「フランコ・ベルギー派」の巨匠である、アルテュール・グリュミオー(1921-86)と、まさに「伝説的」な、偉大なピアニスト、クララ・ハスキル(1895-1960)の「不滅のデュオ」による、かけがえのない、「歴史的名演奏」です(1957年9月録音)。

 

 

ハスキル&グリュミオーによる、ベートーヴェンの「ヴァイオリンソナタ全集」は「愛聴盤」でもあり、ぜひお薦めしたいのですが、現在、「購入が可能」な商品は「限られている」ようです...。

 

 

続いても、「巨匠の歴史的名盤」より。

 

「旧ソ連」(現ウクライナ・オデッサ)出身の「巨匠」、ダヴィッド・オイストラフ(1908-74)のヴァイオリンと、その「相棒」、レフ・オボーリン(1907-74)(ウラディーミル・アシュケナージ氏らの「師匠」としても有名)の「至高の名コンビ」による「名演奏」です(1962年録音)。

 

こちらは、「譜面付き」でどうぞ。

 

「余談」ながら、「第3楽章」(「タランテラ」のリズムによる「フィナーレ」)は、もともと「第6番 イ長調 op.30-1」(1802)の「終楽章」に予定されていたものでしたが、ベートーヴェン自身の手により「変更」となり、「転用」されたものです。

 

 

こちらは、「日本公演」の「リハーサル」の模様を撮影したものだということで(「日本語字幕」が入る場面もあります)、大変「貴重」な映像です。

 

 

 

 

 

 

テーマが「ベートーヴェン」のこれまでの記事。

 

「記念サイト」もまだあります...。

 

 

さて...。

 

 

「ベートーヴェン・イヤー」は、まだまだ終わってはいません。

 

 

一昨年が「生誕250周年」(1770年12月生まれ)であるとするならば、今年もやはり、(少し「強引」ではありますが、)「没後195周年」(1827年3月26日逝去)という「記念の年」に当たっています。

 

 

今年も、「可能な限り」、その「偉大な名曲の数々」を、順次、紹介していきたいと思います。

 

 

今回紹介するのは、「ヴァイオリンソナタの最高傑作」とも称される名曲、「ヴァイオリンソナタ第9番 イ長調 o.47 "クロイツェル"」(「クロイツェル・ソナタ」)。

 

 

その半年ほど前の1802年10月、静養先の「ハイリゲンシュタット」にて書かれた「遺書」(いわゆる「ハイリゲンシュタットの遺書」)を境に、その「創造力」が「爆発的進化(「革命」とも言い得ます)」を見せ、後に、「傑作の森」と評される(フランスの作家、ロマン・ロランによる)までにもなった、「中期」のべートーヴェン...。

 

 

参考記事

 

 

「エロイカ(英雄)前夜」とも呼べる1803年5月、ほぼ「一気」に書き上げられたこの「クロイツェル・ソナタ」ではありますが、その書法は、一層の「充実ぶり」を見せており、「前進」しようとする、その「意志力の強さ」がみなぎる、「パワフルな作品」であるとも言えると思います。

 

 

(参考)「交響曲第3番 変ホ長調 op.55 "英雄"」(1804)についての記事

 

 

 

ところで、「ヴァイオリンソナタ」と聞いて、みなさんは、どのような「演奏スタイル」を思われるでしょうか。

 

 

「クラシック音楽」を聴かれたことがある方、また、「演奏会」にも足を運んでいらっしゃる方々であれば、これが、「ヴァイオリン」と「ピアノ」の「二重奏」であることは、容易にお分かりいただけると思います。

 

 

「ヴァイオリンソナタ」というくらいですから、もちろん、「主役はヴァイオリン」という風に考えられるのも「普通」だと思います。

 

 

ところが、「実際の音楽の歴史」から言えば、演奏(作曲)の「主役」は、「あくまでも"ピアノ(鍵盤楽器)"である」という時代が、実はそれまで、大変「長く」続いてもいたのです。

 

 

このことは、今回のこの「クロイツェル・ソナタ」に、実際に、ベートーヴェン自身が付けた「タイトル」からも「明らか」です...。

 

 

 

「ほとんど協奏曲のように、相競って演奏される、"ヴァイオリン助奏付きのピアノソナタ"」

 

 

 

「これ」こそが、この曲の「正式なタイトル」なのです!!

 

 

「楽器の王様」とも呼ばれているほどの「ピアノ」ですから、やはり、「地位」としては「絶対的」なものが、「当時」には、すでに「あった」のだと思います。

 

また、以前の記事でも書いているように、「低音部」を受け持つ「チェロ」などは、ベートーヴェン以前にはあまり「重要視」されることがなく、「ソロ楽器」としてよりは、「伴奏楽器」だという認識でもあったのでしょう...。

 

 

参考記事

 

(追加)(参考)「シューベルト 弦楽五重奏曲 ハ長調 op.163, D.956」についての記事

 

 

 

上に挙げている、「譜面付き」の音源でも分かるように、この曲においても、あくまでも、「ピアノが主役」のように書かれ、「ヴァイオリン」のパートは、それに比べると、「小ぶり」に書かれ(印刷され)てもいますが、これが、「当時では常識」だったとも言えるのです。

 

 

