第1回目のパリ&ブリュッセル(2008)旅行記の連載途中ではありますが、意外と長引きそうで、先にこの日を迎えることになってしまいました。

本日「10月9日」は、フランス・シャンソン界の3大巨匠の1人ジャック・ブレル(1929-78)の「命日」となります。旅行記の「その1」(5日付け)でも書いているように、この旅行の「最大のきっかけ」とは、「2008年」のこの日が、まさに、「没後30周年」の記念の日に当たることから、「是が非でも行こう」と思い立ったからです。

それまでは、「1人で海外なんて...」と、「金銭面」もさることながら、「言葉の不安」「治安」「環境の変化」などで、二の足を踏むことが多かったのですが、この時ばかりは、「不退転」の決意で臨んだことは、すでに書いた通りです。ですから、旅行記の「番外編」のような感じで読んでもらえると「ありがたい」と思います。

今回紹介する曲は、そのジャック・ブレルが、「最晩年」に発表した、「至高」のラストアルバム「les Marquises "遙かなるマルケサス諸島"」(1977)の中の1曲、「Orly "悲しみのオルリー"」です。

アルバムタイトル自体は、単に「BREL」となっており(「les Marquises」は、現在の「通称」です)、日本での発売時には「偉大なる魂の復活」となっていました。ブレルは1974年12月に、「肺がん」の手術を受けており、その後は、愛用のヨット「アスコイ」号を操りながら、残りの人生を考えていたということです。1976年には、南太平洋のマルケサス(マルキーズ)諸島を「終焉の地」と定め、その主島であるイヴァ・オア島に居住して、地元の住民のためにつくしました。このように、「表舞台」からはすでに遠ざかった感のあったブレルが、突如としてパリに現われ、「極秘裡」に録音して、世間を大いに驚かせたのが、このアルバムというわけで、それが、邦題の由来となっています(アルバムとしては、9月21日付けで紹介した、1972年の「ne me quitte pas "行かないで"」以来、5年ぶりで、「完全新作」ともなると、前回は、1968年の「j'arrive "孤独への道"」までさかのぼることになります)。

このアルバムは、「オリジナル」は、全12曲となっていますが、この他に、5曲と、2編の「モノローグ」が録音されています。それらは、「もう1度手直ししてから」、翌年にも予定されていた「新作アルバム」に収録するかどうか決めるということでしたから、ブレルが世を去って以降は、完全に「封印」されたも同然となっていました(ブレル自身が「完成」と認めた作品もありますが、それは、その中の、たったの2曲にとどまりました)。

ブレルが生きていれば、「破棄」されていたかも知れないそれらの作品ですが、2003年に5曲のシャンソンが、次いで、2013年までに、2編のモノローグが、「やっと」と言うか、「ついに」と言うか、「解禁」となっています。

この他にも、何かと話題の多いこの「ラストアルバム」ですが、数日のうちに「ミリオン」を達成したとのことで、いかに「待望されていたか」がよく分かります。しかし、彼は、このちょうど1年後の、1978年10月9日午前4時ごろ、「肺血栓」のため、パリ郊外の病院で亡くなりました。49歳でした。思うに、この「レコーディング」(「絶唱」です)が影響したことは間違いないでしょう...。

今回、フローラン・パニー(1961-)、イェルン・ウィレムス(1962-2012)によるカバー、および、その他のインタヴューも載せるつもりでいましたが、「原曲」そのものをまず聴いていただきたいため、すべて見送りました。パニーは、2008年に、ブレルのカバー・アルバムを出しており、そのプログラムによるライヴを、オランピア劇場で行なっています。私も、ちょっと興味はあったのですが、日程的に合わなかったため、断念しました。

オランダの歌手、ウィレムスについては、5月26日付け(特別編)で採り上げており、その2番目の動画に、この曲が含まれています(4分35秒ごろより)。オランダ語ヴァージョンのため、タイトルが、「Schiphol "スキポール"」となっています(「オルリー」も、「スキポール」も、国際空港の名前/所在地です。「スキポール空港」は、オランダの首都、アムステルダムの、「空の玄関口」となります)。

かつては、日本からの航空機も発着していたという「オルリー空港」ですが、現在では、ヨーロッパ域内、中近東、アフリカ、カリブ海方面への便が発着しています(思うに、「日本航空」が抜けた後の、現在のシャルル・ド・ゴール空港「ターミナル2F」のような感じです。治安は、「あまり良くない」と言われます)。

空港は、「人生の縮図」とも言われます。
この曲は、ブレル自身の詞・曲によりますが、あの「les feuilles mortes "枯葉"」(1946)以来、「最も美しい別れの歌」だと絶賛されています。歌詞の中に出てくる「ベコー」とは、同時代の有名なシャンソン歌手ジルベール・ベコー(1927-2001, 「そして今は」「メケ・メケ」などが有名で、「ムッシュ10万ボルト」のあだ名があります)のことですが、彼の1963年の作品「dimanche a Orly "日曜はオルリーで"」を引き合いに出しています。
フランソワ・ローベール(1933-2003)によるアレンジも、とても重厚で、「シンフォニック」な響きがあります。

とても「重い」曲で、「辺り一面闇の中」のような感じすらしますが、これこそが「最晩年のジャック・ブレル」です。じっくりと、かみしめて聴いていただきたいと思います。

以下に歌詞を載せておきます。今回は、日本盤に掲載された、永瀧達治先生の名訳をそのままお借りします(多少のアレンジはあります)。

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ils sont plus de deux mille
et je ne vois qu'eux deux
la pluie les a soudes
semblent-ils l'un a l'autre
ils sont plus de deux mille
et je ne vois qu'eux deux

