怒って暴言吐いたり
怒りに任せて暴れたり
かと思えば
どん底まで落ち込んだり
メソメソ泣いたり
ここんとこ ずーっと情緒不安定だ。
それでも
発作は起きなくて、
薬を飲まずに済んでいる。
逆流性食道炎になるくらいで。
更年期障害もなく、
生理も毎月きちんと来ている。
なんだろう。
ヤタベェと、
セックスのおかげかな。
職場で新しい取引先の人と話しても
「えっ、伊藤さん40過ぎてるんですか!」
なんて驚かれるし。
まあ、お世辞だろうけどね。
夫婦部屋のベッドに寝転んで
スマホを見ていたハルが、
「俳優の◯◯、結婚だって!」
どーでもいいことを報告してきた。
床に敷いた布団の中で
私もそのニュースを検索する。
「ほんとだ。相手は…15歳年下の
女子アナかー、へええー」
別に珍しいことじゃないし
好きな俳優でもないし
興味もないのでスマホを置く。
「15歳年下かあー、そうかー」
なぜかそこに食いついたハルが
何度もつぶやいていて、
面倒くさいから無視して
ゴソゴソと布団を被り直す私。
「あのさ」
「…なに?寝るんだけど」
話しかけるなよ。
「いや、15歳年下の女の子と
結婚したらどうなのかなーって」
知らんがな。
「別にいーんじゃないの?」
本当にどーでもいい。
ハルはなぜか興奮気味で
「もし、もしだよ!?俺がさ、
若い女の人と再婚したとするじゃん」
くだらない『もしも話』を続けてくる。
「そしたらさ、俺よりも子供達の方が
年が近くなるじゃん?」
だからなんだっつーの。
「子供達は、どう思うのかなーって」
「どーも思わないでしょ」
なんの話だよ。
「そうかなあー、そんなもんかなあー」
納得いかないご様子。
「一番年が近くなる咲希なんか、
きっと微妙に思うんじゃないかなあ」
だから一体なんの話だよ。
「咲希だって彼氏もいるんだし、
大人には大人の事情があるって
わかるでしょ、そんなもん」
「そうかなあー」
あーもう!キリがない。
「はい、寝ますよ!」
ピッ!
リモコンで電気を消した。
この、異様なまでの
ハルの執着は何なのか。
それがわかったのは、
もうちょっと後になってからの話。
豚貴族でヤタベェと呑む。
本当は居酒屋、好きじゃないんだ。
うるさくて話が聞こえないし、
落ち着かないし。
でもヤタベェはお酒大好きなので
仕方なく付き合う私。
「そういえば、お見合いの子ね」
聞きたくないなあ…と思いつつ、
「うん、あれからどうなった?」
質問してみる。
「月イチでお出かけしたりしてたんだけど
昨日メールが来てね」
「うんうん」
「『正式にお付き合いしませんか?』
って言われたの」
終わった……
私、ここで終了。
覚悟はしていたけど、
やっぱりショックは大きい。
「そっか…」
ヤタベェとは今日でサヨナラか…
でも、今夜は土下座の1回で
抱いてもらおう。
最後の思い出に。
「断ったわ」
「えっ?」
「ごめんなさいって返事したの」
「ええっ!?」
意外、意外、意外。
「なんでよ!?」
「うーん…」
腕を組んで首をひねるヤタベェ。
「なんか、合わない」
なにが!と言いかけて、やめた。
性格が合わなかったのか、
それとも
すでにセックスしていて
肌が合わなかったのか、
うっかりそんなことを訊いて、
『セックスが合わなくてー』
なんて言われたら
泡吹いて倒れちゃいそうだもの。
「そっか、お疲れ様でした」
「はい、なんか疲れました」
ビールとカクテルで乾杯した。
「ヤタベェ、好きよ」
ぎゅーっと抱きついた。
「そのヤタベェっていうの、
いつまで呼ばれるの?僕」
「恥ずかしくて名前呼べないもん。
これからもずーっとヤタベェって呼ぶ」
「変なの」
ふふふ、と笑い合って
私達は激しくお互いの舌を絡ませた。
「好きよ、好き」
「僕も」
やっぱりセフレなんて無理だよ。
こんなに肌が合う人に
巡り会うことなんてないだろう。
…いや、
「もう我慢できない…欲しい」
こんなに求められ、愛され、
「もっと…もっと強く」
「もっと欲しい、もっと…」
こんなに求め、愛することなど
私の人生において
これが最後だろう。
「ヤタベェ、来月お誕生日だよね?」
「そうなの!40歳が近付いてきたわ」
「いいなぁ、まだ30代で…あっ!」
ここで気付いた。
ハルがしつこく言ってた
15歳年下がどーのこーのって、
もしかして、
おもてなし子ちゃんが
まさに15歳年下なんじゃ…?
あの時の
なぜか興奮気味だったハルの言葉が
脳内でリピートされる。
『もし、もしだよ!?俺がさ、
若い女の人と再婚したとするじゃん』
これは……
フラグか?
つ、ついに、
おもてなし子ちゃんと結婚か!?
そして私とハルは
いよいよ離婚か!?