「お待たせー連れて来たわよ」
香織は生徒会室のドアを開けると中に居たみんなに向ってそう言うと僕の
背中を押すようにして中に入って行った。
生徒会室と言っても十畳ほどの広さの部屋の中には壁側に設置されたキャビネットが一つと長机を縦に二つ併せにしたものが二個ど真ん中に置かれその脇に会議用の移動式黒板がひとつ無造作に置かれているという殺風景な所だった。
ただ壁に大きく貼られた今月の生徒会スローガンのポスターだけが唯一生徒会室である事を主張していた。
しかしそんな普段は閑散とした生徒会室の中も今日に限っては少し違っていた。
中央に置かれた長机を挟んで両側に男女3人が睨み合うように座りその後ろに何やら怪しげな茶髪の女子高生二人が立ちこちらを見て睨んでいた。
「遅い・・香織・・何してたの」
そう言ったのはあの生徒会書記の沙織だった。
「ごめんこめん・・この子ちょうど職員室に呼び出し喰らってて・・」
「紹介します。この子がさっき言ってたクラスメイトの観月こころです」
香織はそう言って3年生の生徒会長小泉さんと副会長麻生さんに僕を紹介した。
「小泉さん。すみません・・こんな大事な時に紹介した私がこう言うのも何なんですか・・」
「私も香織から間接的にしか聞いた事がなくて実際の所半信半疑なんです」
「それに見てのとおり観月さんにそんな力があるようにも思えませんし・・」
沙織が賺さずそう口を挟んだ。
「いや・・今回の事件は僕達の学校にとっても僕達3年生にとっても大事な事・・」
「今はそんな事も言っていられません・・彼女の力を信じましょう」
いつもクールな小泉さんは僕の方を金縁の眼鏡越しに見ながら静に語り始めた。
「僕達の学校は都内でも有名な進学校・・3年生は大学受験に向け一番大切な時期ですし・・運動部の生徒も高校生活最後の目標達成に向け今地区予選を前にして日々がんばっている最中です・・そんな中一人の心無い生徒の暴力事件で学校の名誉・・そして各部活の生徒・・受験生の努力が水の泡となるような事はどうしても阻止しなければなりません。学校やマスコミに知られる事なく速やかに事件を解決したいのです・・分ってもらえますか・・観月さん。」
そんな小泉さんの真剣な眼差しに僕は何かやばい事に巻き込まれたとその時初めて気づいた。
「ご紹介しましょう・・こちらの方々が今回乾君達の事を知らせてくれたN校の生徒会の方達です。」
副会長の麻生さんが紹介するとN校の生徒会の人たちは僕に向って軽く会釈した。
「N校の生徒会長の小沢といいます」
「我々の学校の野球部はご承知の通り夏の甲子園の優勝候補としていまマスコミからも注目されています。」
「そんな時に内の学校の厄介者・・不良生徒の藤堂と言うのがいまして・・」
その時後ろに居た茶髪の女子高生の一人の顔色が変わった。
「厄介者ってなによ・・あいつはそんなんじゃないわ・・」
そこまで言うとその子はもう一人の背の高い茶髪の女子高生に止められ後ろに下がった。
「今回その藤堂が些細な事でこの学校の乾という生徒と決闘などと言う暴力事件を起こそうとしている事実を聞きさっそくご報告にお伺いしたわけです・・我々も野球部の諸君の努力を水の泡にしたくありませんし・・学校やマスコミに気づかれないうちに解決しようとここの生徒会の方々にこうして協力を求めに来たと言うわけです。」
「後は副会長の早乙女君からお話してもらいます・・」
そして隣に居た女子生徒に視線を送った。
「私・・副会長の早乙女と申します」
「実は私もここに居る静香さんたちから今回の件を知らされました・・」
早乙女さんがそう言うと後ろの例の女子高生達が頭を下げた。
「しかし彼女たちが言うのには今日区内の何処かで決闘がおこなわれるというだけで場所が何処か分らないというのです」
「そこであなたの力でその場所を・・」
「私もここの生徒会の方達からあなたの事を聞いた時は半信半疑だったのよ」
「でも・・もう時間がないの・・お願い・・」
早乙女さんがそこまで言うと
「竜二・・いや藤堂君たちの居場所さえ分れば私達が責任をもってきっと・・止めさせて見せます」
静香さんと呼ばれた茶髪の女子高生は真剣な顔でみんなに訴えた。
「実は・・彼女は藤堂君の・・彼女なんです」
早乙女さんがそう言うと静香さんはちょっと照れた様子で
「こっちに居るのは今回竜二と一緒にいるタ゜チの将太の彼女の瞳です。」
そう紹介されると静香さんの横に居たもう一人の背の高い茶髪の女子高生もみんなに向って頭を下げた。
「竜二の事は中学の時から知っていますが・・もとは真面目な奴なんです」
「1年の時は内の学校の野球部でレギュラーのピッチャーやってたし・・今年のはじめに利き腕の右手を怪我して野球ができなくなつてから今のようにグレてしまって・・やけになって不良っぽくしてるけど・・ホントにいい奴で・・」
静香さんはそこまで言うとうっすら涙を浮かべて言葉を呑み込んだ。
「将太だって本当はミュージシャンになる夢を持ってるのに開業医の親から医大に行って医者になれって無理やり今の学校に入れさせられて反抗してグレてるだけなんです・・竜二と攣るんで悪さしてるけど・・本当はいつかそんな事止めたいと思ってるんです・・二人ともいい奴なんです・・私達きっとあいつらを止めさせて見ます。」
瞳さんも唇を震わせながらみんなの顔を見てそう訴えた。
「どうでしょう・・観月さん・・そういう訳なのですが・・」
「お力を貸して貰えないかしら・・」
僕は悩んでいた・・
最初冷めた生徒会の人たちの話を聞いた時は先生達のように学校の体面だけを繕う理由だけでこの事を僕に頼んできのではと・・・
しかし静香さんたちの話を聞いているうちに僕の考えも少しずつ変ってきていた。
でも・・どうする・・僕にそんな力は最初っからないし・・
ここまで話を聞いて・・みんなの期待も裏切れないし・・・
そんな事を考えながら僕は困り果て無意識の内に中庭の見える窓の方へ歩いていた。
「こころ・・お願い・・力を貸して・・」
香織の声がまた背中の方から聞こえていた。
だって・・僕にはひとの唇は読めても・・居場所なんて分る力はないし・・
その時だった
この窓からは中庭の景色と共にその木々の向こうに聳え立つ体育館も見ることが出来たのだが・・
今その体育館の横手で屯しているのは間違いない・・いつも乾君たちとつるんでいる2年の悪たち・・
この距離なら唇が読めるかも・・僕は直感的に精神統一して彼らの唇を読んでいた。
「僕のところへ・・届け言霊。僕の心に・・響け言霊」
僕の視力はアフリカのマサイの戦士と同じ・・彼らの唇をしっかり捉えていた。
「アラカワノ・・カセンジキ・・テッキョウノシタ・・ロクジダッテヨ・・」
「ミンナニシラセロ・・オクレルナヨ・・」
「ワカッタ・・デキルダケ・・ヒトヲアツメトク・・」
滑り込みセーフ。こころはそう呟いていた。
そしてみんなの方を振り返るとニッコリと笑って見せた。
「みなさん・・こんなの出ました・・」
「今日6時・・場所は荒川河川敷・・鉄橋の下・・」
そんな僕の言葉にそこに居たみんなは呆気に取られていた。
「つづく」

