「静香・・おまえどうしてここに・・」
「竜二。あんたこそこんなとこでなにやってんのよ」
「あんた私に約束したわよね・・」
「俺は絶対甲子園へ行くって・・私も甲子園へ連れてってくれるって言ってたじゃ ない」
「それが何よ・・ちょっとぐらい怪我したぐらいで甲子園行く夢諦めちゃうんだ」
「あんたの夢ってそんなもんだったんだ・・」
「ここで夜遅くまでピッチング練習してたじゃない・・」
「私・・そんな竜二が好きだった」
「そんな場所でつまんない喧嘩なんかして・・ここはあんたの夢の原点だった んじゃないの」
「それにこの事で野球部のみんなの夢まで奪っちゃう事になるのよ・・」
「みんなが毎日どれだけ大変な練習に耐えて頑張ってるかはあんたが一番 分ってるはずでしょ」
「これ・・覚えてる・・あんたが始めて内の野球部で勝利投手になった時のウ イニングボール・・」
「これ私に持っててくれって・・そして次は甲子園のウイニングボールをプレ ゼントしてくれるって・・」
静香さんはポケットから少し汚れたボールを取り出すとゆっくり藤堂君に近付いて行った。
そして藤堂君にそっと手渡した。
「し・・静香・・おまえ・・」
そう言うと藤堂君は暫く思い出の詰まったそのボールを見つめていた。
「将太。あんたもあんたよ・・不良の真似していつまで竜二とつるんでこんな事やってるつもり・・」
「お父さん達にかっこよくミュージシャンになるって啖呵切ってて・・」
「あんたの夢もこんな中途半端なものだったんだ・・」
今度は静香さんの横で腕組みしていた瞳さんが将太君に向って言った。
そうか・・さっき僕の手を掴んでたあの子が将太君だったんだ・・
「本当は来月のストリートミュージシャンのコンテストに出場するつもりでこんな喧嘩に付き合ってる場合じゃないけど竜二とは子どもの時からのダチで断りきれないって・・」
「そう私に愚痴ってたじゃない・・だからわたし静香に連絡して・・」
「今日の喧嘩の事みんなに教えたのは私よ・・」
「あんたの下手な歌でプロになれるなんて思ってないけど・・」
「いつもギター手入れしながら熱く夢を語る将太の目が好きだった・・」
「だから大事なコンテスト前に喧嘩で大事な指を怪我してもらいたくなかったし・・」
「勝手に今日の事みんなに言ったのは謝るけど後悔はしてないわ・・」
「みんなも私や静香の気持ち分ってくれて集まって来てくれたの・・」
瞳さんは後ろを振り返ると他の女子に目配せした。
「あんた達もバカな喧嘩しないで帰るわよ」
腕組みして取り囲んでいた他のN校女子達も声を合わせて叫んだ。
「優香・・」
「尚美・・」
「千夏・・」
「直子・・」
「美咲・・」
N校の男子達は口々にそう呟くと驚きを隠せない表情で他の男子達と顔を見合わせた。
「そう・・みんなここにいるN校男子の彼女達よ」
沙織が僕の側まで来てそっと囁いた。
「さぁ・・どうすんのつまらない喧嘩やめて・・帰るの帰らないの・・」
早乙女さんも一歩前へ出るとそう叫んだ。
「あははは・・お笑いだぜ・・本当の彼女の登場って訳か・・」
「よかったじゃねえか藤堂・・俺達に怖気づいて負ける前にグットタイミングで助け舟が来て・・」
「藤堂。お前みたいな腰抜けと喧嘩する気もなくなった・・」
「そいつら連れてさっさと帰って・・デートでもしてなっ・・」
「あははは・・」
乾君がそう言って茶化すと内の男子達も一斉に大声で笑った。
「なにおぉぉ・・」
藤堂君は握り締めたボールから視線をはずすと顔を上げ乾君を睨んだ。
「静香わるい・・ここまでコケにされて黙ってるわけにはいかない・・」
藤堂君はボールをそっとポケットに仕舞うと再び拳を握り締めた。
なによ乾君・・どうして茶化すのよ・・
折角静香さんたちの気持ちが藤堂君たちに伝わろうとしてたのに・・
また喧嘩始まっちゃうの・・今度こそもう誰にも止められない・・
そう思って僕がため息を付いた瞬間・・
「ちょっと待ちなさいよ・・」
えぇぇ・・なになに・・僕はその声にまたまた振り返った。
なんと男子達を取り囲んでいた僕達のその後を今度は内の制服を着た女子生徒たちが取り囲んでいたのだ。
「つづく」
