まずは「op(作品).39」から。今年「没後20周年」を迎えた、名バリトン歌手ヘルマン・プライ(1929-98)による名唱です。ピアニストは、レナード・ホカンソン(1931-2003)で、この方も「没後15周年」です。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925-2012)、ジェラルド・ムーア(1899-1987)という「ゴールデン・コンビ」による名演奏です。フィッシャー=ディースカウ、プライはともに、「20世紀」を代表する「大歌手」であり、「ライバル」でもありました。
こちらもフィッシャー=ディースカウの録音ですが、「譜面付き」でどうぞ。
今回は、「秋」に聴きたい、この曲を紹介いたしましょう。
これまでに、「シューマン」は、以下の記事を書いています。
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12374647326.html?frm=theme(歌曲集「詩人の恋」についての記事)
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12308345828.html(「ピアノ協奏曲 イ短調」についての記事)
ロベルト・シューマン(1810-56)は、もともと、「声楽曲」の分野には「乗り気」ではなかったと言われています。少なくとも、「1839年」まではそうでした。
それが、「それまでの困難」を乗り越えて、クララ・ヴィーク(1819-96)との結婚が「決定的」となると、一転して「歌曲」の作曲に打ち込むことになったということです。これが、1840年、「歌曲の年」の「始まり」でした。
この年の3月から7月までの間に、「代表的名作」、「詩人の恋 op.48」(ハインリヒ・ハイネ詩)をはじめとして、「5つ」もの、傑作歌曲集を世に送り出しています。今回紹介する2つの歌曲集、「リーダークライス」(ドイツ語で「連作歌曲」の意味)の、「op(作品).39」、「op.24」も、もちろんこの年に作曲された作品です。
ここでは、より「一般的」と思われる、「op.39」から先に書いてみたいと思います。
この「op.39」の「リーダークライス」は、「森の詩人」とも呼ばれる、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ(男爵。1788-1857)による詩に曲を付けたもので、全12曲からなる作品です。
各曲の詩の内容は、厳密に言うと、「つながっている」わけではありませんが、シューマンが選び出した「詩の世界」は、「暗い森の神秘」であるとか、「蒼白い月の光」であるとか...。そこに、「感情の流れ」を絶妙に絡めることで、実に「ロマンティック」で「繊細」な、「秋の夜長に聴きたい」雰囲気を醸し出しているのです。
「アイヒェンドルフの詩による連作は、僕がこれまでに書いたものの中で最もロマンティックな音楽です。そしてここには、愛するクララ、あなたそのものが多く含まれているのです」(シューマン 佐々木節夫訳)
それでは「各曲」を見ていくことにしましょう。
1.異郷にて In der Fremde
シューベルト(1797-1828)の伝統の上に、ブラームス(1833-97)を先取りしたような曲です。シューベルトの作品にしばしば登場する、「さすらい人」の「苦悩」を思い出させます。
2.間奏曲 Intermezzo
一転して、「憧れ」を感じさせる「ロマンティック」な曲です。ピアノのリズムが印象的です。
3.森の対話 Waldesgesprach
ドイツに古くから伝わる「ローレライ伝説」を下敷きにした曲で、ここでの「ローレライ」は「森の魔女」です。曲は「対話」の形を採り、「若者」は、「狩りの角笛」で表され、「魔女」は「分散和音」で表現されています。
4.静けさ Die Stille
この詩には、メンデルスゾーン(1809-47)も曲を付けているということで、同時代の作曲家に好まれた様子がよく分かります。
メンデルスゾーン版のタイトルは、「歌い出し」の「Es weiss und rat es doch keiner(誰も知らない、誰にも分からない)」ですが、曲の付け方は、シューマンよりもずっと「自由」です。
5.月の夜 Mondnacht
実に繊細な曲で、その「神秘の瞬間」が歌われています。とても「優しい」響きを持つ「名曲」です。
6.美しき異郷 Schone Fremde
ピアノがまた「劇的」な書法であり、「ロマン性」を強く感じます。
7.古城にて Auf einer Burg
まるで、時が「止まって」しまったかのように感じるこの詩と曲は、シューベルトの歌曲集「白鳥の歌 D.957」(1828)の「ハイネ歌曲」を思わせます。
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12362126092.html?frm=theme(参考:「白鳥の歌」より、「ハイネ歌曲」についての記事)
