さて、今回は、久しぶりに、「シューベルト」(1797-1828)について書いてみたいと思います。

 

私の、「最も好きな作曲家」と言っても過言ではない、フランツ・シューベルト。

 

昨年には、「約半年」にもわたって、その「ピアノ曲」の魅力について書いてきましたが(現在もアクセスがあるようで、本当にどうもありがとうございます)、今回は、それと並んで、「最も好き」だと言える、「3大歌曲集」の、その1つ、「Schwanengesang "白鳥の歌"」D.957(1828)を採り上げてみたいと思います。

https://ameblo.jp/daniel-b/themeentrylist-10098857198.html(「ピアノ曲」の記事一覧)

 

「630曲」を超えるとも言われる歌曲を作曲したシューベルトでしたが、その「最後」とも言えるのが、この歌曲集「白鳥の歌」D.957です。

 

ただし、同じく「3大歌曲集」と呼ばれる2つの作品、「美しき水車小屋の娘」op.25, D.795(1823)や、「冬の旅」op.89, D.911(1827)(詩はともにヴィルヘルム・ミュラー)と違い、1人の詩人の作品による「連作歌曲」というわけではありません。

 

この歌曲集「白鳥の歌」D.957は、ルートヴィヒ・レルシュタープ(1799-1860)の詩による7曲、および、ロマン派の大詩人、ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)の詩による6曲、最後に、友人の1人であった、ヨハン・ガブリエル・ザイドル(1804-75)の詩による1曲「鳩の便り」(D.965A)を加えた、「全14曲」が「基本の構成」となっています。

 

これは、シューベルト自身の意志でまとめられたわけではなく、シューベルトの死のほぼ1ヶ月後となる1828年12月17日に、兄のフェルディナント(1794-1859)が、「遺品」として、楽譜出版商トビアス・ハスリンガーに手渡したことが、その「始まり」でした(最後のザイドルの詩による歌曲は、「追加」として、翌年1月に渡されたということです)。

 

とは言うものの、シューベルトは、レルシュタープとハイネの歌曲を、同じ「音楽帳」に書き留めていたとも言います。そして、その第1曲目、「愛のたより(愛の使い)」の最初のところには、「1828年8月」とも記されているそうです。

 

10月2日に、出版商プロープストに宛てた手紙では、「ハイネの詩による6曲」のみを、まとめて出版するようにと売り込んでいて、このことからも、シューベルトは、(「金銭的」な理由もあって、)少なくとも、「ハイネ」の歌曲のみは、1つの「歌曲集」として出版するつもりだったのではないかと言われています。一方で、「音楽帳」に記された「13曲」を、「ひとまとめ」にして出版しようとした可能性も、「ない」とは言い切れないのです。

 

最終曲の「鳩の便り」(D.965A)は、「岩の上の羊飼い」(D.965)と並んで、文字通り、「生涯最後の曲」となりました。レルシュタープや、ハイネの作品とは別の五線紙に書かれ、「1828年10月」と記されているということです。

 

楽譜出版商、トビアス・ハスリンガーは、この14曲を「ひとまとめ」にし、1829年4月に、歌曲集「白鳥の歌」のタイトルで出版することにしました。

この「白鳥の歌」というタイトルは、「白鳥は、死の間際に、ひときわ美しい声で鳴く」、という言い伝えによるものです。

 

シューベルトの重要な友人、ヨーゼフ・フォン・シュパウン(1788-1865)によれば、

「(ハスリンガーの手の入らない、)この歌曲集は、友人に献呈する予定だった」ということです。

 

それでは、曲を見ていくことにしましょう。

 

今回は、全14曲のうち、前半の「レルシュタープの詩による7つの歌曲」について書いてみます。上掲の音源は、おなじみ、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925-2012)のバリトン、ジェラルド・ムーア(1899-1987)のピアノによるものです。

 

このレルシュタープの詩による歌曲は、「はるかな恋人」という共通した主題があります。

また、「春」に関する曲もありますので、この時期に聴くには「ピッタリ」とも言えるでしょう(ただし、「白鳥の歌」全曲を通して聴くときは、やはり、「秋から冬」のイメージに傾きます。これは、後半の「ハイネ歌曲」による影響も大きいと思います)。

 

第1曲「愛のたより(愛の使い)」 Liebesbotschaft

 

小川のせせらぎに、「もうすぐ戻るから」と、遠く離れた恋人への想いを託す「さすらい人」。

大変抒情的な、美しい曲です。

 

第2曲「戦士の予感」 Kriegers Ahnung

 

