「おい。この子はまだ生きてるぞ」
「君。しっかりするんだ・・」
微かな意識の中で響き渡るサイレンの音。
「僕はいったい・・」
朦朧とする意識の中で僕は体中の痛みに耐えながら記憶を辿っていた。
「そうだ・・父さん・・母さん・・」
激しい頭痛が僕を襲う・・
そして降り頻る雪の中微かに開いた僕の瞳に写ったものは・・
無数の赤色燈に・・紅蓮の炎に包まれた黒い塊。
「おーい。こっちへ救急車を廻してくれー」
「君。もう大丈夫だからね・・」
「いや・・連れてかないで・・」
「いや・・いや・・」
「父さん・・母さん・・」
「僕をおいて行かないで・・」
「いやぁぁ・・」
「お嬢様・・こころお嬢様・・」
いつもの悪夢から目覚めるとベットの横でお手伝いのよねさんが
心配そうな顔で僕を見つめていた。
「よねさん・・僕・・」
ペットの上の僕はゆっくりと体を起こした。
「ひどく魘されていましたが・・」
「またあの時の夢でございますか・・」
よねさんはそう言うと着物の袖でそっと目頭を押さえた。
「もうすぐお嬢様の誕生日・・そして旦那様と奥様の・・」
そこまで言うとよねさんは窓のところへ行くと静にカーテンを開いた。
「雪・・」
「こころお嬢様。雪でございます・・」
よねさんはそっと指でガラスの曇りを拭うと振り返りこちらを見た。
僕はベットから降り素足のままカーディガンを羽織るとよねさんの横に並んで立った。
「ほんとだ・・雪・・」
「子供の頃はあんなに雪が好きだったのに・・」
僕はゆっくりと舞う窓の外の雪を見つめながら小さな声で呟いた。
「こころお嬢様・・」
よねさんは少し悲しそうな顔をして僕の方を見た。
そしてし僕達二人は暫くの間無言で窓の外を見ていた。
「なんちゃって・・よねさんすぐ湿っぽくなるんだから・・」
僕はいつものように元気一杯の明るい笑顔でよねさんに微笑んだ。
「そうですね・・よねもすっかり歳を取ってしまって・・」
「最近は涙もろくなってしまいました」
「でも・・こころお嬢さまのその明るさには敵いませんね・・」
そう言うとよねさんも僕の方を見て微笑んだ。
「そうそう今日はお兄様達が来られますよ・・さあ早くお着替え下さい。」
「はいはい。」
僕は部屋の寒さに両腕を擦りながら明るく返事した。
「それから朝食の用意が出来ておりますので下でお持ちしております。」
よねさんはそう言って軽く会釈をすると部屋を出て行った。
僕はよねさんが部屋を出て行ったのを確認すると自分の机へ行き一番上の引き出しを開けた。
そして黒く煤けた小さな金のペンダントを手に取った。
「父さん・・母さん・・」
僕は両手でペンダントを胸に押し付けると天井を仰ぎ涙ぐんだ。
「なんでこころを独りにして逝っちゃったの・・」
涙が急に溢れ止まらなくなっていた。
僕の涙が一滴ペンダントの上へ落ちた。
そして僕はペンダントをそっと開いた。
そこにはあの頃のままの優しい父さんと母さんの・・
笑顔の写真が僕に微笑みかけていた。
そしてそこからはいつもの様に懐かしい「ユーモレスク」の曲が
静に流れてきた。
「つづく」
