「図書室・・・」
「ここで間違いないですよ。早紀先輩」
テーブルに広げた見取り図の上で零児君の振り子型ペンダントは
小さく弧を描いて回り始めた。
「ありがとう零児君」
早紀先輩はタロットを引き終えると零児君を見て微笑んだ。
「upside-down」
「まあ・・面白くなりそう」
「哀れな女教皇だこと・・」
「ところでちか。隼人はどこいったの・・」
「あれっ。本郷先輩・・今まで私の隣にいたんですけど・・」
「そういえばキングもいないよ早紀・・」
そう言う雛先輩はさっきからテーブルの上の小さな紙切れと睨めっこしていた。
「雛・・どう・・解けそう・・」
「うーん。なんかこの数式見たことあるんだけど・・」
「雛先輩。私・・解けちゃいました・・」
「38+29+46-13=100」
「ちか・・あんたね・・数学解いてるんじゃないのよ・・」
「はい正解・・ってそんな訳ないでしょ・・」
「すみません・・」
「ホラ・・オコラレチャッタニャン・・」
「なによ・・にゃあご・・うるさいわね・・」
「ちか・・またあんた・・そのネコ連れてきたの・・」
「すみません・・にゃあごが久し振りにキングに会いたいって言うんで・・」
「いつも思うけど・・本当にそんな事言ってんのこのネコ・・」
雛先輩は金縁眼鏡の真ん中を人差し指でチョコツと跳ね上げるとジロリとこっちを睨んだ。
「雛・・茶化すんじゃないよ・・」
「ちかは私達と違って本当に動物と話ができるんだから・・」
早紀先輩はそう言いいながらテーブルの上のタロットのカードをシャッフルした。
ここで説明しておきます・・
キングと言うのは本郷先輩のお父さんが飼っている引退した元警察犬のシェパードで「マザーグースの会」の準会員なんです。そしてにゃあごと言うのは私の飼っているラグドールの雄ネコの事なんです。
早紀先輩が言ってましたが実は私、生まれつき霊感が強くて小学校に上がる頃には・・・いろんな精霊さんの力を借りて自然界に生きる諸々の生き物と話が出来るようになっていたんです。
「で・・このネコは何ていってるのよ・・」
雛先輩は持っていたボールペンを指先で器用に回した。
「えっ・・はい・・その・・つまり・・」
「暗号解読は美人で優しい雛先輩に任せろって・・」
「えっ・・そんな事言ってたの・・」
「可愛いとこあるじゃない・・ネコちゃん」
そう言うと雛先輩は私の膝の上にいたにゃあごの頭を2、3回撫ぜた。
「モウ・・ヨシテクレニャン・・」
「オイラアタマサワラレルノニガテニャン・・」
「チカ・・コノコニアタマサワンナイヨウニイッテクレニャン・・」
私は雛先輩に作り笑いをしながら慌ててにゃあごの口を押さえた。
「里香。それで今日はおば様達は帰ってこないんでしょうね」
「ええ。心配ないわ・・」
「父さんが死んでまだ初七日が終ったばかりだって言うのに義母さんは今日も朝から銀座に買い物に出かけて行ったの・・だから夕方までは帰ってこないわ・・」
「だから今の内に父さんの遺言書を見つけ出さないと・・」
早紀先輩の隣で美少女を絵に描いた様な里香さんは少し不安げな様子でそう答えた。
「心配しないで・・私達に任せて・・絶対に探し出して見せるから・・」
「里香を絶対アメリカへなんか行かせないからね・・」
そう・・話は前後しますが私達は今横浜の外人墓地近くにある丘の上の洋館の応接間にいるんです。
この洋館は早紀先輩のクラスメート里香さんの自宅なんです。
この付近は外国人の方の豪邸が数多く建ち並んでいる事でも有名な場所なんですが貿易商のお父さんが建てたこの洋館はその中でも一、二を争うほどの豪邸なんです。
実は一週間前里香さんのお父さんは自宅の階段から足を滑らせて亡くなられたんです。しかし里香さんは2年前にお父さんと再婚した義母さんの陰謀なのではと疑っているみたいなんです。
と言うのも里香さんは数ヶ月前にお父さんから
「わたしに何かあったら机の引き出しの中に遺言書があるから・・」
と鍵を渡されたらしいんです。
ところが亡くなる2、3週間前になって今度は今雛先輩が一生懸命に解いているあの紙切れを義母さんには内緒にとそっと渡されたみたいなんです。
すると直後にあの事故が起って・・
里香さんはお父さんが亡くなって直ぐに言われたようにその鍵で机の引き出しを開けて見たらしいのですが遺言書は何処にも見当たらなかったんです。
そんな時義母さんから
「里香さん。財産は半分差し上げますが二十歳になるまではわたしが管理させて頂きます」
「それからあなたには来月から独りでアメリカに留学してもらいます」
そう怖い顔をして言われて益々お父さんの死に対して疑惑を持つようになったんです。
そしてここに来て義母さんの弟と名乗る怪しい男まで現れお父さんの残した貿易会社を義母さんと一緒に乗っ取ろうとしているみたいなんです。
このまま遺言書が見つからないと遺産分割協議によりお父さんの残した大切な財産が義母さんの良い様にされてしまうと弁護士さんから聞かされた里香さんはすぐに親友の早紀先輩に相談したって訳なんです・・・
「じゃあ・・零児君を信じてまず二階の図書室を探してみる事にしましょうか・・」
早紀先輩の一言に私たちは一斉に席を立つと応接室を出た。
そして長い廊下を抜け玄関の踊り場に出ると本郷先輩とキングが私たちを待っていた。
「早紀ちゃん。さっきからキングが二階へ上がる階段の方をを睨んで吼えて困ってるんだけど・・」
「ビンゴ見たいね早紀・・」
「今回は零児君の見立てが当たってるかも・・」
雛先輩はそう言うと真っ先に階段を登って行った。
「つづく」


