(ヘルマン・プライは、動画もあります)

今回は、「5月」に聴きたくなるこの曲をご紹介しましょう。

 

シューマン(1810-56)の書いた歌曲集の中でも最も有名な作品です。

https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12308345828.html(シュ-マンについては、こちらの記事もどうぞ)

 

詩人ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)の詩集「歌の本」(Buch der Lieder)の中の、「抒情的間奏曲」(Lyrisches Intermezzo)からその詩が採られた、連作歌曲集「Dichterliebe "詩人の恋"」op.48(1840)。

今回は、この作品について書いてみたいと思います。

 

「ドイツ歌曲」の世界では、シューベルト(1797-1828)の後を継ぐように、シューマンも多くの名作歌曲を書いています。

 

連作歌曲集「詩人の恋」は、いわゆる「歌曲の年」と呼ばれる1840年に書かれましたが、この年は、3月から7月までに、この「詩人の恋」を含めて、何と「5作」という、「連作歌曲集」が作曲されています。2つの「リ―ダークライス」(op.24/op.39)、「ミルテの花」op.25、「女の愛と生涯」op.42がそれらの作品ですが、いずれも、現代まで歌い継がれている「名作」だと言うことが出来ます。

 

この頃というのは、クララ・ヴィ―ク(1819-96)との「結婚」が控えていた時期でもありました。彼女の父フリードリヒ(1785-1873)は、ピアノの師でしたが、あまりにも「厳格」だったために「確執」もあり、この結婚も、「裁判」の末、「勝ち取った」ものだったのです。

 

シューマンは、それまで、「声楽曲」にそれほど「価値」を見出していなかったと言われています。しかし、クララとの結婚が「決定的」となると、一転して「歌曲」の作曲に打ち込むことになりました。この「1840年」に書かれた歌曲は、その生涯に残した歌曲の「大半」を占めるもので、シューマン自身も、「他の音楽にはまったく手が付かなかった」と語っています。

 

ハイネの「歌の本」(Buch der Lieder)からは、「詩人の恋」だけではなく、「リーダークライス op.24」の詩も採られていますが、シューベルト最晩年の歌曲集「白鳥の歌」D.957の後半(いわゆる「ハイネ歌曲」)も、この詩集の中の「帰郷」(Die Heimkehr)から採られたものです。

https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12362126092.html(「白鳥の歌」その2の記事)

 

人生で、「最も充実した時期」に書かれたとも言えるこの歌曲集「詩人の恋」は、単に「声楽曲」としてだけではなく、「ピアノ曲」としても大変優れているものです。「声だけではすべての効果は出し得ず、すべてを再現できない」と述べている通り、表現の「比重」は、ピアノにもかなり多く置かれていることが分かります。

 

フリッツ・ヴンダーリヒ(1930-66)のテノール、フ-ベルト・ギーゼン(1898-1980)のピアノでの演奏ですが、こちらは「譜面付き」です。「表現面」でのピアノの「重要性」が、ここからもよく分かると思います。

 

この歌曲集は、全部で「16」の歌曲からなっており、演奏時間は、「約28分前後」となっています。元の詩集では「20編」となっていましたが、シュ-マンが実際に出版した曲数は「16曲」です。

 

とても「美しい」、第1曲「美しい五月に」から第6曲「神聖なラインの流れに」までは、「愛の喜び」を、第7曲「わたしは嘆くまい」から第14曲「夜ごとの夢に」までは「失恋の苦い想い」が歌われ、最後の2曲では、「過ぎ去った恋」が思い返されます。

 

それでは各曲を見ていきましょう。一部曲は歌詞対訳付きでどうぞ(日本語訳:西野茂雄)。

 

第1曲「美しい五月に」 Im wunderschonen Monat Mai

 

Im wunderschonen Monat Mai,

Als alle Knospen sprangen,

Da ist in meinem Herzen

Die Liebe aufgegangen

 

美しい五月になって

すべての蕾がひらくときに

私の胸にも

恋が萌え出た

 

Im wuderschonen Monat Mai,

Als alle Vogel sangen,

Da hab' ich ihr gestanden

Mein Sehnen und Verlangen

 

美しい五月になって

すべての鳥がうたうときに

私は胸にもえる想いを

あのひとにうちあけた

 

第2曲「わたしの涙から」 Aus meinen Tranen spriegen

第3曲「ばらに、ゆりに、はとに」 Die Rose, die Lilie, die Taube, die Sonne

第4曲「あなたのひとみを見つめる時」 Wenn ich in deine Augen seh'

第5曲「わたしの心をゆりのうてなに」 Ich will meine Seele tauchen

 

第6曲「神聖なラインの流れに」 Im Rhein, im heiligen Strome

 

Im Rhein, im heiligen Strome

Da spiegelt sich in den Well'n,

Mit seinem grossen Dome

Das grosse, heilige Koln

 

神聖なラインの流れの

川波に影やどすのは

おごそかな御堂そびえる

大いなる聖都ケルン

 

Im Dome, da steht ein Bildnis,

Auf goldnem Leder gemalt;

In meines Lebens Wildnis

Hat's freundlich hineingestrahlt

 

御堂には、金泥の皮に画かれた

絵姿が飾られていて

わたしの荒涼とした人生に

なつかしい光をさしかけた

 

Es schweben Blumen und Englein

Um unsre liebe Frau;

Die Augen, die Lippen, die Wanglein

Die gleichen der Liebsten genau

 

花と天使がそのまわりをかこむ

聖母マリア

その瞳、その唇、その頬が

わたしの愛するひとにそっくり

 

