「矢口さん、」
私は深呼吸をして、問われる前に話を始めた。
「昨日、警察って名乗る人に、ウチら、いろいろ絡まれて‥。家を出てすぐくらいから、ずっと後を‥、尾けられてたみたいです‥。手帳とか見せられて、なんか本物っぽかったし、きっとホンモノの刑事なんだと、私は、思ったんですけど。」
「う‥ん。」
理由を聞いた矢口さんもやっぱり戸惑ったみたいだった。言葉としては冷静なものが返って来たのだけれど、発声の仕方が矢口さんとしてはぎこちなかった。
「でも、逮捕っていう雰囲気じゃなくて、なんていうか、狩られる‥っていうか、追い詰めて、楽しんでる、みたいな‥。ヘンなチンピラっぽい若い仲間連れてたし、とにかく気味が悪いんです。」
「それで‥?」
「それから‥。私達のこと‥、随分知ってるみたいでした‥。」
能面のようだった男の顔を思い出した私は、話ながらいつのまにか汗をかいていた。
いったん言葉を切って額を拭うと、眉間に皺をよせた梨華の顔が目の前にはあった。
私の膝の上にある華奢な梨華の手は先程から固く握りしめられていたが、私と目が合った瞬間に梨華はハッとして、思い出したようにその力をゆるめた。
私はいちど息を吸った。
「ねえ、矢口さん‥。」
「何?」
「私ヒトを、撃っちゃいましたよ‥。昨日‥。」
矢口さんは何も言わない。
「でも不思議と、後悔してないんです‥。」
「‥そう。」
ほんのしばらく黙ったあと、矢口さんはそれだけ答えた。
私からも梨華からも、それに電話の向こうの矢口さんからも、不思議な程何も言葉が出なかった。みんなそれぞれに考え込んで、次に何を言うべきなのか、探していた。
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