「えーとさ、」
矢口さんは話し出す。


飯田さんたちと海に行った日、あれを最後に矢口さんとは会っていなかったから、およそ3ヶ月弱。電話で話していたせいもあるのだろうけれども、そのブランクを感じさせない矢口さんの口調だ。表面的には。


「とりあえず、その格好はどうしちゃったの? しばらく会わないウチに2人とも趣味変わった?よっすぃはヤケに女の子っぽいし、梨華ちゃんはすんごいボーイッシュだし。マジ最初わかんなかったんだけど?」
と、笑った。それが照れ隠しなのだと、私も梨華もちゃんとわかっているけれど。
「席はいちおう入り口で聞いたけどヤグチ背低いしー。近付かないとわかんないしー。」


すると、梨華が、
「少し変装しようかなって‥。似合います?」
パーカーのフードを立てつつ、キャップを被ったまま、服装に合わせて低い声を出そうとした。けれど甘いシャーベットのような感じは、やっぱりどうしても残ってしまった。


「うん、‥まあ似合う。そう、新鮮だけどね。」
「ひとみちゃんも、ホラ。なんか、カワイイでしょう?見てこのヒザ小僧!そしてこの前髪!」
「うん、キャワイイ~よっすぃ~。なんかオトメって感じ。ホれちゃいそう!」
そう言って矢口さんは私にキッスを投げた。そして私も。


「OH, マ~リ~。よせよせ真里~。じゃ今夜(きょんや)待ってます。このコにはナイショで。」
なんつって。いつもの事だ。
「キッツー。」
と、矢口さんが言った。
「大変だな、ワタシは。‥ほんっと、どこ行っても。」
と、梨華も言った。
そんなのはほんとに、いつもの流れだからべつに。



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