戦闘の迫る戦場に、ひとり、「夜哨」として立つ兵士の胸に去来する、様々な心情が歌われる、とても「重い」曲です。

 

第3曲「春の憧れ」 Fruhlingssehnsucht

 

今回、私が最もお薦めしたかった曲が、この「春の憧れ」です。この下、一番最後に挙げている、ヘルマン・プライ(1929-98)の名唱もぜひお聴きください。こちらは、通常の曲順によっていませんので、「32分20秒ごろ」からの開始となります(歌詞対訳も載せてありますので、ぜひご参照ください)。

 

ここでも、「主人公」は「さすらい人」です。

シューベルトにとって、「さすらい(人)」は「永遠のテーマ」でした。この曲も大変抒情的な曲だと言えますが、「生き生き」とした中にも、一抹の「寂しさ」を感じるのは、その「さすらい人」の「孤独感」によるものです。

 

この「さすらい人」は、その「さすらい」の「謎」について語っています。また、その「色彩感」溢れる描写も大変見事なもので、シューベルトの曲は、まさに、それらを「映像化」して見せてくれるようにも思えます。

 

第4曲「セレナーデ」 Standchen

 

シューベルトの歌曲の中でも、「最もよく知られている作品の1つ」とも言える有名な曲、「セレナーデ(小夜曲)がこれです。ヘルマン・プライの歌唱映像でも、前曲「春の憧れ」に引き続き歌われていますから、こちらもぜひどうぞ。

 

ギターやリュートを思わせるピアノの伴奏は、「こだま」のように、歌に寄り添います。

 

普段、バリトンの「低い」音色を好む私ではありますが、下の動画のペーター・シュライアー(1935-)(日本語字幕付き)や、エルンスト・ヘフリガー(1919-2007)、フリッツ・ヴンダーリヒ(1930-66)といった、名テノール歌手による歌唱も非常に魅力的です。

 

ペーター・シュライアー(日本語字幕付き)

 

「夭折の天才歌手」フリッツ・ヴンダーリヒ。

 

第5曲「すみか(わが宿)」 Aufenthalt

第6曲「遠い地にて」 In der Ferne

 

この2曲は、歌曲集「冬の旅」op.89, D.911を思わせる、とても「荒涼」とした曲であると言えます。ここでも、シューベルトの「さすらい人」は、さすらうその「大自然」こそが「すみか(わが宿)」だと語り、「この岩が大昔からあるように、僕の苦しみは永遠に変わらない」と歌います。

また、

「遠い地にて、故郷を忘れてさまよう者には、幸福はついていくことがない」、とも歌われています。

 

恋に破れて「遠い地」を行くその様子は、まさに、「冬の旅」の世界です。

 

第7曲「別れ」 Abschied

 

楽しい生活を送った街に別れを告げ、馬車に乗って、はつらつと旅立つ様子が描かれています。その「馬車」の歩みは、「冬の旅」での「郵便馬車」をも思わせます。

 

「明るい」曲のようにも見えますが、執拗なくらいに繰り返される「Ade! (さらば!)」には、むしろ、「(街への)別れに対する未練」が感じられると、ウィキペディア(日本語版)には書かれています。

 

以上が、レルシュタープの詩による、「前半7曲」となります。

 

レルシュタープは、当初、この詩集への作曲を、シューベルトではなく、ベートーヴェン(1770-1827)に依頼していました。2人は、面識があったかどうかは定かではありませんが、レルシュタープ自身は、自作の詩集を、ベートーヴェンのもとへ送っていたということです。

 

そのうち、ベートーヴェンは世を去ることになり、作曲されたかどうかも分からないまま、詩集は「行方不明」になったと思われていましたが、その後、「シューベルトの作曲」として楽譜が出版されたことに、レルシュタープは、大変驚いたということです。

 

レルシュタープは、ベートーヴェンの秘書でもあった、アントン・シンドラー(1795-1864)から、シューベルトに詩集が渡った経緯について説明を受けたということですが、詳しいことはよく分かっていないようです(当時のベートーヴェンも、「体調不良」が続いていたため、シューベルトに作曲が委ねられたということのようですが...)。

 

レルシュタープの詩による7曲は、原詩の順番どおりに並んでいるということですが、シューベルトは、これらに先立つ1828年4月に、彼の2編の詩に作曲をしています。

その1曲、「Lebensmut "生きる力(生きる勇気)"」D.937は、「24小節」までで「未完」に終わりましたが、もう1曲、「Herbst "秋"」D.945は「完成作品」として残っています。

 

