前回までのあらすじ


「響けこころ」-オリオンの願い3


僕たちが屋上に着くと和美さんはまださっきの場所に立っていた。


でもその場所は屋上を囲っている一メートル程のコンクリートの

フェンスの上でその幅もどう見ても三十センチ位しかなかった。


長く立っている所為かその足元も心なしかふらついていた。


「か・・和美」


さとるさんは和美さんの後ろに近づくとそっと声を掛けた。


その声に気づいた和美さんはゆっくりとこちらを振り返った。


「さ・・さとる」


「何を馬鹿なことしてるんだ」


「メモは読んだよ。でも君は勘違いしてるんだ」


「そうよ和美さん。あなたは誤解いしてるのよ」


僕もさとるさんの後ろから和美さんに声を掛けた。


「あなたは誰」


「さとる・・あの人意外にもこんな若い彼女が居たのね」


和美さんは僕の方を見るとまた後ろを振り返り下を見ると

飛び降りるような仕草をした。


「おいおい。確かに僕は若くて可愛いけど・・

 どう見ても高校生だし・・若すぎでしょ・・」


僕は少しうれしい気持ちを抑えながら心の中で呟いた。


「えっ。この子和美の知り合いじゃないの・・」


「何今更惚けてるの・・」


確かに和美さんと初対面の僕は彼女の誤解に火を注ぐ

存在の何者でもなかった。


「こころ。間に合った・・」


そこに更に追い討ちを掛けるようなタイミングで香織が

エレベーターを降りて屋上にやって来た。


「さとる酷いわ。もうひとりいたのね・・」


「彼女が三人もいたなんて・・」


「えっ。な・・何のこと・・こころ・・」


「おいおい。香織ちゃん。あんた間が悪すぎ・・」


死をも覚悟した女性の思い込みは恐ろしいそう

僕は心の中で思っていました。


「和美。違うんだって・・」


「和美さん。僕たちは下の公園で星の観察をしてた

通り縋りの可愛い女子高生なんです」


「可愛いは余計よこころ・・」


「可愛い子。さとるの好みだったわよね」


「ねっ。やっぱり誤解したじゃない・・」


「和美さん。訂正します。僕たちは可愛くありません・・」


「でも聞いて。あなたが見たさとるさんの携帯メールの相手も

 アパートで会った女性も実はさとるさんのお姉さんなのよ」


「さとるさんに和美さん以外の彼女なんていないのよ」


「さとるさんが愛してるのはあなただけなのよ」


「さとる。それって本当なの・・」


「本当だとも・・当たり前じゃないか・・」


「君に内緒にしてたけど僕の実家は病院なんんだ」


「それで大学の医学部をでて実家を継ぐようになってたんだけど」


 「君が知ってるように昔からの役者になる夢が捨てきれずに

  親父に無理言って五年間だけという約束で東京に残って

  がんばっていたんだ」


「そして今年がその五年目で姉は親父の代わりに僕を連れて

 帰るために東京に来てたんだよ。たくさんのメールのやり取り

 もその為だったんんだよ」


「それって・・本当なの・・」


「本当さ。だから・・さあそこから降りてくるんだ」


「分かったわ」


そう言って和美さんが屋上のフェンスから降りようとした時

強い風に煽られ彼女はバランスを崩した。


「あああ・・」


僕と香織は助けようとする気持ちと裏腹に思わず目を手で覆った、


そして目を開いた時フェンスのこちら側にはしっかり抱きあった

二人の姿があった。


「せ・・セーフ」


僕と香織は顔を見合わせ微笑んだ。


「わたし怖かった・・死ぬかと思った」


「なんだ・・僕はてっきり君が自殺でもするんじゃないかって

心配してたんだよ」


「あなたを置いてなんか死ねる訳ないじゃない・・」


そう言って二人は僕たちの前でもう一度強く抱き合った。


「ご馳走様。心配して損しちゃったね」


「でもよかったじゃない。ハッピーエンドで・・」


「そうね・・ハ・・ハックション」


「香織ったらもう。いいところなんだから・・」


「でも確かにここ寒いね」


「そういえば僕も何か背中がゾクゾクしてきちゃった」


「風邪引いたかな・・」


「ハ・・ハックション」


幸せそうに抱き合う二人の後ろで僕と香織は風邪の

悪寒に震えながら抱き合っていた。


そしてそれから三十分後。


「和美。今まで内緒にしててごめんね」


「うんん。いいのよ・・さとるの気持ちがわかったし」


「それでこれからどうするの。実家に帰って病院を継ぐの」


「うん。実はまだどうしょうかまだ迷ってるんだ」


「これからの事は和美とゆっくり話し合って決めようと思って」


「ありがとう。うれしいはさとる・・」


「あっ。流れ星・・・」


「本当だ。きっと僕たちの願いはかなうって事かな」


「そうね・・」


そう言うと二人は公園のジャングルジムの上で肩を寄せ合い

ながら次々に流れる流星を見つめていた。


しかしそんな流れ星にまったく気づかず僕たちは二人の後姿を

ライトバンの傍で羨ましそうに見ていた。


「何かいいい雰囲気ね」


「うん。テレビドラマのラストシーン見てるみたい・・」


「ほんとに・・」


「でもお礼に家まで送ってくれるって言うから待ってるんだけど」


「少し早くして欲しいわよね・・でももう少し待ってよか・・」


「ところで香織ちゃん。あんた何写メとってるのよ」


「だって流れ星見れなかったしせめて田村先生に

 努力はしたってとこ見せようと思って・・」


「・・でオリオン人形劇団の文字写してどうするのよ」


「まあ気持ちだけでもって思ってさ・・」


「どうせ撮るなら星空でも撮れば・・」


「あっそうだよね・・」


そう言って香織が夜空に携帯を向けたその時だった。


オリオン座の横を流れ星がひとつ流れて行った。


「香織。見た・・見たよね・・」


「あはは・・きっと神様の御褒美よね」


「って・・うまく撮れた・・」


「うんん。ごめん・・見とれてて撮ってない」


「香織・・あんたって・・」


僕はいつものように香織の首をヘッドロックしていた。


そしてその次の日の放課後当然の事香織と僕は風邪気味

の中しっかりと田村先生の地獄の補習を受けたのでした。


「おわり」



「響けこころ」-こころ33