「やっさん。ば・・ばけもの見たって・・」
三上君は落書きしてた手を止めるとやっさんの話に喰い付いた。
「三上の旦那も・・聞いてください・・」
今で言うホームレス・・あの頃は浮浪者と言っていたが・・
当時東中野の駅近くのガード下にダンボールを敷き詰めて流れ者の
浮浪者20人近くが不法に暮らしていた。
やっさんは大卒の元エリートサラリーマンだとかで最年長と言う事もあり
彼らの中でいつしか長老として崇められていた。
年齢はどう見ても60過ぎ・・ぼさぼさの白髪頭をツバ広の野球帽で隠し
健康的に日焼けした顔は所々が油のシミで黒光りしていた。
それに笑うたびにキラリと光る前歯の金歯2本が印象的だった。
「旦那。最近わしらの生活もままならんのです・・」
「あいつらが来てからは・・」
「わしらのテリトリーを荒らしやがって・・」
「食い物屋の残飯・・残り物を根こそぎ持っていく・・」
「わしらにとっては・・・死活問題です・・」
そう言うとやっさんは拳をカウンターに激しく叩き付けた。
「やっさん。あいつらつて・・」
三上君はやっさんの鼻先に顔を近づけると鼻息荒く詰め寄った。
するとやっさんは我輩の方へ向き直すと・・
「吉村の旦那。あの黒尽くめのカラスどもですよ・・」
「カ・・カラス・・」
三上君は面食らったようにやっさんに聞き直した。
「そうでさ・・泥棒ネコのように昼間屯してどっとやって来て
根こそぎわしらの食料を奪い去って夜にはさっと近郊の
森に去って行く・・悪魔みたいなやつらでさ・・・」
三上君はすっかりやっさんの話に釘付けになっていた、
「やっさん、ところて゜・・さっきの怪物ってのは・・」
「それでさぁ・・三上の旦那・・」
やっさんは改めて三上君の方へ向き直すと・・・
「2丁目のW大学の寮の屋上で見たんでさ・・・」
「お・・・うぅん・・」
三上君は我輩の隣で大きく喉を鳴らした。
「カラスの親玉・・・化け物でさ・・」
「人間ほどの真っ黒い塊が・・満月に照らされて・・」
「今思い出すだけでもそりゃ・・恐ろしくて・・」
やっさんは大きな黒い瞳を少年のように輝かせながらカウンターの
中の我輩たちを見つめると本当なんだとばかり首を縦に振った。
「実に興味深い・・面白い話だね・・・」
その時やっさんの後ろから聞き慣れた声が・・・
振り向くと派出所の入り口にはまたもや常連数人の男女の姿が・・
「つづく」
