バルバラ(1930-97)の初期の名作、「le temps du lilas "リラの花咲く季節"」(1962-63)は、「スタジオ録音」だけで「3種類」のバージョンが残されていますが、このようなことは、何も「この曲」に限ったことではなく、「初期」の作品には、こうした、「複数のバージョン」を持つ曲が、他にもいくつか存在しています。

 

これは、バルバラが「完璧主義」であったことにもよるのですが、当時、それぞれの音源は「商品」として「発売」されていたため、「レコード会社(CBS)」としては、後の「フィリップス社」のような、「NGテイク」という考え方は「なかった」ようです。

 

こちらの録音は、「最終決定盤」として、1963年に発売されたアルバム(1966年には、「ステレオ化」されて「再発売」)に収録されたバージョンですが、「シングル」としては発売されたことが「ない」ため、現在の「大全集」では、「補遺」の扱いとなっています。

 

 

こちらは、1964年2月に録音され、5月に発売となった、「6枚目」のシングル(A面は、「Nantes "ナントに雨が降る"」)に収録されたバージョンです。

 

この録音のみ、ベースを弾く、フランソワ・ラバット(1931-)による編曲となっています。

 

 

こちらは、「最初」に録音され、シングル(5枚目)の「タイトル曲」ともなった、1962年5月8日録音のバージョンです。

 

「最終決定盤」と同様、フランソワ・ローベール(1933-2003)による編曲です。

 

こちらは、1962年の映像だと思われます(正確な「放送日」は「不詳」です)。

歌唱のスタイルは、やはり、上掲の録音に「近い」と思います。

 

こちらの映像は、日時の詳細は「不明」ですが、「テンポ」など、「スタイル」としては、「最終決定盤」を思わせます。

 

 

このディスクが「現在」でも手に入るのであれば、「言うことなし」なのですが...(1991年発売の「コンピレーションCD(日本盤)」です。この曲も収録され、「日本語解説」...「歌詞対訳」...もちろん、「あります」)。

 

 

 

 

これまでの記事

 

(参考)こちらは、私が「参考」としている「ファンサイト」です。

http://www.passion-barbara.net/

 

 

さて、「6月9日」は、フランスを代表する「偉大な女性歌手」、バルバラ(1930-97, 本名モニック・セール)の「誕生日」となります。

 

 

「来年」には何と、「没後25周年」にもなるということで、「時の流れ」を、あらためて感じてしまうことにもなるのですが、これの「ひとつ前」の記事では、「若手有望株」と言える女性歌手、「ポム(Pomme)」(1996-)が、このバルバラの名作、「Gottingen "パリとゲッティンゲン"」(1964-1965)を歌う映像も採り上げました。

 

 

こちらは、「ポム推し」の「ホブさん」から教えていただいた動画で、2019年1月15日に公開されたものですが(ホブさん、どうもありがとうございます!!)、ポムが「影響を受けた人物」を、「家系図」にたとえて「紹介」しており、これによるとバルバラは、「祖母」として、「真っ先」に名前が挙がっています。

 

 

(参考)「ひとつ前の記事」(「ポム」について)

 

 

さて、そんなバルバラですが、日本に初めて「紹介」されたのが、1965年10月のことで、「フィリップス社」に移籍して録音された最初のアルバム、「Barbara chante Barbara」(当時の邦題は、「私自身のためのシャンソン」。「本国」では、1964年録音/発売)を、永田文夫先生が、「レコード会社を口説いて、やっと出してもらった」ということでした。

 

最初は、「イニシャル・オーダー(初回受注枚数)」が「100枚」にも満たなかったそうですが、「ファン」は着実に増え、その後、「本国」でも評価が「高まっていった」ということです。

 

 

こちらの記事に書いています(2016年5月19日付け。「最初期の記事」です)。

 

 

そのアルバムというのが、あの「有名」な、「Nantes "ナントに雨が降る"」を含むものです。

 

 

この曲ですね。

 

このアルバムは、そのジャケット・デザインから、別名「バラのアルバム」とも呼ばれますが、翌1965年に、「ACC(アカデミー・シャルル・クロ)ディスク大賞」を受賞した「名盤」でもあります。

 

 

 

 

この曲の記事

 

 

このように、バルバラの「人気」は、「まず、日本から始まった」と言っても過言ではないのですが、今回紹介している曲、「le temps du lilas "リラの花咲く季節"」(1962-63)は、「それ以前」の、「CBS(旧「Odeon」レーベルも含む)」にて録音されたもので、「初期の代表作のひとつ」とも言うことが出来ると思います。

