海外で日本人の漁師さんに出合ったのがきっかけです。
初めての海外生活で、一人勝手に「民間親善大使たるべし」と、日本にいた頃とはかけ離れた人格を演じ、その一方で日本でありふれているものが手に入らず、頻繁に小包を送って貰っている日本人を妬み、疲れ果てていた頃です。
うらぶれた港町の酒場で典型的な日本人のオッサンに声をかけられました。
空想上の日本式タオルが頭に巻かれて見えるほど典型的でした(・・;)
向こうも、異国で同国人を見つけてうれしかったのでしょう、親戚のような親しさで、なぜ自分がこんなところにいるのかを語ってくれました。
オッサンは四国だかどこだかの漁師で、遠洋漁業乗組員の交代要員として、飛行機でこの国にやって来たそうです。
空港からこの港町までは、アドレスが書かれた、よれよれのメモ一枚を見せることでたどり着いたらしいです。
手違いがあって、言葉もろくに通じない町で、乗船予定の船の寄航を待つハメになってしまったとのこと。
南米沖で操業していたこともあるそうです。
「こもすた」「むいびえん」「ぐらしあす」「くわんと」「ちか」などと実践的に会得したスペイン語を得意そうに披露してくれました。
「ここの毛唐どもには通じねーんだ」とも言っていました。
若干悲しそうに。
酒はあまり飲まないのだが(たぶん見栄を張った表現だと思います。だって酒場でコーヒーカップを小指を立てて手にしているのですから)、この酒場にはパチンコの替わりにスロットマシンをするために毎日通っているのだとも言っていました。(本当はパチンコをしたいのだが、これしかないからしょうがない、日本のパチスロは嫌いだとのこと)
この一言が私にとってある種の啓示となりました。
そう、肩肘張らずに日本でやっていた暮らしをそのまま移せば良いのだと。
物質的なことは現地で手に入るもので置き換えてしまえば良いのだと。
政治経済文化など一切語らず、ミニスカートの女の子がいれば、さりげなく姿勢を低くし、ごみだしルールにうるさい近所のババアには悪態をつき、ふぁんどれいじんぐの集団は「もう済ませました顔」でやり過ごせば良いのです。
「やっく!」などと言われても、サルモネラ菌など気にせず、TKGを食べれば良いのです。
ぱんつはトランクス派ですが、ないものは欲しがらず、女物のようなビキニブリーフを購入して、恥ずことなく堂々と穿けば良いのです。
男物のスタイリングフォームがなければ、VIDAL SASSOONを頭の上にひねり出せば良いのです。
事実オッサンは、パチンコで培った勝負勘から、常勝街道まっしぐらでローカルの尊敬を集め、「ビールおごるよ!」(「ばいゆーぶーず!」)の声は「わりい、飲まねーんだ!」(たぶん「What do you, no money ha?」と聞こえる)と煙に巻いてました。
何故か大受けでお約束の挨拶になっているようでした(^.^)