彼らは2,000人以上いる
そして、私には、彼ら2人しか見えない
雨が彼らを接合してしまった
彼らは、互いに似ているではないか
彼らは2,000人以上いる
そして、私には、彼ら2人しか見えない

et je les sais qui parlent
il doit lui dire "je t'aime"
elle doit lui dire "je t'aime"
je crois qu'ils sont en train
de ne rien se promettre
ces deux-la sont trop maigres
pour etre malhonnetes

彼らが何をしゃべっているかも分かっている
彼は、彼女に "ジュ・テーム"と言い、
彼女も、彼に "ジュ・テーム"と言う
私が思うには、彼らは、何の約束も
取り交わしていないようなのだ
そこの2人は、「不誠実」になるには
あまりに痩せている

ils sont plus de deux mille
et je ne vois qu'eux deux
et brusquement il pleure
il pleure a gros bouillons
tout entoures qu'ils sont
d'adipeux en sueur
et de bouffeurs d'espoir
qui les montrent du nez

彼らは2,000人以上いる
そして、私には、彼ら2人しか見えない
そして、突然、彼は泣きだす
彼は、わんわんと泣き出す
汗にまみれた、
脂肪質の人間たちに取り囲まれて
そして、再び現れる
希望のかげり

mais c'est deux dechires
superbes de chagrin
abandonnent aux chiens
l'exploit de les juger
la vie ne fait pas de cadeau
et nom de Dieu c'est triste Orly le dimanche
avec ou sans Becaud

だが、その傷付いた2人は
とてつもない苦悩
犬たちにくれてやる
彼らの審判の令状
人生には贈り物などありはしない
日曜のオルリーはなんて悲しいんだ
ベコーがいてもいなくても

et maintenant ils pleurent
je veux dire tous les deux
tout a l'heure c'etait lui
lorsque je disais "il"
tout encastres qu'ils sont
ils n'entendent plus rien
que les sanglots de l'autre

そして今、彼らは泣いている
つまり、「2人とも」ということ
先ほどは彼だった
私は、ちゃんと「彼」と言っておいた
彼らは、まったく人目も気にすることなく
相手のすすり泣く声しか
何も聞こえていない

et puis, et puis infiniment
comme deux corps qui prient
infiniment lentement
ces deux corps se separent
et en se separant
ces deux corps se dechirent
et je vous jure qu'ils crient

それから、それから限りなく
まるで、2つの身体は祈るように
限りなくゆっくりと
その2つの身体は別れてしまう
別れながら
その2つの身体は裂かれてしまう
確かに、彼らは叫び声をあげる

et puis ils se reprennent
redeviennent un seul
redeviennent le feu
et puis se redechirent
se tiennent par les yeux

そして彼らは、また繰り返す
ひとつに重なり
ひとつの炎となる
それからまた引き裂かれる
見つめ合いながら

et puis en reculant
comme la mer se retire
ils consomment l'adieu
ils bavent quelques mots
agitent une vague main
et brusquement il fuit
fuit sans se retourner
et puis il disparait
bouffe par l'escalier
la vie ne fait pas de cadeau
et nom de Dieu c'est triste Orly le dimanche
avec ou sans Becaud

そして、まるで潮が引くように
後ずさりしながら
別れの言葉を放つ
言葉を濁しながら
あいまいに手を振って
突然、彼は立ち去る
振り向くこともなく去る
そして、彼は消え去る
階段の陰に隠れてしまう
人生には贈り物などありはしない
日曜のオルリーはなんて悲しいんだ
ベコーがいてもいなくても

et puis il disparait
bouffe par l'escalier
et elle, elle reste la
coeur en croix, bouche ouverte
sans un cri, sans un mot
elle connait sa mort
elle vient de la croiser
voila qu'elle se retourne
elle se retourne encore
ses bras vont jusqu'a terre
ca y est, elle a mille ans

そして、彼は消える
階段の陰に隠れてしまう
彼女は、彼女は佇んでいる
苦難の心、開かれた唇
叫ぶことも、話すこともなく
彼女は、彼女の「死」を知っている
彼女は「死」に出合ったところ
そこで彼女は振り返る
もう1度、振り返る
彼女の腕は、大地に届かんとばかり
果せるかな、彼女は1,000歳...

la porte est refermee
la voila sans lumiere
elle tourne sur elle-meme
et deja elle sait
qu'elle tournera toujours
elle a perdu des hommes
mais la elle perd l'amour
l'amour le lui a dit
revoila l'inutile
elle vivra de projets
qui ne feront qu'attendre
la revoila fragile
avant que d'etre a vendre

扉は再び閉じられ
彼女は、明かりもなく佇む
自分自身に目を向けると
すでに彼女は知っている
いつまでも自分と向き合うことを
彼女は男たちを失った
そして今、彼女は、「愛そのもの」を失う
愛は彼女に言った
「ほら、また無駄なこと
待たされることしかない
予定のもとに生きるだろう
ほら、また、傷付きやすい
売り物になるその前に」

je suis la, je la suis
je n'ose rien pour elle
que la foule grignote
comme un quelconque fruit...

私はここにいる、彼女に従う(ついていく)
私は、彼女のために、何もしようとはしない
群衆は(かじる)
まるで、何かの果物のように...

(daniel-b=フランス専門)