あくまでも「ピアノが主」であった、当時の、その「古典派の常識」を塗り替えるかのように、「クロイツェル・ソナタ」では、「ヴァイオリン」と「ピアノ」がともに「競い合い」、時には「対話」するようなフレーズ(ヴァイオリンの「ピチカート(弦を指ではじく)奏法」など)があったりすることも、その「特徴」だと思います。

 

 

「重音奏法」など、「技巧的」にも「大変難しい曲」とも言えると思いますが、「急いで完成させた曲」とは思えないほどの、「メリハリ」の効いた、「変化に富んだ曲」であるというのが、また「驚き」でもあります。

 

 

この「クロイツェル・ソナタ」は、当初、イギリスの「プリンス・オヴ・ウェールズ(後の「ジョージ四世)」に仕え、当時「全欧」にその名を知られていたヴァイオリニスト、ジョージ・ブリッジタワー(1778 or 1779, 1780?-1860)に「献呈」される予定でした。

 

 

1803年4月5日に、「アン・デア・ウィーン劇場」にて、自らが主催する音楽会を開いたベートーヴェンは、その10日ほど後に、リヒノフスキー候(1761-1814)から、このブリッジタワーを紹介されたのですが、「5月24日(または17日)」に行なわれる演奏会のための「協力」を依頼されたこともあり、「大急ぎ」で、「この曲」を書くことになったのです...。

 

 

(参考記事)「とても興味深いエピソード」を見つけました...。

 

 

「作曲」は、「予定の期日」には到底間に合わず(一説によれば、ブリッジタワーが、ベートーヴェンが「自分のために」曲を書くことを、とても「得意気」に話していたことを、「苦々しく」も思っていたようで、それで「筆が進まなかった」ということです...)、「当日」になって、何とか「演奏出来る」までにこぎ着けたということですが、「第2楽章」の「自筆譜」を見たブリッジタワーが、自ら「手を加えてみた」ところ...

 

 

「もう一度だ、相棒!!」

 

 

と、ベートーヴェンは、「飛び上がって」叫んだということです。

 

 

「初演」は、まさに「この二人」で行なわれ、このように、「意気投合」もした二人でしたが、その直後に、いきなり「仲違い」をしてしまうことにもなりました...。

 

 

それは、ブリッジタワーが、「ある女性の悪口」を言ったところ、「その女性」は、ベートーヴェンにとっては、とても「親しい」人物でもあったため、「侮辱」ととらえて大いに怒り、「その場で絶交となった」と、ブリッジタワー自身が「証言」したということです...(何だかなあ...)。

 

 

その後、このソナタは、当時、ウィーンの「フランス大使館員」でもあった、ヴァイオリニスト、ロドルフ・クロイツェル(1766-1831)(父が「ドイツ人」で、スイス・ジュネーブの生まれ)に「献呈」されることになりました。

 

当時、「パリ」へと赴く予定だったために、ベートーヴェンは、クロイツェルと「親交」を深めておこうという「思惑」があったようではありますが、

 

 

「すでに誰かが演奏しているし、難し過ぎる...」

 

 

と、クロイツェルの反応は「冷淡」で、結局、彼自身は、一度も、この曲を演奏することはありませんでした...(ベートーヴェン自身は、クロイツェルの「人格」を、大いに「称賛」していたともいうことですが...)。

 

 

このように、「献呈」された「本人」は、ほとんど「無関係」であったにもかかわらず、「曲名」としては「有名」になってしまったという、大変「皮肉」な例が、この、「クロイツェル・ソナタ」なのです...。

 

 

 

(参考記事)毎度おなじみ、「おやすみベートーヴェン」より。

 

こちらも、大いに「参考」となることでしょう...。

 

 

 

上掲の、飯尾洋一さんや、その前の記事(「ベートーヴェンを揺さぶったアフリカ魂」)にも書かれている通り、この曲に触発されたロシアの文豪、トルストイ(1828-1910)は、その名もズバリ、「クロイツェル・ソナタ」(1889)という小説を発表しています。

 

 

この小説をもとにした、映画「クロイツェル・ソナタ」(2008年イギリス)の「予告編」です。

 

 

また、このトルストイの小説をテーマに書かれた、ヤナーチェク(1854-1928)の弦楽四重奏曲第1番ホ短調 「クロイツェル・ソナタ」(1923)の音源もあります(約18分 「譜面付き」)(「リンク」のため、「別ウィンドウ」が開きます)。

 

 

ヤナーチェクは、過去にも、この小説をもとに、「弦楽三重奏曲」(1904)、「ピアノ三重奏曲」(1908-09)を書きましたが、この2曲は、現在では、「散逸」してしまっているということです...。

 

 

 

せっかくの機会ですから、ベートーヴェンの有名な「ヴァイオリンソナタ」を、あと2曲、紹介しておくことにしましょう...。

 

 

ともに、ハスキル&グリュミオーの「全集」からの「名演奏」でどうぞ...。

 

 

こちらも、大変「おなじみ」の曲です(「これからの季節」にも「ピッタリ」です)。

 

「第5番 ヘ長調 op.24 "春"」(1800-1801)。

 

 

来ましたよ...「ハ短調」が...。

 

「第7番 ハ短調 op.30-2」(1802-03)。

 

 

 

ありがとうございました。

 

 

それではまた...。

 

 

(daniel-b=フランス専門)