超直前の梨華の顔は、(雨だけど)朝の、青い光にさらされて綺麗。
私と梨華の額は、あとほんの数ミリ動くと、ぴったりと重なってしまいそう。
そんな至近距離で私達は、お互いの瞳を生真面目に覗き合う。
「会えるかは解らないけど。でも会って確かめたい。」
「結婚のこと?」
「うん‥。」
「本当に矢口さん結婚しちゃうのかしら。」
そろそろ眠くなった私は、不安そうに囁いた梨華を、一度改めて抱き寄せた。
瞬間、ふと開けた視界に、天井の染みが映る。黒くぼやけた輪郭は先程よりも大きくなっていた。薄れる意識の中で私は考える。あんな感じの形、どこかで見た事ある‥。
ああ。ガン細胞に似ているんだ。
目の前には大量のゆで卵が積まれている。殻を剥くのは私の仕事だ。私はそもそも茹でた卵が大好物だから、殻を剥くのも得意なわけだ。
まず、白い小山をざっと見渡し、その中からひとつ、そこそこ大きくすべすべとしたものを選び取る。迷いはない。
カツカツ。
私は机の角を使い、表面に適当な割れ目を入れた。出来たひびに沿って殻をペリペリと剥いてゆく。慣れたものだ。今まで何個剥いたと思ってるんだ。
少しも経たないうちにつやつやした白味が、陶器がかった白い肌を露にした。
芸術的とも言える。
「これは安倍さんの分。」
そう呟いた私は脇の皿の上に、剥いたばかりの卵を加えた。皿の上には既に剥き終えたゆで卵が、実は相当数積み上がっているのだけれど、私は気にもとめない。次に剥くべき卵へとさっさと腕を伸ばす。
殻を剥くのは得意だったし、それが私の役目だ。
そうこうする間に、はやくも次の卵を剥き終えてしまった。
「これは矢口さんにあげよう。」
さて。
次はおでこで割ってみようか。
調子にのった私は手中のゆで卵をひとり眺め、秘密裏にほくそ笑んだ。殻を剥く自分の職人並みの手際の良さに、得意な気持ちがこみあげるのだ。
ゴッ。
「痛ッ。」
ペリペリペリ。
あれ?これは誰にあげるんだっけ?
私はふと考えた。予想以上の衝撃に、目には涙が滲む。
安倍さんと矢口さんの分は、もう剥いてしまった。梨華の両親までも含めて、知り合いの分は全て剥き終えている。
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