そのため、この「秋」D.945は、「白鳥の歌」に加えるべきだという意見があり、楽譜によっては「補遺」の形で掲載されているということです。

 

1984年から1985年にかけて録音された、20世紀を代表する名バリトン、ヘルマン・プライ(1929-98)による「白鳥の歌」のCDでは、このレルシュタープの詩による作品群の最後(8曲目)にこの曲が置かれています。

 

こちらが、その「秋」です。

http://www7b.biglobe.ne.jp/~lyricssongs/TEXT/S1932.htm(「秋」の歌詞対訳)

 

次の歌唱映像は、「秋」を含む「全15曲版」ですが、最初にザイドルの「鳩の便り」D.965A、次いで、「ハイネ歌曲」(全6曲)が歌われ、最後に「レルシュタープ歌曲」となっています。

 

ここでは、「秋」は「遠い地にて」と、最終曲「別れ」の間に挿入されています(テーマ的に、この方が良いと思います)。

「46分48秒ごろ」からの開始となります。

 

それでは、以下に、「春の憧れ」の歌詞対訳を載せておくことにいたしましょう。

 

「ドイツ語」ですので、先述のヘルマン・プライのCDのものからお借りいたしましたが、「原詩」に関しては、「手書き」のため、ドイツ語特有の表記、「エスツェット」については、代替表記の「ss」にて、「ウムラウト」(変母音)については、表記を「省略」しています。

 

次回は、違う話題もはさむと思いますが、残りの「ハイネ歌曲」、ザイドル詩の「鳩の便り」D.965Aについても書いてみたいと思います。

 

それではまた...。

 

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Fruhlingssehnsucht  春の憧れ

 

Sauselnde Lufte wehend so mild,

Blumiger Dufte atmend erfullt!

Wie haucht ihr mich wonnig begrussend an!

Wie habt ihr dem pochenden Herzen getan?

Es mochte euch folgen auf luftiger Bahn,

Wohin? Wohin?

 

さわやかに吹き、ざわめく風よ

大気にみなぎる花の薫りよ!

おまえたちの挨拶の、なんとうれしく思われること!

この脈打つ胸におまえたちは何をしたのか?

風に乗っておまえたちについて行きたい!

どこへか? どこへか?

 

Bachlein, so munter rauschend zumal,

Wollen hinunter silbern ins Tal

Die schwebende Welle, dort eilt sie dahin!

Tief spiegeln sich Fluren und Himmel darin

Was ziehst du mich, sehnend verlangender Sinn,

Hinab? Hinab?

 

水音高く小川が流れ

銀色に輝いて谷間に下る

波が飛ぶように流れすぎる!

その底深く草原と空が映っている

なぜ僕を誘うのか、憧れ求める心よ

下へと? 下へと?

 

Grussender Sonne spielendes Gold,

Hoffende Wonne bringest du hold,

Wie labt mich dein selig begrussendes Bild!

Es lachelt am tiefblauen Himmel so mild

Und hat mir das Auge mit Tranen gefullt,

Warum? Warum?

 

照りかける太陽の金色の戯れよ

希望の歓びをおまえはもたらしてくれる

おまえの幸せな姿が、なんと僕を力づけることか!

紺碧の空からやさしくほほえみかけ、

僕の目を涙で充たす!

なぜなのか? なぜなのか?

 

Grunend umkranzet Walder und Hoh

Schimmernd erglanzet Blutenschnee

So dranget sich alles zum brautlichen Licht;

Es schwellen die Keine, die Knospe bricht;

Sie haben gefunden, was ihnen gebricht;

Und du? Und du?

 

緑に覆われる森や山!

輝いて舞う花吹雪!

すべてが婚礼をことほぐ光となり、

若芽はふくらみ、つぼみは破れる

すべて、自分に欠けたものを見出したのだ

だがおまえは? だがおまえは?

 

Rastloses Sehnen! Wunschendes Herz,

Immer nur Tranen, Klage und Schmerz?

Auch ich bin mir schwellender Triebe bewusst!

Wer stillet mir endlich die drangende Lust!

Nur du befreist den Lenz in der Brust

Nur du! Nur du!

 

絶えることのない憧れ! 戦い求める心よ

いつまでも涙と、嘆き、苦しみばかりなのか?

僕にも衝動の高まりが感じられる!

この激しい欲求を静めてくれるのは誰なのだろう?

あなただけがこの胸に春を解き放ってくださるのです

あなただけが! あなただけが!

(訳:石井不二雄)

 

 

 

 

参考:こちらは、エルンスト・ヘフリガー(テノール)のCDです

 

(daniel-b=フランス専門)