仮面ライダー電王の佐藤健くん主演で「るろうに剣心」を映画化すると聞いた時、日本中のオタクたちが「う~ん、オレのイメージとはちょっと違うけど、今の日本で、これ以上のキャストは思いつかないな」と、上から目線で唸ったことだと思います。
(※私も唸りました)
ぜひ映画館で観ようと思っていたのですが、仕事の忙しい時期と重なったりして延び延びになっているうちに公開時期を逃してしまい、先日やっとDVDをレンタルしました。
冒頭
「おっ・・・なかなか、いい感じやん」(※上から目線)
前半
「ちゃんと、まとまってるじゃないですか」(※ちょっと敬語が入ってくる)
中盤
「面白いと思います」(※だんだん下から目線になってくる)
後半
「まいりました!」(※白旗)
2時間ちょっとの長い映画ですが、実に有意義な時間を過ごすことができました。
日本のマンガ、アニメの実写化作品の中では、おそらく最高の作品の一つです。
(少なくとも「ヤッターマン」、「ゲゲゲの鬼太郎」よりは楽しめると思います)
映画館で観なかったのを後悔しました。こういう作品は、みんなで協力してヒットさせないといけません。未見の方は今からでも遅くないので、ぜひDVDを借りてください。
(その時は、ぜひ武雄のスクエアで借りてください)
で、・・・これだけ絶賛しておいて急にこんな事を言い出すのはアレなんですが・・・。
こんなに面白いのに、最後まで見終わった後、何か心の中に、すっきりとしないものが残るんですよね。
あんなに楽しんだのに、映画の中に忘れ物をしてしまったような感覚が残るのです。
ネットでの評価を見てみると「原作と違うところがある」とか、「アクションがハリウッドより一段落ちる」とか、「配役が合っていない役がある」とか、いろいろな事が言われています。
でも、どれも映画の出来から考えると、目くじらを立てるようなことではないと思います。
どうやら、ある割合の観客が「何かスッキリしない」と感じているようなのですが、その理由を発見できずにイライラして、些細なことにツッコミを入れて自分を納得させようとしているような・・・そんな雰囲気があるようです。
(考えすぎかな?)
私自身も、スッキリしない感じが何なのかわからず、もやもやしていました。
・・・でも、このもやもやした感じ、どこかで同じような感覚を味わったことがある気がする。
ぬるぬるしたような・・・くねくねしたような・・・黒くて、つかみにくい・・・
あっ・・・「うなぎ」だ。
今村昌平監督の「うなぎ」を観た後の感覚に似ているのです。
そういえば、「うなぎ」も「るろ剣」も、背骨にあるテーマは「過去に殺人を犯した人間が、現在で幸せを手に入れてもいいのか?」という問いかけです。その問いに、2時間かけて答えて行く映画なんですね。
気を付けて観てみると、「うなぎ」と「るろ剣」は驚くほど構成が似ています。
「作品のトーンをぶち壊しかねないくらいの残虐な過去を見せつけて主人公の罪を糾弾する冒頭シーン」
「それから数年後が経ったところから本編が始まる」
「主人公の過去を薄々感じながらも受け入れる人々の登場」
「幸せな日常を手に入れようとする主人公の前に過去を知る人物が現れて邪魔をする中盤以降の展開」
「主人公と同じように後ろ暗い過去を持つ女性を助けることが終盤のストーリーの要になっている」
そっくりやんけ。
そして、映画のラストで主人公は一体どうなるのか・・・それをここで書くのはネタバレが過ぎるのでやめておきますが、「うなぎ」も「るろ剣」も、よく似たハッピーエンドを迎えることになります。
このハッピーエンドを私なりに解釈すると「過去の罪が消えることはない。罪に苦しみながら、幸せを求めて残りの人生を生きて行け」ってコトです。
これじゃあ、すっきりしませんよね。
「るろうに剣心」のなんだかスッキリしない感じは、作品の不備によるものではなく、作品のテーマによる不可避のものなんじゃないかと、私は思います。
実は、エンターテインメント作品じゃなくて、もっと哲学的な作品だったんですね。
ついでに言うと、武井咲さんの演技があまりよくないという意見もあるようですが、私はそうは思いません。
原作の2エピソードを1つにまとめて映画化しているので、ヒロインの役回りが二人の登場人物に振り分けられてしまいました。そのため、それぞれのキャラクターを描く時間が足りなくなってしまうし、1本の映画なのに終盤に2回ヒロインを助けに行くというわかりにくい展開になってしまっているんですね。
(そう見えないように非常に工夫されていて、その点は感心したのですけれど)どうしても2回目は蛇足に見えてしまいがちですから、結果として一番割を食ったのが武井咲さんだったというだけだと思います。
もう一つ原因があるとすれば、佐藤健くんが優男すぎて、武井咲さんのかわいさが今一つ引き立っていないせいではないでしょうか。
どちらにしろ、武井咲さんの責任ではありません。
悪いのは男の方さ。