「ただいまぁ。誰もいないの」

ママは帰るなり台所に行き水道の蛇口を
捻るとコップの水を一気に飲み乾した。

「あー疲れた」

そしてそのまま食卓の椅子に腰掛けると
バッグの中から小さな紙切れを取り出し
ため息をついた。

「ママ。帰ったの」

奥の部屋の襖が開くとパパとマチコちゃん
がパジャマ姿のまま起きてきた。

「ママ。同窓会どうだった」

そう言うとパパとマチコちゃんはママの
隣に腰掛けた。

「ママ。何見てるの」

マチコちゃんはパパの膝の上でママの視線の
先にあるのテーブルの上の小さな紙切れに
目をやった。

「これはね。ママが小学校の時に20年後の
 自分に宛てて書いたお手紙なの」

「それじゃあ。昨日言ってたタイムカプセル
 見つかったんだ。良かったじゃないか」

パパもマチコちゃんの頭越しにその紙切れを
見ながらママの顔を覗き込んだ。

「そうなんだけどね・・」

ママは手でその紙切れのしわを伸ばしながら
またひとつため息をついた。

そして今日の昼間同窓会でみんなと一緒に
小学校に行って校庭に埋めたタイムカプセル
を掘り出した事やその後で仲の良かった友達
数人と食事をしながらいろんなお話をした事
そんな事を少しずつ二人に話してくれた。

「で・・ママ。20年前に書いた事すっかり
 忘れちゃったって言ってたけどどんな事
 書いてあったんだい。聞かせてくれよ」

「マチコも聞きたい」

パパとマチコちゃんはそう言うと身を乗り出
してテーブルの上の紙切れを覗き込んだ。

「そう・・やっぱり読まなきゃだめ」

ママは憂鬱そうな顔で二人の方を見て言った。

「分かったわ。じゃあ読むわね」

「20年後の私へ・・」

「今あなたはすっかり大人の女性になり
 夢だった里中満智子先生の様な漫画家
 になっていますかそれとも結婚をして
 子供をたくさん生んで良いお母さんに
 なっていますか・・」

「パパ。里中満智子って誰」

「うん。それはね。ママが子供の頃
 憧れてた少女漫画家の先生なんだ。
 マチコの名前もこの先生から取って
 つけたんんだよ」

「ふーん」

パパは笑顔でマチコちゃんにそう答えた。

「しかし小学6年生にしては少しませた
 文章だね。・・で続き読んでよママ」

ママは隣で茶化すパパを横目でチラッと
一度睨みつけるとまた続きを読み始めた。

「それとも去年亡くなったお母さんの
 代わりに妹や弟の面倒を見てまだ
 独身でお父さんのお店のお手伝いを
 してるのかな・・」

「おとうさんって言うのはお菓子屋さん
 をやってる練馬のじぃじの事だよ」

パパはマチコちゃんにそう説明した。

「どちらにしろ頑張り屋さんで優しい
 あなたの事だからきっと素敵な大人に
 なっている事でしょうね」

そこまで読むとママは手紙をテーブルの
上へ置いてもう一度ため息を付いた。

「素敵な手紙じゃないか。でもどうして
 そんなに浮かない顔をしてるんだい」

パパは不思議そうな顔でママに尋ねた。

「つづく」



「響けこころ」-タイムカプセル1