8.異郷にて In der Fremde
第1曲目と同じタイトルですが、この曲は、「さすらい人」の感じる「幻想」を歌ったものです。特に印象深いのは、「~のような気がする」という表現です。最終節では、「花園の中で、私の恋人が、今も私を待っているような気がする。彼女が世を去ってすでに久しいというのに」(西野茂雄訳)と歌われています。
9.悲しみ Wehmut
シューマンがほぼ同時に作曲していた、歌曲集「詩人の恋 op.48」の中の第8曲、「花が知ったなら」に、詩の内容は「共通」するものを感じます。詩人の「深い嘆き」がそのまま感じられる曲です。
10.たそがれ Zwielicht
この曲も、シューベルトの「白鳥の歌」の「ハイネ歌曲」を思わせ、前曲からの「沈み込んだ」気分はそのまま引き継がれます。「夜のうちに多くのものが失われるから、眠らずに、心して目を見張っているがいい!」と、呟くように結ばれています。
11.森の中で Im Walde
一転して「気分の高揚」が見られますが、「決定的」なものではありません。ところどころに現われる「リタルダンド(徐々に遅く)」、「デクレッシェンド(次第に弱く)」が、感情に「抑制」をかけています。「さすらい人」が見た光景は、「幻想」に過ぎなかったのかも知れないのです。
12.春の夜 Fruhlingsnacht
前曲が「抑えられた感情」ならば、この「終曲」は「解き放たれている」と言えます。細かい音符の動きが「心の躍動」を表し、それを「突き破る」かのような「歌」がとても「印象的」です。
以上全12曲。演奏時間は約25分から30分です。
http://yamamasu.world.coocan.jp/lieder_text_schumann_op39_index.html(全曲の歌詞対訳は、ぜひ、こちらからどうぞ)
続いては「op.24」の「リーダークライス」です。
この作品は、程なくして書かれた歌曲集「詩人の恋 op.48」同様、1827年に刊行された、詩人ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)の詩集「歌の本」(Buch der Lieder)から9編の詩を選んで作曲されたものです(シューベルトの「白鳥の歌」の「ハイネ歌曲」も、この詩集からの詩によります)。
書籍商の息子であったシューマンは、幼い頃から活字に親しみ、高校生になった頃には、すでに、ハイネの初期の詩集に接していたと言います。ハイネの「アイロニー(皮肉/逆説)」など、その「屈折」した姿勢は、若い「ロマン主義者」たちを「魅了」したのでした。
シューマンは、「さまざまな微細な表情を持った詩を、それ以上に優れた表現様式に合わせて蘇生させること」こそが、「最高の芸術である」と認識するようになりました。
シューベルトやベートーヴェン(1770-1827)といった「先人」の「歌曲集」のように、「内的な起承転結」に従って構成されなくてはならない、という想いから、「曲の配列」や、その「作曲技法」などは、入念に「考え抜いた」と言います。
演奏時間は約21分から26分です。再び、ヘルマン・プライと、フィッシャー=ディースカウの「名唱」でどうぞ。
こちらは「テノール歌手」用のスコアですが、参考までにどうぞ。
1.朝起きると胸に尋ねる Morgens steh' ich auf und frage
2.気ばかりあせって Es treibt mich hin
3.ぼくは樹々の下をただ一人 Ich wandelte unter den Baumen
4.かわいい恋人よ、手をぼくの胸に Lieb' liebchen, leg's Handchen
5.ぼくの苦しみの美しいゆりかごよ Schone Wiege meiner Leiden
6.待ってくれ、待ってくれ、威勢のいい船乗りよ Warte, warte, wilder Schiffsmann
7.山々とその上に立つ城が Berg' und Burgen schau'n herunter
8.はじめはほとんど絶望するところだった Anfangs wollt' ich fast verzagen
9.ミルテと薔薇で Mit Myrten und Rosen(*)
(*)シューマンは、原詩の第1節にかなり「変更」を加えています。最初の行は、元は、「Mit Rosen, Zypressen und Flittergold」ということで、「ミルテ」は、原詩には登場しません。
各曲の詳しい解説は、こちらをぜひどうぞ!!
http://www.schumann.jp/old/comment/c024-1.html
http://www.schumann.jp/old/comment/c024-2.html
それではまた...。
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(daniel-b=フランス専門)



