結局、保田さんに悪気はなかったという事で、決着がついた。

今回の事件は乗り越えるのに多少苦労したけれど、そのおかげでより深い絆を私達は得る事ができた、というような感じの私の言葉に、梨華も納得した。


「わかってくれればいいのよ‥。でも本当にゴメンね。私も、軽はずみだったわ‥。」
「いいえ、私こそ‥。久しぶりに母に会えて‥、実はちょっとだけ嬉しかったんです‥。」
梨華は少し涙ぐんだ。腕を組んだ私は、ただ頷いた。
「さて。湿っぽいハナシは嫌いよ。もう行かなくっちゃ。」
保田さんは鼻をかんだ。


「最後に、言っておく。」
外していたサングラスを再びかけ直してから、呟いた保田さんの言葉は、とてもあたたかい物に聞こえた。
「私は‥、アナタたちを未来に連れて行くことも出来る‥。でもそうしなかった。‥理由はわかるわね?」
「ハイ。」
「何が見えたって、結局いいことないのよ。」
私達は頷いた。保田さんの瞳は、隠れていて見えない。


その後、私達3人は大通りへ出た。肩にもうひとつ荷物を提げた保田さんの為に、スーツケースは私と梨華が押してやった。
「ヘイ、タクシー!」
そう言ってさっそうと手を挙げた保田さんに、一台の空車が間もなく停まった。


「あ。」
スーツケースを後部トランクに押し込み、まさに今乗り込まんとする際、思い出したように保田さんが叫んだ。
「忘れてた。そもそもコレを渡そうと思っていたんだわ。」
差し出されたのは、白く小さな紙切れだったが、2つ折りを開いてみるとどこかの電話番号が、ボールペンで記されていた。
記された電話番号は、その数字の並びから、すぐに携帯電話とわかった。


私は言葉を発さず、保田さんを黙って見上げた。
「いつか‥。もし本当にピンチが来たなら‥、それを使いなさい。きっと助けてくれる。」
そう、微笑みながら言って保田さんは車内に乗り込み、直後、バタンと固い音を立てて、タクシーのドアは閉まった。


「アディーダース!!!」
保田さんのそんな嬌声とともに、車は発進した。
それを言うならアディオスだろう。と、私は思ったけれど、なんとなく感慨深いものもあって、無心に手を振り続けた。
同じく梨華も、私の横で大きく手を振っていたが、やはり無表情だった。
今後、出会いと別れを一体何回私達は繰り返すのか、そんな事を考えていた。


保田さんの残した番号。それが、その日のうちにすぐ必要になると、私達はまだ知らなかった。


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