第7曲「わたしは嘆くまい」 Ich grolle nicht

 

Ich grolle nicht, und wenn das Herz auch bricht

Ewig verlor'nes Lieb! Ich grolle nicht

Wie du auch strahlst in Diamantenpracht

Es fallt kein Straht in deines Herzens Nacht

Das weiss ich langst

 

わたしは恨むまい、たとえこの胸がはり裂けようとも

とわに失われた恋びとよ! わたしは恨むまい

おまえが豪華なダイアモンドのきらめきに包まれたところで

おまえの心の闇には何の光もささないだろう

 

Ich grolle nicht, und wenn das Herz auch bricht

Ich sah dich ja im Traume

Und sah die Nacht in deines Herzens Raume,

Und sah die Schlang', die dir am Herzen frisst

Ich sah, mein Lieb, wie sehr du elend bist

Ich grolle nicht

 

わたしは恨むまい わたしはとうに知っているのだ

私はまざまざとおまえを夢に見たが

その時わたしが見たのは、おまえの心の闇

その時わたしが見たのは、おまえの胸を咬む蛇

おお恋びとよ

わたしは見たのだ 何ともみじめなおまえの有様を

わたしは恨むまい

 

第8曲「花が知ったなら」 Und wussten's die Blumen, die kleinen

 

第9曲「鳴るのはフル-トとヴァイオリン」 Das ist Floten und Geigen

 

Das ist ein Floten und Geigen,

Trompeten schmettern darein;

Da tanzt wohl den Hochzeitsreigen

Die Herzallerliebste mein

 

鳴るのはフル-トとヴァイオリン

トランペットの金切り声

婚礼の輪舞を踊るのは

この心ささげて愛するひと

 

Das ist ein Klingen und Drohnen,

ein Pauken und ein Schalmei'n;

Dazwischen schluchzen und stohnen

Die lieblichen Engelein

 

とどろき、ひびきわたるのは

大太鼓、さてはチャルメラ

その音の絶え間に苦し気にすすり泣くのは

あの心やさしい天使

 

第10曲「恋人の歌を聞く時」 Hor' ich das Liedchen klingen

 

第11曲「若者はおとめを愛し」 Ein jungling liebt ein Madchen

 

Ein jungling liebt ein Madchen,

Die hat einen andern erwahlt;

Der andre liebt eine andre

Und hat sich mit dieser vermahlt

 

ひとりの若者がある娘を愛した

その娘は別の若者を選んだ

その別の若者はまた別の娘を愛し、

そうして二人は夫婦になったとさ

 

Das Madchen nimmt aus Arger

Den ersten besten Mann,

Der ihr in den Weg gelaufen;

Der Jungling ist ubel dran

 

はじめの娘は腹立ちまぎれに

道で出あった行きずりの男と

見さかいもなく結ばれてしまった

それで、あの若者は世をはかなんだとさ

 

Es ist eine alte Geschichte,

Doch bleibt sie immer neu;

Doch wem sie just passieret,

Dem bricht das Herz entzwei

 

むかしむかしの物語だが

いつの世だっておなじことだ

それがわが身のこととなったら

胸もはり裂けようというもの

 

第12曲「明るい夏の朝」 Am leuchtenden Sommermorgen

第13曲「夢の中でわたしは泣いた」 Ich hab' im Traum geweinet

第14曲「夜ごとの夢に」 Allnachtlich im Traume seh' ich dich

第15曲「昔話の中から」 Aus alten Marchen winkt es

 

第16曲「いまわしい思い出の歌」 Die alten, bosen Lieder

 

Die alten, bosen Lieder

Die Traume bos' und arg

Die lasst uns jetzt begraben;

Holt einen grossen Sarg

 

あのいまわしい昔の歌も

あのいとわしい邪悪な夢も

いまこそ跡形もなく葬り去ろう

大きな棺を用意するがいい

 

Hinein leg' ich gar manches,

Doch sag' ich noch nicht, was;

Der Sarg muss sein noch grosser

Wie's Heidelberger Fass

 

その中にわたしが入れるのはさまざまなもの

だが、それが何であるかはまだ言うまい

その棺はハイデルベルクの酒樽よりも

もっと大きくなければならぬ

 

Und holt eine Totenbahre

Und Bretter fest und dick;

Auch muss sie sein noch langer

Als wie zu Mainz die Bruck'

 

厚い丈夫な板でつくった

棺台も用意しよう

その棺台だってマインツの橋よりも

もっと長いやつでなければならぬ

 

Und holt mir auch zwolf Riesen,

Die mussen noch starker sein

Als wie der starke Christoph

Im Dom zu Koln am Rhein

 

次にそろえるのは大男十二人

ライン河畔のケルンの御堂にいます

力持ちの聖者クリストフよりも

もっと力持ちでなくちゃだめだ

 

Die sollen den Sarg forttragen

Und senken ins Meer hinab;

Denn solchem grossen Sarge

gebuhrt ein grosses Grab

 

彼らに棺をかつがせて

海底深く沈めさせよう

こんなに大きな棺のためには

大きな墓場こそふさわしいから

 

Wisst ihr, warum der Sarg wohl

So gross und schwer mag sein?

Ich senkt' auch meine Liebe

Und meinen Schmerz hinein

 

どうしてこの棺がこんなに大きく

こんなに重いのか、お分かりだろうか?

私の恋や、私の悩みも

一緒にその中に収めたから

 

 

 

 

 

(daniel-b=フランス専門)