前略、おふくろ様(と、お父さんと弟達2人。)


元気ですか。きっと、急にいなくなった私の事、とても心配しているでしょう。
けれど心配しないで下さい。私は姉と2人(----アッと、お母さんに対してこういう言い方していいのかな、)、元気にやっています。これからもできる限り梨華を助け、2人して行けるところまで頑張るつもりです。


そんなことより、あの土手を覚えていますか?そうだよ、家の近くの。家族みんなでよく行きましたね

私がまだ小さい頃、川はまだ結構キレイで、夏は水に入って遊んだ。秋は枯れた芝生の土手をダンボールとか、時にはプラスチックのそりで滑ったりして。
春はセリやヨモギをつんで、草餅や炊き込みご飯にして食べたね。あの冬の、街中を騒がせた枯れ草の大火事、じつはあれが、たき火をしようとした私と弟達の仕業だと知ったら、お母さんは怒りますか。


川に囲まれた平和な街から、私は、そして梨華も、ずいぶん遠くまで来てしまった。
もう2度と戻ることはないでしょう。
でもなにげに明日にでも捕まってしまって、もしかしたら案外すんなりと、そこでまた暮らす日が近いうち来るのかも知れません。
わからない、わたしには。梨華を守って信念に従い、ただひたすらゆくだけです。


あの川、あの風。はっきりと覚えているんだ。幅の広い土手に架かった、大きな鉄橋も。頭上を駆け抜けてゆく電車の轟音も。西の空に見える山脈、夕焼け。
そしてこっちがわで煌めく、小さな市街の明かりも。


お父さん、お母さん。
あの記憶を私が失うことは一生ありません。
幸福に、丈夫に育ててくれてありがとう。
そしてごめんなさい。


私は今日、薬物に手を出します。



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