 

1961年10月、パリ・ミラボー橋近辺、レミュザのアパルトマンに居を構えたバルバラは、ここで、「また歌を書きたいと思うようになった」と、その「未完の自伝」の中で書いています。

 

 

そして、「言葉」が、「指先」で動き出し、先端から飛び出し、「私の体内から出ていこうとしている」...。

 

 

そうして「書き始められた曲」が、この「le temps du lilas "リラの花咲く季節"」だということです。

 

 

この「未完の自伝」は、「日本語訳」も出版されています。

 

 

「この当時の作品」ということでは、当然、「この曲」についても、触れておかなくてはいけないでしょう。

 

 

「dis, quand reviendras-tu? "いつ帰って来るの?"」

 

 

この曲の「着想」を得たのは、1961年7月ごろのことで、「le temps du lilas "リラの花咲く季節"」より「少し前」のこと。

 

コートジボワールの「旧首都」、アビジャンに歌いに行った、「帰りの飛行機の中」のことだったということです(同じく、上掲の「未完の自伝」より)。

 

 

この曲の記事(こちらに詳しく書いています)。

 

 

また、こちらも、「初期の名曲」として挙げておきたい作品です。

 

 

「attendez que ma joie revienne "わが喜びの復活"」

 

「失われた恋」の、「苦い想い出」が歌われています...。

 

 

(「初掲載!!」)「最後のライヴ録音」となった、「シャトレ1993」でも歌われました(1993年12月10~12日のテイク)。

 

この直後、持病の「呼吸器系疾患」が「悪化」したため即「入院」となり、以降の公演はすべて「キャンセル」となってしまいました。

 

いっそうの「深み」を感じさせる表現には、まさしく、「感動」という言葉しか出て来ません...。

 

 

 

この曲の記事(「歌詞対訳」を掲載しています)。

 

 

最後に、こちらの曲も載せておきましょう。

 

 

「j'entends sonner les clairons "恋の戦争"」。

 

原題は、「(弔いの)ラッパが響くのが聴こえる」という意味ですが、それは、「死んだ恋の歌」ということで、この曲も、「過去の恋」に関する「苦い思い」がこめられた作品です。

 

 

それでは以下に、「le temps du lilas "リラの花咲く季節"」の歌詞を載せておくことにいたしましょう。

 

 

「リラ」とは、「ライラック」を「フランス語読み」したもので、日本でも、4月から5月に、主に「北海道」で見ることが出来る花ですが、「暑さに弱い」という一面もあるので、「本州以南」での栽培は、「難しい」とも言えるでしょう。

 

 

少し「時期」を外した感もあり、「昨年」も、「そのこと」で書くのを「ためらった」ということがありましたが、「歌詞中」でも、「過ぎ去ってしまった」と語られているので、そうおかしくも「ない」ことでしょう。

 

 

何より、そんなことは「気にならない」くらいの「名曲」です。

 

 

私はやはり、「最終決定盤」として、「最初」に載せている録音が、「はかなげな雰囲気」も感じさせてくれるのでとても「気に入っている」のですが、「どのバージョン」にも、「それぞれの良さ」が感じられると思います。

 

 

バルバラは、このように、「スタジオで悩む」ことを「嫌った」せいか、1981年2月に発売されたアルバム、「seule "孤独と夜の中で"」を最後に、「スタジオ録音」のアルバムを作ろうとはしませんでした。

 

 

1996年11月に発売された「ラスト・アルバム」は「スタジオ録音」ですが、あくまでも、「ライヴ録音の代替」だったという気がしてなりません...。

 

 

「6月9日」は、バルバラの「誕生日」です。

 

 

それではまた...。

 

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le temps du lilas  リラの花咲く季節

 

il a foutu le camp le temps du lilas

le temps de la rose offerte,

le temps des serments d'amour,

le temps des toujours, toujours

il m'a plantee la, sans me laisser d'adresse

il est parti, adieu Berthe

si tu le vois, ramene-le-moi, dis

le joli temps du lilas

 

リラの花咲く季節は過ぎ去ってしまった

贈りもののバラの季節も

愛の誓いの季節も

「永遠の永遠」の時でさえも

時は、私を置き去りにしていった アドレスすら残さずに

時は去った 「さようならベルト」と

もしあなたが「時」を見かけたら、私のもとに連れて来て

美しい、リラの花咲く季節を

 

on en sourit du coin de l'oeil

mais on en reve du grand amour

je l'ai connu, j'en porte le deuil

ca ne peut pas durer toujours

je l'ai valsee au grand soleil,

la valse qui vous fait la peau douce

je l'ai croque, le fruit vermeil

a belle dent a belle bouche

 

