二十年近く前のことです。
カトマンズからバンコクへ移動の途中、トランジットのため例によってダッカ(現地での発音は「タカ」に聞こえる)市内で一泊する際(宿泊も食事もタダ、というより航空運賃含まれていると言った方が正しいのでしょうか)に、休暇を終えてロンドンに向かう現役グルカ兵と同室になりました。
大抵、日本人は日本人同士になるよう部屋が割り当てられるのですが、この時は日本人は自分一人だけだったためでしょうか。
二十歳前後でブレザーにレジメンタルタイという学生さんのような外見と苦労知らずのような屈託の無い笑顔から、最初はてっきり留学に向かうおぼっちゃまかと思いました
話をしてみると彼はかの有名な「グルカ兵」で、休暇でネパールに帰国し、奥さんと一人娘が暮らす我が家で一週間ほど過ごした後、ロンドンに帰るところで年齢も三十近いのだとのことでした。
トレッキングでネパール山岳民族の驚異的な体力を目にしたばかりの私はすぐに納得したものです。
何せ、山道を自身の体重と同じ重さの荷物を担いで、ゴムゾーリ(ツァッパル)履きの足で走るように登って行くのですから。
グルカ兵といえば特殊な形状(ブーメランを連想させる)の山刀「ククリ」がトレードマークですね。
カトマンズでも売られていましたが、成田の税関で没収されそうなので、買うのはあきらめました。
彼は170cmに満たない体格でしたが、夕食時にはカレーを何杯もおかわりする健啖さを見せてくれました。
そして「腹ごなしにホテルの外へ散歩に行こう」と笑顔(正体を知った後なので、今度は人の悪そうな笑顔に見える)で誘うのでした。
正直言ってビビリの私としては、戦車が街角のあちこちに配置されている市内には出たくなかったのですが、「現役の兵隊さんが一緒だし、まあいいか」とお供することにしました。
日本では真冬というのにダッカ市内は蒸し暑く、汗をかきましたが彼をみると文字通りの涼しい顔です。
雪の山岳地帯から熱帯ジャングルまで、全気候、全地形まさにオールマイティなのでした。
その後、退役グルカ兵と思われる警備員さん達を色々な国の都会で見かけますが、その度に彼のことを思い出すのです。