私達のそんなやりとりを、すました笑顔で矢口さんは見ていた。且つそのすました笑顔の矢口さんを、ひそかに私が見守っていた。
(どんな人と、結婚するのかな‥。)
今では私の一番の興味も、そこへ移っている。何故、結婚をするのか、と、いうことについてはきっと私にはわからない、矢口家の由緒正しき事情のようなものがおそらくあるのだろうと、すでに納得している。
本当のことをいうと私は、こんな質問を矢口さんはいつもの声で笑い飛ばすだろうと考えていた。こういった一歩踏み込んだ質問に、矢口さんはこれまで、答えた事がなかったから。


けれども違った。矢口さんはきちんと答えた。


「かっこいいよ?頭いいのに、けっこうワイルドでね? あと、すごい優しい。」
(特有の視線は混乱を促す。意地悪で可愛くて、スマートで瀟洒な。)


店を出る直前、店内の雰囲気にすっかり慣れた梨華は、一度手洗いへ立った。
店は一応IDをチェックしているし、なにより矢口さんが安全と何度も太鼓判を押した。いくら安全とはいえ通路の奥までひとりで行かせるのはやっぱり少し心配だったけれども、矢口さんと2人きりになったこの機会を利用して、私は矢口さんに、ひとつ頼みごとをした。
「あの、クスリが欲しいんです‥、使ってみたいんです‥、一度。」
「ハァ?」



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