「名前とか知られてたし、言わなきゃな、って思ってたけど。なんか。
言ったら、悪いことが‥、本当に起こりそうな気がして‥。」
さっき電車の中で感じた開襟シャツ男への恐怖を、私は思い出していた。
なんとなく、わかるような気がする。
「そう‥。でも今度からは、ちゃんと言ってよね。私もなるべく、全部りかっちに言うようにするから‥。」
「さて。どうしたもんかね‥。これから。」
私が考え込んでいると、梨華が状況を、ゆっくりと整理していった。ぽつぽつと紡ぐ梨華の言葉に、私はいちいち頷いたりした。
「家に帰るのは‥、危険だよね。場所とか‥、だって知られているんだもん‥。」
「うん。」
「ホームには‥、カメラがあったね‥。私たちが撃ったこと‥、映っちゃってるのかなあ‥。バレちゃうのかしら‥。」
「うーん‥。」
そう、返事をしつつ私は、なにげなく囁かれた梨華の言葉に少し驚き、まじまじと梨華を振り返った。
彼女は、優等生だったはず。
「え?何‥?」
ふと感じた違和感に私はしばらく目を見張っていたから、梨華は不思議そうに聞き返した。そんな彼女はまだ、自分の言葉のおかしさに、少しも気付いてはいない。
「なんかさあ、りかっち変わった?」
「え?」
私の言葉に、動揺した素振りを見せる。
「なんか、『バレるとかバレないの問題じゃないモン』とか、そういうノリじゃなかった?昔?」
「え、うーん‥。まあ、どっちかって言ったら‥。」
「てゆうか、絶対そうだったよ。真面目で、お嬢様だったじゃない。」
からかうみたいな私の口調に、梨華は少し照れたように笑った。
「そうだね。私、変わったかもね。」
白い歯をこぼし、まっすぐ私を見つめて、直後、ハッとしたように真顔になる。
「え、ちょっと待って。ダメ‥?」
「ううん。いい。なんかかっこいいってカンジ。」
出会ったばかりの頃は、虫も殺さないお人形さんだって、私は思っていたんだよ。
「私が金髪を撃った時‥、りかっち、嬉しそうな顔したでしょう。」
「うん。‥でもね私。変わったって言っても、ひとみちゃんを巻き込んでしまったことに‥、やっぱり罪を感じずにはいられないの、今でも‥。
でもあの時は。ひとみちゃんがあいつを撃って、私を助けてくれたときは。
本当にちょっと嬉しかった‥。まだ一緒にいられるんだなって‥。
ごめんね。私のせいでひとみちゃん、人撃っちゃったりしたのに‥。喜んだりして、ほんとうに勝手だよね‥。私といると、ひとみちゃんもどんどん変わっちゃうね‥。」
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