神経。
それで嫁が喜ぶと思ってる神経。
理解不能。
頼むから普通に
誕生日を祝って欲しい……
次の土曜日、
ヤタベェは焼肉屋に連れて行ってくれて
「いっぱい食べなさい」と
私の分のお肉を焼いてくれた。
ヤタベェの家に行くと、
私が大好物のTapsのチーズケーキが
冷蔵庫にあって
「デザートは別腹よね?」と
2人で味わいながら食べた。
ベッドの横の隙間には
私の好きなキャラのパズルがあって
「1000ピースなのよ、これ!」
張り切るヤタベェと一緒に頑張って、
夜中までかかって完成させた。
糊を伸ばし、フレームに入れ、
「遅くなったけどお誕生日プレゼント。
よかったらお部屋に飾ってね」
帰り際に持たされた。
電車の中で
こみあげてくる感情を我慢できずに
メソメソと泣いた。