午後4時をまわった時間。
急行が停まらない私達の最寄り駅は、朝のラッシュ時を除くとあまり混み合ったりすることがない。しきりに汗を拭きながら携帯で話すサラリーマン、肉色のストッキングを履いたおばさん、私達を含め上り線を待つ人々は静かに、そして測ったような等間隔を置いてプラットフォームに立っていた。
やがて、アナウンスを伴って構内に滑り込んだ銀色の車両に私達は乗り込んだ。駅同様、車内はあまり混雑していない。ドアを入ったすぐのところに苦もなく空席を見つけて、私は梨華と並んで座った。
カタコトと音を立て、まるで終点など無いように淡々と電車は進んでゆく。車内は冷房が効いていて、外の不快な蒸し暑さはほぼ完璧にシャットアウトされていると言ってよかった。梨華はお行儀よく座り、移りゆく車窓にじっと目を向けている。その横で私は車体の天井を見上げた。この快適な空気がいったいどこから運ばれてくるのか、送風口の位置を確認したい気持ちになったからだ。
送風口はなかった。
-------ただれた日常・後藤真希(15)の交友関係!!
正確に言えば、そう誇らしげに印刷された車内広告の陰にかくれて、私の座る位置からは見ることができなかった。おそらくはその裏側から、快適な風は付近一体に運び込まれている。その証拠に、びっしりと文字がつまった芸能週刊誌の派手派手しい広告が、車体の揺れとは別な一定の間隔でひらひらと揺れている。
中央のひときわ大きな見出しの横には「関係者30人の証言!」とかなんとか、過激なピンク色の文字が添えられていた。苦々しい気持ちでしばらく見つめるうちに、私は顔を上げた本来の目的を忘れてしまった。
正面に座る男と目が合ったのは、憤懣やる方ない私が例の広告からプイッと視線を逸らした時だ。
「ねえ、りかっち------」
本当は、真希ちゃんは-------、といったような感じで始まる、メディアですら解ききれない論争を、梨華に持ちかけようとした矢先。正面に座る男(この男が私たちと同じ駅にいて、私たちに続き同じドアから車両に乗り込んだ事を、私は覚えていた)が薄笑いを浮かべて私達を見ていた。
Part22へ