前回までのあらすじ


こころ33


そんな意外な展開に乾君達男子だけじゃなく僕や沙織たちもびっくりしていた。


「こころ。お待たせ・・」


聞き覚えのある声がした。


か・・香織なの・・


何故か取り囲んだ内の女子生徒達の中央でおどけてピースサインをしているのは間違いなく香織だった。


「あんた・・何やってたのよ・・僕をひとりにしといて・・」


僕は呆れたのとホッとしたのと複雑な気持ちのまま香織の方へ駆け寄った。


「ごめんごめん・・」


「あっ、紹介するね・・私の幼馴染の早苗」


香織はそう言うと隣に居たちょっとボーイッシュな女の子を僕に紹介した。


「大内早苗といいます・・よろしく・・」


「あなたの事はいつも香織から聞いてるわ・・」


「大内・・早苗・・って・・」


「あの有名な大内道場の娘さん・・」


早苗さんはニコリと頷いた。


大内道場って言うのは僕達のの区にある有名な空手道場だった。


早苗さんはそこの道場の一人娘・・


僕達と同じ学校だって事は知ってたけど会うのは初めてだった。


でも確か去年の女子高校空手の全国大会で準優勝したってことは聞いていた。


香織が学校でもう一人今日の事を知らせなくっちゃって言っていたのはこの早苗さん・・


「静香さんって言ったわね・・」


「この大バカ野朗達にはそんな手緩い事じゃダメよ・・」


そう言って早苗さんは静香さん達の前まで行くと振り返り今度は乾君のほうを見て睨んだ。


「早苗・・お前どうしてここに・・」


早苗さんを見て何故かあの乾君が焦っている。


「乾君。いや・・健太郎君・・いや・・健ちゃん・・お久し振り・・」


「健ちゃん・・最近私を避けてるでしょ・・」


早苗さんはそう言いながら乾君の方へ近付いて行った。


「いやっ・・そんな・・事はないよ・・」


あの番長の乾君が亀のように肩をすくめ怯えながら首を横に振った。


そして早苗さんが一歩近付くと乾君は一歩後ずさりしていた。


「っていうか・・健ちゃん・・今年になって全然私と会ってくれないじゃない・・」


「健ちゃんひょっとして・・去年の暮れの事・・まだ気にしてるんじゃない・・」


「心配しなくっても大丈夫よ・・お父さんには何も言ってないから・・」


怯えた表情で2、3歩後ずさりした所で乾君は後ろに居た男子にぶつかったが

その早苗さんの言葉を聞くとまた直ぐに気を取り戻し前へ出て来た。


「こころ・・これから面白くなってくるから・・まあ見てて・・」


突然香織が僕の耳元でそう囁いた。


それでも僕はまだその時この状況を良く呑み込めてなかった。


「そ・・そうかっ・・親父さんには何も言ってなかったのかっ・・」


乾君は周りの男子生徒を少し気にしながら早苗さんに近付くとそう言った。


「でもね・・今、言おうかどうしようか迷ってるとこ・・」


「去年の暮れ神社の境内でいきなり私にキスしたって言ったら家のお父さん怒るだろうなぁー」


「中学の時なんか男子と手を繋いだって言っただけでその子ぼこぼこにされてたし・・」


「キスされたなんて言ったら・・」


「あぁぁ・・想像するだけで私怖くなっちゃう・・」


早苗さんはそう喋りながら乾君の周りをゆっくり一周すると少し意地悪そうな目つきで微笑んだ。


「ねっ・・言った通り面白くなってきたでしょ・・」


香織は僕の顔を見て悪戯っぽくニッコリ笑った。

そうか早苗さんって乾君の彼女だったんだ。


でもこれって・・半分脅しじゃないの・・僕はおでこに手を当てて俯いた。


「ねえ・・今すぐこんな喧嘩やめて一緒に帰ろう・・」


「それから後ろの君達も喧嘩やめるんだったら一緒に来た私の友達紹介するわよ・・」


早苗のその言葉を合図に後ろに居た内の女子達は一斉に乾君の後ろに居た男子達にウインクや投げキッスをしてみせた。


それに反応したかのように鼻の下を伸ばしてお互い顔を見合わせる内の学校の男子達・・


「ねっ・・所詮今の男の子達ってこんなもんよ・・ホント単純なんだから・・」


香織は僕の顔を見て勝ち誇ったように微笑んだ。


しかしこんな作戦で乾君達の喧嘩を止められるのか僕はまだ少し不安だった。


「ねえ健ちゃんどうすんのよ・・」


「あんた達もどうするの・・」


早苗さん達は再び一斉に乾君達に詰め寄った。


「あははは・・」


「なんだラーメン屋。散々人を笑ってコケにしといてお前の方こそ彼女の尻にしかれてるって訳だ・・」


「情けない。そんな奴との喧嘩は俺の方こそ願い下げだ」


今度は一転して藤堂君がそう茶化した。


「なにおぅ・・」


「馬鹿野郎。誰がこんな事で喧嘩やめるって言った」


そして乾君と藤堂君はお互いの胸ぐらを掴むと再び睨みあった。


「やっばりねっ・・男って単純だからすぐ元に戻っちゃう・・」


「香織。もう誰にもこの喧嘩止められないよ・・」


僕は香織の顔を見てもうだめって感じで首を振って見せた。


その時だった


お姉ちゃん。聞こえる


僕の頭の中でそう声がした。


なに・・なによこれ・・


助けて・・助けて欲しいの


確かに今僕の頭の中ではっきりとそう声が聞こえた。


こんな時に・・今度は一体何なのよ・・


「つづく」




河川敷3