こころ33


「香織・・声が大きいわよ・・」


僕は職員室の方を振り帰りながら人差し指を立てて口に当てた。


「ご・・ごめん。」


香織は肩をすぼめると舌をペロッと出し職員室の中を窺ってみた。


「いいから・・ちょっと来てよ」


香織は小声でそう言うと僕の手を引っ張るようにして渡り廊下を渡り中庭に連れ出した。


そして息を整えると・・


「こころ・・大変なの・・大事件」


「香織の大事件にはもう慣れちゃった・・今度は一体何よ・・」


「もう・・今度こそ大事件なのよ・・」


「決闘よ・・決闘」


香織は両手を広げて大袈裟なジェスチャーを交え口を尖らせて興奮してそう言った。


「血統・・血糖・・」


「なに・・それ・・」


僕が呆気に取られてぽかんとした顔をしてると・・


「そうね・・こころにそう言っても無理か・・」


そう言うと香織は古い映画の何とかとか言う西部劇を例に僕に分るように説明をし始めた。


「そうか・・それでそのロープと犬が悪者と戦いに行くわけだ・・」


「もう・・茶化さないで・・・ワイアット・アープトと親友のドグ・ホリディよ・・もう・・」


僕のボケに香織はマジで頬っぺたを膨らませた。


「それが・・決闘よ・・男の戦い・・」


香織は左手を腰に当てると右手の人差し指を僕の顔の前で軽く振って見せた。


「何かちょっとは分ったような気がするけど・・」


「・・でその決闘と今回の大事件がどう関係あるのよ・・・」


「うん・・もう・・こころに話すといつも遠回りになるんだから・・」


「実はね・・」


香織は汗で曇った眼鏡をポケットから取り出したハンカチで丁寧に拭くと


「内の学校の番長の乾君知ってるでしょ・・」


「うん。番長っていう死語には当てはまらないけど・・知ってる・・」


「あの商店街のラーメン屋の息子でしょ」


僕はまた茶化すようにそう言った。


「そう・・その乾君。」


「って言うか子供の頃は乾のお兄ちゃんって呼んでたけど・・」


「私達も子供の頃いじめられっ子に泣かされた時良く助けてもらったわよね・・」


確かに香織が言うように内の学校の2年生の乾君は一見不良を気取っていつも何人かの同級生を引き連れて数々の悪さを重ねていたのは事実だった。


でも僕達とは幼馴染で一つ年上の優しいお兄ちゃんでもあった。


しかし子供の頃から乱暴者で親達からは厄介者扱いされていた。


そんな乾君だけど僕の子供の頃こんなエピソードがあった。


あれはまだ僕の母さんが生きていた頃・・小学校の5年生の頃だった


僕の家で誕生日会をした時に乾のお兄ちゃんを招待した事があった。


誕生日会は家の関係て゛お金持ちの男の子や女の子ばかり来ていてプレゼントは高価なものばかり。


しかし会に遅れてきたお兄ちゃんは顔を泥だらけにして手に野原で摘んできた菜の花を僕にプレゼントしてくれたんだ。


それを見てた母さんは「あの子本当は心の優しい子だよきっと・・」って言ってくれた。


そんな乾のお兄ちゃんも今は内の学校の番長となり僕たちとも殆ど言葉を交わす事もなかった。


「何こころ考え込んじゃってるの・・」


「実はその番長の乾君たちが今日どこかでN校の生徒達と決闘するって言うのよ・・」


何よ・・今回は本当に大事件じゃない・・・


「つづく」