人は、目のふちで笑いながらも

大きな愛を夢見ている

私はそれを知っているけれど、今は喪に服している

それは、永遠に続くことではないから

私は、大きな太陽のもとでワルツを踊った

このワルツは、あなた方の肌を滑らかにする

私は、真っ赤な果実にかじりついた

美しい歯で 美しい唇で

 

j'en ai profite du temps du lilas,

du temps de la rose offerte,

du temps des serments d'amour,

du temps des toujours toujours

avant qu'il me quitte, pour me planter la

qu'il me salue, adieu Berthe,

j'en ai profite, t'en fais pas pour moi,

du joli temps du lilas

 

私は、リラの花咲く季節を満喫した

贈りもののバラの季節も

愛の誓いの季節も

「永遠の永遠」の時でさえも

時が私を置き去りにして、去っていく前に

「さようならベルト」と言って去っていく前に

私は満喫した リラの花咲く季節を

だから心配しないで

 

il vous arrive par un dimanche

un lundi, un beau jour comme ca

alors chaque nuit qui se penche

s'allume dans un feu de joie

et puis un jour c'est la bataille,

meurent la rose et le lilas,

fini le temps des epousailles,

c'est la guerre du toi et moi

 

それ(リラの花咲く季節)は、日曜とか

月曜日 このような晴れた日にやって来る

そして、更けゆく夜にはいつも

喜びの火の中に燃え上がる

そしてある日、戦いとなり

バラとリラの花は死んでしまう

婚礼の季節は終わる

それは、あなたと私の戦い

 

et le voila qui fout le camp

sans nous crier gare,

la rose s'est trop ouverte,

on veut le rattrapper, mais il est trop tard,

le joli temps du lilas

il vous plante la

sans laisser d'adresse

il salue et, adieu Berthe

il vous file entre les doigts,

le joli temps du lilas, mais...

 

それは過ぎ去ってしまった

予告もなく突然に

バラの花は開き過ぎ

捕まえようと思っても、もうすでに遅すぎる

美しい、リラの花咲く季節を

それは、あなた方を置き去りにする

アドレスすら残すことなく

「ごきげんよう」、そして「さようならベルト」と

それは、指の間をすり抜けていく

美しい、リラの花咲く季節は でも...

 

va te balancer a ses branches

va t'en rever dans ses jardins

va t'en trainer hanche contre hanche

du soir jusqu'au petit matin

mais va t'en profiter du temps du lilas,

du temps de la rose offerte,

du temps des serments d'amour,

du temps des toujours toujours

ne reste pas la, va t'en le cueillir

il passe et puis adieu Berthe

t'en fais pas pour moi, j'ai mes souvenirs

du joli temps que voila

 

t'en fais pas pour moi, j'ai mes souvenirs

du joli temps du lilas...

 

その枝々を揺らしに行きなさい

その庭に夢を見に行きなさい

腰と腰をくっつけて

夕暮れから夜明けまで、だらだらと過ごしに行きなさい

けれど、リラの花咲く季節を満喫しに行くこと

贈りもののバラの季節や

愛の誓いの季節を

「永遠の永遠」の時でさえも

じっとしていないで、花を摘みに行きなさい

時は過ぎ行く そして、「さようならベルト」

だから心配しないで 私はこのように

美しい季節の想い出を持っているから

 

だから心配しないで 私は

美しい、リラの花咲く季節の想い出を持っているから...

 

 

*(訳注)歌詞中の「il(彼)」は、常に、「時(リラの花咲く季節)」を指しています(「le temps」は「男性名詞」のため)。

 

「adieu Berthe」は、「永遠にさようならベルト」(「ベルト」は「女性の名」。この場合、歌っている「バルバラ」自身を指します)。

「adieu」は、「もう2度と会うことはない」、「永遠の別れ」を告げる、「強い言葉」となります。

 

「時」が去りゆく時に、「永遠にさようなら」と告げているのは、「もう戻らない、過ぎ去った恋の季節」を表しているからです。

 

その上で、「私は、このように、美しい、リラの花咲く季節の想い出を、今でも胸に持っているので、"あなた(みなさん)"は、(私の様子を)どうか、心配しないでください」と歌っているのです。

 

この曲も、「過去の恋に関する"苦い想い"(別れ)」が歌われていると言うことが出来、その意味で、「コンセプト・アルバム」とも言い得ます。

 

(daniel-b=フランス専門)