ここ数年は「満州国演義」の新刊を楽しみにしていましたが、癌と闘いながらの執筆とは全く知りませんでした。
初めて船戸さんの著書を読んだのは1988年「山猫の夏(上・下)」でした。若者の成長物語と思わせておいて、破滅的な復讐譚に変わる驚愕のストーリー…。2日間で読了。
その後「猛き箱舟(上・下)」「伝説なき地(上・下)」「砂のクロニクル」etc…辺境を舞台に日本人の主人公が活躍(酷い目に遭うとも言う)する数々の物語。そして最大の特徴は本の分厚さ、上下巻1000ページは当たり前。「砂のクロニクル」単行本の3段組は伝説…文庫本で読むことをおすすめします。分厚くても、読み辛くても読ませるパワーがありました。’90前後が全盛期(最も人気があったという意味)だったと思います。
その後も新刊が出るたびに読み続けてきました。相変わらず外国が舞台の「蟹喰い猿フーガ」「蝕みの果実」「午後の行商人」「流沙の塔」etc …。
2000年前後から日本を舞台にした「海燕ホテル・ブルー」「新宿・夏の死」「三都物語」等。
そして近年、船戸さんが書き続けていたのが「満州国演義」です。第1巻の「風の払暁」を2008年に読んで以来、新刊が出るたびに読んできました。飛び飛びで読むので物語の細部は忘れてしまうのですが…。
そして今年2月に刊行されたのが最終巻「残夢の骸 満州国演義9」です。満州を舞台に始まった話でしたが、8巻目では南方に舞台が移り「満州国演義」ではなくなりかけていたのですが…。
本作では舞台が満州に戻り、そして終戦。さらに終戦後…。主人公の四兄弟の運命は…。船戸さんの多くの作品では、最後に主人公に過酷な運命が訪れてきました。しかし癌を患い死を覚悟した船戸さんが書いた最後の作品、今までとは違う結末があるのではないか?注目していた結末…ここでネタバラしするわけにはいきませんが、船戸さんらしい決着のつけ方というべきでしょう。そして本作を完成させた船戸さんの執念に感服しました。
分厚くハードな冒険小説の数々、体力がある若い頃だからこそ楽しめたのだと思います。そして重厚な「満州国演義」は今だからこそ楽しめる作品。船戸さんの作品と並走してこれたことは幸せでした、そしてもっと読みたかった。
一か月遅れの追悼文となりましたが、船戸与一さんのご冥福をお祈りします。