前回までのあらすじ


「響けこころ」-夜烏3


「やっさん。ば・・ばけもの見たって・・」


三上君は落書きしてた手を止めるとやっさんの話に喰い付いた。


「三上の旦那も・・聞いてください・・」


今で言うホームレス・・あの頃は浮浪者と言っていたが・・


当時東中野の駅近くのガード下にダンボールを敷き詰めて流れ者の

浮浪者20人近くが不法に暮らしていた。


やっさんは大卒の元エリートサラリーマンだとかで最年長と言う事もあり

彼らの中でいつしか長老として崇められていた。


年齢はどう見ても60過ぎ・・ぼさぼさの白髪頭をツバ広の野球帽で隠し

健康的に日焼けした顔は所々が油のシミで黒光りしていた。


それに笑うたびにキラリと光る前歯の金歯2本が印象的だった。


「旦那。最近わしらの生活もままならんのです・・」


「あいつらが来てからは・・」


「わしらのテリトリーを荒らしやがって・・」


「食い物屋の残飯・・残り物を根こそぎ持っていく・・」


「わしらにとっては・・・死活問題です・・」


そう言うとやっさんは拳をカウンターに激しく叩き付けた。


「やっさん。あいつらつて・・」


三上君はやっさんの鼻先に顔を近づけると鼻息荒く詰め寄った。


するとやっさんは我輩の方へ向き直すと・・


「吉村の旦那。あの黒尽くめのカラスどもですよ・・」


「カ・・カラス・・」


三上君は面食らったようにやっさんに聞き直した。


「そうでさ・・泥棒ネコのように昼間屯してどっとやって来て

 根こそぎわしらの食料を奪い去って夜にはさっと近郊の

 森に去って行く・・悪魔みたいなやつらでさ・・・」


三上君はすっかりやっさんの話に釘付けになっていた、


「やっさん、ところて゜・・さっきの怪物ってのは・・」


「それでさぁ・・三上の旦那・・」


やっさんは改めて三上君の方へ向き直すと・・・


「2丁目のW大学の寮の屋上で見たんでさ・・・」


「お・・・うぅん・・」


三上君は我輩の隣で大きく喉を鳴らした。


「カラスの親玉・・・化け物でさ・・」


「人間ほどの真っ黒い塊が・・満月に照らされて・・」


「今思い出すだけでもそりゃ・・恐ろしくて・・」


やっさんは大きな黒い瞳を少年のように輝かせながらカウンターの

中の我輩たちを見つめると本当なんだとばかり首を縦に振った。


「実に興味深い・・面白い話だね・・・」


その時やっさんの後ろから聞き慣れた声が・・・


振り向くと派出所の入り口にはまたもや常連数人の男女の姿が・・


「つづく」