梨華は靴を脱ぎ内部にしゃがみこんだ。私は特に理由もなく、ドアの内鍵をなるべく静かにおろした。
「警察だ、って‥、言ってたよアイツが‥。」
脇に腰を下ろしながら、梨華にまずそう伝えた。壁に背中を寄せながら彼女の反応を待ってみたが、ただ無言に頷かれただけ。梨華がずっと壁を見ているから、私ひとりが喋っていた。


「でもおかしいよね。リーダーっぽい男はともかく‥。若い2人はどう考えても違う。だってさ‥、金髪とかタトゥーとか、そんな警察いるわけないじゃん。‥ねえ?」
私の舌はいつもより数段滑らかに動いていた。次から次へと言葉が浮かんだ。


そのくせ頭の中で私は
(鏡に映った私達がなんだか4人もいるみたい。)
とかなんとか、ひどくちぐはぐな事を、思ったりもしている。
「この間りかっちがケガしたから‥。それになんか‥、様子もおかしかったし、だから今日、ピストル持って来てたんだ。‥でも持って来て良かったよね?‥ね。なかったら大変だったよね。」


要するに興奮していた。
しばらくペラペラと話し続けていた私だったが、梨華が壁から目を離して私の方へ顔を向け出した頃から、だんだんと苦しくなっていった。


膝を抱えて壁に寄りかかる。私達2人はいつの間にか、同じ体勢で座るようになっていた。膝の上に組んだ私のひじの辺りに、ためらいがちな視線を梨華が固定した頃ともなると、既にだいぶしどろもどろだった私は、沈黙のほかに取る道がなくなった。


個室内にも冷房は効いているはずだったけれど、温度が少し高いように感じた。重苦しい時間のみが静かに流れる時間が流れ、そっと盗み見た梨華の唇が、かすかに薄く開かれていた。なにか言いたげ。タイミングをじっと、懸命に測っている様子。
やがて梨華は、息を吸い込んだ。反射的に私は一度、まばたきをする。
それから先手を打ってしまって梨華が切り出す前に、自ら核心に触れた。
すなわち、人を撃ってしまったこと。
ため息交じりの言葉に梨華は、今度は静かな返事をかえした。


「やっちゃったよ私‥、とうとう‥。」
「うん‥。」
「撃ったとき‥。あんまり、実感がなかったんだ。」
「そう‥。」

「ひとみちゃん‥。」
「なに?」
そう切り出したのは梨華。声にはなんらかの、追い詰められた調子が随分混ざっている。自然と顔を向ける私。
「ごめんね、私。いつもなんか‥。弱くて‥。」
「いいよべつに‥。」
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